■行政書士業はクリエイティブである
「新しいソーシャルな働き方」をしている人をインタビューしていく本企画。今回お話をお聞きしたのは、行政書士の石下貴大さんです。
さすが「環境系行政書士」と名乗っているのもあり、環境ビジネス支援を軸として、産業廃棄物・リサイクル業関連の業務を中心として活動をしています。有名なテレビ番組に出演(コメント)経験もあり、また、書籍も多数出版しており、若手の行政書士の中で知名度も抜群の方です。
先日、個人事務所から「行政書士法人GOAL」という法人にし、さらなる業務拡大を進めています。平成25年度で日本の行政書士法人数が350前後しかないと考えると、目覚ましい活躍をされているのがわかると思います。
通常業務もエコロジーでソーシャル(社会志向性の高い)な活動なのですが、本業以外でも地域活性化活動の団体をしていたり、新人・行政書士のためのスクールを運営したり、今まで得たものを社会に還元し、社会を盛り上げようという活動にも積極的です。
なぜ環境ビジネス支援に特化しようと思ったのか、また、そこから見えてきた行政書士の社会貢献的な働き方とは何か。「行政書士業はクリエイティブである」という石下さんの仕事観をお聞きしてきました。
■1万種類を超える広大な業務
安藤:それでは自己紹介をお願いします。
石下貴大さん(以下、石下):出身が栃木で、大学進学のために東京にきました。大学卒業後もいわゆる司法試験の勉強をしていたのですが、なかなか受からず、29歳の時に、当時の旧司法試験がなくなりまして、制度上大きな変化がありました。で、今から大学院に行くとなっても、お金も時間もないという状況となってしまったのですが、その時に友人がしていた行政書士という仕事を知り、行政書士を目指すことになりました。
資格取得後ですが、行政書士の雇用先がなく、半ば仕方なく独立をしたというスタートとなりました。試行錯誤の連続でしたが、たくさんの方のご縁をいただき、今年で独立7年目となります。
行政書士って、名前は聞いたことがあるという人が多いと思いますが、実際の業務を知っている人はごくわずかだと思います。実は1万種類を超える業務があります。現在、総務省が発表している許認可の種類が1万3千種類以上とされており、法改正により、新しく生まれる制度もあるし、消える(変更される)制度なども、もちろんあります。
これだけ広範囲な仕事だけに、行政書士ってすごく難しい仕事みたいに思われることもあるのですが、行政手続きって意外に身近にもあるんですよ。例えば、住民票を取るとか、婚姻届を出すとか、個人でできる身近なものです。許認可のものになると、さすがに個人では専門知識もないし面倒だったりということで、行政書士がサポートをするというイメージです。
安藤:それだけ広範囲だと、キャリア形成も難しいでしょうね。
石下:僕の場合、一生をかけて行政書士という仕事で実現したいのは何だろう、と考えた時に「環境」というテーマが思い浮かびました。自然豊かな田舎出身の僕としては東京に来て、自然の美しさにあらためて気付いたというのもあり、自分は環境関連の特別なノウハウ等はないけれど、お客様の環境ビジネス支援をすることで間接的に自然保護などに貢献できればいいかなと。
ですので、独立する時一番最初に掲げたのは「環境ビジネス支援」という看板でした。しかし、環境ビジネスといっても、とても幅の広いビジネス領域です。昨今の事業環境の変化でもエコ・省エネなど、テクノロジーの進化も含めて大きく動いている領域でもあります。
■士業的な「新しいソーシャルな働き方」
安藤:環境ビジネスといっても色々ありますからね。
石下:最初は、廃棄物処理やリサイクルビジネスから入っていったのですが、今ではクリーンテクノロジーとか、太陽光パネル、ソーラーシェアリング、土壌改善、など新しい環境ビジネスがどんどん始まっています。そういった中で僕は、どういう許可や資格が必要なのかとか、どういった手続きが必要なのかなどを手探りではありますが、ゼロから作り上げていく所にやりがいを感じています。
また、環境ビジネスをしていると、ソーシャルビジネスに関わる人などとの接点をも増えてきています。起業支援ということで、株式会社や合同会社の設立は以前からしていましたが、最近は社団法人やNPO法人などの非営利組織などの設立も積極的に関わらせていただいています。
社会起業家と呼ばれる人たちを支援し、間接的に社会問題解決に貢献できる。これってワクワクしませんか?行政書士という仕事ってそもそもソーシャル(社会的)な仕事だと思うのはこういう理由からでもあります。
現場では、それこそ環境ビジネス絡みでCSR(企業の社会的責任)や社会貢献の話が絶対出てきますし、僕らがきちんと企業を支援することで、社会が絶対よくなると思うんですよ。僕自身は様々な活動をしていますが、自分のいる業界をよりブラッシュアップしよう! みたいなのは、特に士業は多いかもしれませんね。
パラレルキャリア(本業以外で社会貢献などの活動を行なうライフスタイル)という考え方ほどではないですが、業種・業界の垣根を超えて交わっていく所は、一般ビジネスパーソンでは体験できない、士業的な「新しいソーシャルな働き方」なのかもしれません。
■行政書士の仕事って、わかりにくいよね?
安藤:行政書士って、非営利団体設立などを含めて、思ったより社会貢献的な仕事なんですね。
石下:士業というのがそもそもサポーターというか、自分が全面に出るというより、支援するビジネスですので、社会貢献をする人を応援する、というのが一つの社会貢献なのかなと考えています。
でも実際はそれ以外でもできますよね。行政書士は、行政手続きサポートのプロであり、業務自体の社会性も高いというのもあると思うんですよ。行政とお客様の接点は、社会そのものですからね。
他にもプレイヤーとしては、新人行政書士向けのスクールをしたり、テレビ出演をしたり、行政書士業界そのもの活性化と知名度アップに向けた活動もしています。
安藤:そういえば、先日「とくダネ!」(フジテレビ、2014年8月20日放送分)にコメント出されましたよね? 若い行政書士の方が情報番組にコメントを顔写真付きで出すって珍しいですよね。
石下:反響はおかげさまでかなりありました。多くは、お仕事のお問合せではなく、お客様や友人・知人からのリアクションがほとんどでした。テレビの反響って大きいんだなと、改めて実感しましたね。
テレビ見たからといって映るのは一瞬だし、電話番号や事務所名がでるわけではないですし、仕事の依頼が増えるとは始めから思っていなかったですが、知り合いからのリアクションの多さにはビックリでした。テレビすげーって(笑)
で、今回のきっかけはスタッフの方が僕のブログを見て連絡をくれたのでした。数年前では考えられなかったのですが、いまではソーシャルメディアもありますし、どんどん人を巻き込める時代になったのだと実感しています。メディア戦略って難しいですね。
安藤:テレビ以外のメディア展開は他にありますか?
石下:まず、ブログやソーシャルメディアなどで情報発信をしています。加えて書籍も積極的に書いています。今、6冊目の書籍を執筆中なのですが、書籍のインパクトというのはかなり大きいです。全国の書店においていただけるし、そこからのお問合せも増えています。今後も可能な限り、書籍出版にも積極的に関わっていきたいと思います。
他には「All About」でも、コラムを書くようになりました。行政書士の業界誌でもコラムを書いています。という風になると、評論家みたいですが、僕はあくまで実務家・プレーヤーです。やはり、実務家だからできることがあると思うんです。
■世の中は「△」(さんかく)がほとんどである
安藤:将来的な目標があればお聞かせ下さい。
石下:何歳でというのはないのですが、最終的に「環境ビジネス支援の第一人者」になりたいというのはあります。
僕らの士業の業界は、「実務家であり、専門家であり、経営者である」みたいな言われ方をしますが、今後は経営者的な側面を強化していきながらも、実務家としてプロフェッショナルになりたいです。もともと、自分が志した「環境ビジネス支援」の領域を極めたいと思います。組織のトップだからといって、実務から離れ、マネジメント業に専念することは今の所考えていません。
士業全体でいえば、行政書士は特にクリエイティブな職だと思っています。弁護士とか弁理士みたいな特定領域に特化した職もありますが、広く深くな行政書士業務は言ってしまえば、なんでもできるって部分もありますからね。
あと、法改正で変わって新しい申請業務ができたたら、今までになかった業務領域という事で「スーパー・ブルーオーシャン」ですよ。昨日まで誰もやったことのなかった業務なので、その日から業務ができれば、〇〇業務の第一人者ですよ。
安藤:行政書士業も社会の変化とともに変わる、と。
石下:行政書士は、単発業務がほとんどなので、ビジネスモデルとしてそもそも継続が難しいし、取り巻くビジネス環境は相当に難易度が高いのです。士業は独占業務もありますが、資格に守られていた時代は何年も前に終わったと思っています。
時代を見据えたアイディアと、お客様のニーズさえあれば、行政書士はなんでもできるのです。まさに時代を写す鏡であり、まさに「新しいソーシャルな働き方」であるのかもしれませんね。本当にクリエイティブな仕事だと思っています。
あと行政書士をしていて思うのは、世の中って「△」(さんかく)がほとんどだということ。単純に「○」か「×」で置き換えられるものって、実はそこまで多くのないのかなと思っています。
どうして世の中喧嘩があるかといえば、「△」が多いかなのはないでしょうか。どちらかが圧倒的に「×」であれば、喧嘩にはならないと思うんです。基本、両者が自分が「○」と主張しますからね。どちらにも言い分があって、どちらにも正義があるわけですよ。第三者から見れば「△」なのに。
ですので、法律もすべてが万能なわけでもありませんし、社会の変化により新しい概念も出てきます。行政とお客様との間に立って、落としどころを見つけ、一緒にゴールへ進んでいく。これからも大変だけどクリエイティブな行政書士業を、突き詰めていきたいと思います。
【企画:CSRビズ】