遠藤保仁はなぜボールを奪われないのか? 今野泰幸が語るヤットのすごさ(西部謙司)

視界に遠藤保仁がいる。ボランチ、あるいはトップ下、フォワードとして。ピッチ上の遠藤とはどのような存在なのか。数々のシーンでともにプレーしてきた、今野泰幸の経験とともに紐解いていく。(『フットボールサミット第21回 遠藤保仁、W杯を語る』より)

視界に遠藤保仁がいる。ボランチ、あるいはトップ下、フォワードとして。ピッチ上の遠藤とはどのような存在なのか。数々のシーンでともにプレーしてきた、今野泰幸の経験とともに紐解いていく。(『フットボールサミット第21回 遠藤保仁、W杯を語る』より)

■「ヤットさんはリズムを作れる」

――では、選手としての遠藤保仁について聞きましょう。

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今野泰幸【写真:フットボールチャンネル編集部】

「代表では完全に黒子ですね。前線にいい選手がいるので、彼らを活かすことに徹している感じです」

――遠藤選手へのパスで気をつけていることは何かありますか?

「とくにないですね。いつでも受ける準備ができているので、こちらのタイミングでパスを出せばいいんです。ヘンなタイミングでパスしても、ちゃんと対応してくれるんですよ。さすがに相手のプレスがきついときは、パスしたあとサポートするように心がけてはいますが」

――W杯予選では遠藤・長谷部のコンビが鉄板でしたが、山口蛍もオランダ戦あたりから定着してきました。DFとしてボランチの組み合わせが変わるというのは、どうなんでしょうか。

「オランダ戦のときは、まずは守備、という入り方でした。相手もW杯で優勝を狙うような強豪ですし、我慢する形も多くなる。(山口と長谷部のコンビは)2人ともガツガツいけるタイプで、こぼれ球も拾えます。

 攻撃のときはボランチへつなぐというより、DFから前線にパスして彼らに前を向かせるイメージでしたね。まずはコンパクトに守って、奪ってから行こうと。前半はそれなりに上手くいったと思います」

――後半から遠藤が入った。

「そこからは地上戦勝負ですね。ヤットさんはリズムを作れるし、後半から入って攻撃が活性化しました」

――それはチームとして狙っていた変化ですか?

「いや、そうでもないと思います。僕らはボールを持って攻めるのが得意ですが、相手が強いと我慢の時間もありますから、前半はまさにそういう時間だったのかなと」

■「後半からの出場でも全然問題ない人」

――ベルギー戦も後半から遠藤投入でした。

「後半勝負というわけでもなかったのですが、ヤットさんが入ってゲームがスムーズに動く感じはありましたね」

――これはW杯用の使い方なんでしょうか。

「僕には何とも言えません。前半も問題なかったと思いますし。ただ、ヤットさんは与えられた仕事をするということにおいては、後半からの出場でも全然問題ない人です。どんなポジションでも仲間がやりやすいようにプレーしてくれます」

 日本代表の後方からのビルドアップには、いくつかのパターンがある。

「他の監督に比べると、パターンは多いと思います。反復練習もします。試合の前々日ぐらいですかね、相手がこうだから、こういうふうにという具体的なトレーニングをやりますね」(今野)

 センターバックの今野は、ドリブルで持ち上がるように要求されている。

「僕が持ったときに、長友が走る。同時に、僕が相手のサイドハーフに向かうようにドリブルします。そうすると、サイドハーフは長友か僕かで迷います」(今野)

 さらに、香川が中央へ移動する。すると今度は相手のサイドバックが長友をケアするか、香川について行くか判断しなければならない。

「香川と長友で2対1を作れるし、香川が空けばそこへパスして前向きに仕掛けられる。ただ、僕が食われるとピンチになるわけです。リスクはあるのですが、監督はセンターバックとボランチにそういうプレーを求めています」(今野)

 とくに遠藤から香川、本田への縦パスは、代表の攻撃における起動スイッチといっていいだろう。

 ザッケローニ監督のアイデアもさることながら、日本のビルドアップが安定しているのは遠藤のパス能力によるところが大きい。どちらの足へ、どういう質のボールを入れるか。さらにその後の展開はどうなるか、相手はどう動くか……状況を見抜く力がビルドアップのアイデアを支えている。

■「基本技術はJリーグでも間違いなくトップクラス」

――G大阪では、FWでいいんでしょうか。

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今野は遠藤の「トラップの位置が絶妙」と語る【写真:工藤明日香 / フットボールチャンネル】

「フリーマン(笑)。飛び出しもできるし、ボランチの位置まで下りてくることもあるし、何でもやっています。FWだとは思っていないですね。でも点も取れるし、前でテンポを変えたりもできる。とにかく一発で状況をガラッと変えられる。

 ゲームの流れを読んで、どこにいるのが効果的か考えながらポジションをとっていると思いますよ。フラフラ動いているので、当てられるときはボールを当てたいですね。ピシッとパスが入れば、ヤットさんには次のイメージがあるはずですから。とにかく奪われないので、サイドバックも上がれるし、全体に一気にスピードアップできる」

――どうして奪われないのでしょうか。

「トラップの位置ですかね。基本技術はJリーグでも間違いなくトップクラスでしょう。止める、蹴るの能力が凄い。寄せられないんですよ、守る側からすると」

――「寄せ」の今野さんが寄せられない。

「トラップの位置が絶妙です。足下にピッタリ止めるわけではなくて、少し動きながら、いつでもパスできるところに置いているんです。ボールタッチに無駄がないんでしょうね。ボールタッチに体がついていっているので、近くで体感すると速く感じますよ」

――スタンドから見ると、ゆっくりプレーしているような印象ですが、同じ平面で対峙すると速い。

「速いですね。スムーズなので、そう感じるんだと思います。たとえば、トラップした足ですぐに次のタッチができる。いったん地面に足を置くのではなく、着くか着かないかですぐに次のタッチができるところにボールを置いていたり。

 それを動きながらするので速い感じがするのだと思います。ヤットさんと中村憲剛さん、中村俊輔さん、この3人は明らかに違いますね。別格です。ダイレクトパスもあるので、なかなか寄せられないです」

■「パスを入れた後の展開まで考えていますね」

――パスについては?

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遠藤保仁には選択肢が何個もあるという【写真:工藤明日香 / フットボールチャンネル】

「サイドキックが正確すぎる(笑)。味方が受けやすいボールを蹴りますね、どっちの足に出したらいいかとか、凄いなと思いますよ。それでいてスルーパスも出せますしね」

――クサビを入れるときも、味方と敵の関係とか、周囲の動きとか、かなりいろんなものを見ながらパスしているようですね。

「パスを入れた後の展開まで考えていますね。パスを出して、それを受けた選手がサポートした味方に落として、それから裏でしょと。そこまで見てパスを入れている。だからチャンスになる確率が高い。そこまで予測しているので、逆に無理矢理な展開もないですね」

――パスの受け方はどうですか?

「常に相手の間にポジションをとっていて、センターバックからのパスコースがなくならないような位置にいてくれます。僕のポジションからすると助かります」

――ちょっとパスを出すのを躊躇したくなる場所にいるときでも、けっこうボールを要求するタイプですよね。遠藤さんは「寄こせ」と言うけど、ボール持っている選手からは相手が寄せてくるのが見えるので、出していいのかな、と。

「それはもう、次の展開が見えちゃってるから。ヤットさんには選択肢が何個もあるから、出しちゃっていいんです。最悪、ボールを失わないという前提があってのことです。選択肢がない人なら『パス来ないで』と思ってしまうこともありますけど、ヤットさんにはない。明らかに厳しい状況でも何とかしてしまう」

■「いてほしい場所にいてくれる」

――味方も慣れなきゃいけない。

「それはやっぱり一緒にプレーしているからわかります。ヤットさんには出して大丈夫です(笑)」

――そういう選手がいると、周囲への影響もありますよね。

「ヤットさんも受け手の特徴を考えてパスを出していますしね。代表では香川や本田のように間で受けるのが得意な選手にはどんどん出しますが、苦手な人には出さない。岡崎だったら、裏やサイドへ流れたときにボールを入れています。

 相手を考えてパスしている。それがサッカーだし、チームだと思いますよ。ヤットさんはとくに相手を考えてパスをします。THEボランチ、まさにハンドルという感じ」

――守備はどうですか?

「危ない場所がわかっていて、いてほしい場所にいてくれる」

――スピードがないので、W杯とかは大丈夫かなと。

「大丈夫じゃないですか。振り切られない間合いをとったり、周囲を使いながら対処できますからね。危ないときは少し間合いを空けておいて遅らせて、味方を戻らせて2人で行くとか、頭を使った守備ができるので」

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(2014年5月30日「フットボールチャンネル」より転載)