"少子化社会のユニバーサルデザイン"として
近年、子どもの貧困問題が深刻化している。今年7月に厚生労働省が公表した「平成25年国民生活基礎調査の概況」によると、平成24年の貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)に満たない世帯員の割合である「相対的貧困率」は16.1%、17歳以下の「子どもの貧困率」(*1)は16.3%と過去最高だ。
また、「子どもがいる現役世帯の貧困率」(*2)は15.1%、そのうち母子・父子家庭など「大人が一人」の世帯では54.6%と極めて高い。国際的にも日本の「子どもの貧困率」(2010年)はOECD加盟34ヵ国中25位だ。
このような状況を受け、昨年6月、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が議員立法により成立、今年1月に施行された。今年8月には、「子供の貧困対策に関する大綱~全ての子供たちが夢と希望を持って成長していける社会の実現を目指して」が閣議決定された。
同大綱には、『子供の将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、また、貧困が世代を超えて連鎖することのないよう、必要な環境整備と教育の機会均等を図る子供の貧困対策は極めて重要である』と記されている。
子どもの貧困を解消するためには、保護者と子どもの双方に対する支援が不可欠である。近年では非正規雇用者が増え、経済基盤が脆弱な世帯も多く、保護者の就労支援も必要だ。特に、離別によるひとり親家庭では、養育費の確保が不十分であるなど、生活困窮度が著しい。
一方、子ども自身に対しては、将来の自立に向けた教育機会の保障が欠かせない。日本社会では、教育と所得の相関は強く、保護者の経済状況に関わらず教育機会が均等に与えられなければならない。
すでに、公立高校の授業料無償制が導入されているが、大綱では第一に子どもに視点を置き、当面の重点施策として、貧困の連鎖を防ぐための「幼児教育の無償化に向けた段階的取組」が盛り込まれている。これは全ての子どもが人生の公平なスタートに立つ上で、極めて重要な施策である。
現状では、幼児教育時点から基礎学力などに差が生じ、高等教育以前に格差が拡大してしまう恐れがあるからだ。今後は、子どもの貧困を生活の質まで踏み込んで把握するようなより的確な指標の検討を行い、その改善に向けた努力が必要だろう。
障がいのある人にとって不可欠なバリアフリーデザインが、実は健常者にとっても暮らし易い社会のユニバーサルデザインであるように、子どもの貧困対策を講じることは、貧困世帯に留まらず、誰もが希望を持って子どもを産み・育てることができる社会をつくることだ。
その意味では、「子供の貧困対策に関する大綱」は、"少子化社会のユニバーサルデザイン"に他ならないのではないだろうか。
*1 子ども全体に占める、等価可処分所得が貧困線に満たない世帯に属する子どもの割合
*2 「子どもがいる現役世帯」に属する世帯員全員に占める、等価可処分所得が貧困線に満たない「子どもがいる現役世帯」の世帯員の割合
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株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員
(2014年9月8日「研究員の眼」より転載)