過激な歌詞、発禁アルバム…表現の自由とともに歩んできた頭脳警察PANTAインタビュー

頭脳警察の軌跡を追いかけた映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』が公開中だ。50年の歩みから現代社会の何が見えてくるのか。ボーカリストのPANTAさんに、旧知の仲であるジャーナリストの堀潤さんが話を聞いた。
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KAORI NISHDA/西田香織

2019年に結成50周年を迎えた日本語ロックの元祖、頭脳警察の軌跡を追いかけたドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』が公開中だ。  

1969年、学生運動が盛んな時期にデビューし、カウンターカルチャーを牽引する存在として当時の若者に熱狂的に支持された頭脳警察。デビューアルバムは歌詞の過激さを理由に発売中止となり、反体制のシンボルのように扱われるが、その熱狂とは裏腹に本人たちは自由に音楽を作り続けた。 

本作は、何度かの解散と再結成を経て、50年間音楽を通して社会に挑み続けてきた彼らの歩みを、貴重な過去の映像と関係者たちの証言、現在のメンバーのライブパフォーマンスなどを通して描いている。

頭脳警察の50年の歩みから現代社会の何が見えてくるのか。ボーカリストのPANTAさんに、旧知の間柄であるジャーナリストの堀潤さんが話を聞いた。

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ジャーナリストの堀潤さん(左)と頭脳警察のPANTAさん(右)
KAORI NISHDA/西田香織

ブルースを捨て、自分の言葉で歌うと決めた

堀:本当に面白い映画でした。頭脳警察の歩みは、戦後の日本が歩んできた道と重なり、平成30年間の国際情勢ともリンクしているように思えました。

PANTA:この映画を観てくれる人は自分の人生と自然とシンクロさせるよね。自分のアーカイブを眺めているような感覚になると思う。堀さんは多感な頃がちょうど90年代なんですよね。

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KAORI NISHDA/西田香織

堀:そうですね。僕の父は商社勤めの企業戦士で、バブル崩壊でリストラされてしばらく家にいた時期がありました。55年体制が崩壊し、政治は混沌とした中で、冷戦が終わりテロの時代に入っていく。僕は就職氷河期のロストジェネレーションと呼ばれる世代ですが、経済合理性が優先され、人権など大切なものが犠牲にされているという不信感があるんです。

対して、この映画で描かれる頭脳警察の活動は、私たちの普遍的な価値や尊厳とは何なのかを考えさせるものだと思ったんです。過去の話だけでなく、PANTAさんたちの未来に向かって行くんだという姿勢がすごく伝わってきました。

PANTA:コロナのおかげと言うのは良くないかもしれないけど、今は全世界の経済活動が止まって同じスタートラインに立ったような感じですね。ニューノーマルというのと少し違うかもしれないけど、新しい経済の考え方が出てこないといけないと思います。

堀:僕がコロナに関して怖いと感じるのは、こうした有事はみんな不安になるので、ある程度強権が発動されてもしょうがない、むしろそうしてほしいという空気になってしまうことです。これは統治側にとても都合が良いんですよね。PANTAさんはそういう空気に対して一貫して違うんじゃないかと言い続けてれこられた方だと思います。改めてお聞きしたいのは、どうしてそういう心意気を持つことができるのか、我々は今何に対して向き合うべきなのかということです。

PANTA:なんでしょうね。自分は敗戦から5年後の昭和25年に生まれました。

14歳でビートルズに出会い、その後ブルースを知り、ジョン・リー・フッカーやロバート・ジョンソンなどと出会い、衝撃を受けたわけです。でも、黒人の差別の歴史から生まれたブルース、白人にわからないようにスラングを用いたこの音楽を、何も知らない極東のガキが真似していいものじゃないんだと、稚拙な頭で考えてブルースを捨てたんです。そして、自分の言葉で歌うと決めて、19の時に頭脳警察というグループを作ったんです。

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KAORI NISHDA/西田香織

堀:何か出来上がったものに乗っかるんじゃなくて、自分で作り、自分の言葉で歌うという姿勢にすごく共感します。僕も会社員時代とフリーになった今を比べて何が一番違うかというと、自分の作った言葉をしゃべるんだということです。何かを自分で作り出すというのは尊厳そのものじゃないかと思うんです。

PANTA:そう、尊厳なんだよ。芸大卒のヤツに話を聞くと、バイオリンなどでも、自分だったらこう弾くと考えた時点で芸大では駄目なんだと言っていましたね。それを言い出すと組織にはいられないんだけどね。

 

模倣を恐れてはいけない

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KAORI NISHDA/西田香織

堀:自分で作るということは、自分で責任を負うということでもあると思います。自分の言葉で歌うと決めた時には、色々なリスクや批判、圧力なども受けたと思いますがいかがですか。

PANTA:若い人たちに、どうすればオリジナリティを持てますかとよく相談されます。自分が30歳くらいの時に、新聞のコラムか何かで彫刻家ロダンの「模写を恐れてはいけない」という言葉に出会ったんです。この「恐れてはいけない」の部分にショックを受けました。

ということは、模写は怖いんですよね。真似すると、その色に簡単に染まってしまう、自分は何者でもないことがわかってしまうから。でもロダンは、模写はその人の手を動かす前に心を動かすんだと言った。感動したら、まず素直に真似しなさいということですね。

それ以来、若いヤツらには好きなら思い切り真似しなさい、いつか真似したものと対峙する日が来るかもしれない、その時自分のオリジナルが出てくる、だからあえてオリジナルを意識しなくてもいいよと言っています。

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KAORI NISHDA/西田香織

堀:「恐れ」と対峙するのはすごく難しいことだと思います。自分が何に恐れているのか、その実態すらよくわからないことすらあると思うんです。

だから目をつぶって淡々と日常をこなしていけばいいじゃないかと戦線離脱してしまうんですよね。でも、PANTAさんは、恐れに向き合ってみようと思ったから先の言葉にショックを受けたのではないかと思うんです。

PANTA:自分は18の時から手探りでやってきたので、何をするにもお手本がなかったんですよ。自分の言葉で歌うと決めても、アメリカのロックならFで始まる4文字を使うんだろうけど、日本語にはそういう既成のものがなかった。だから、「ふざけるんじゃねえよ」とか「銃を取れ」とかいろいろ歌ってみたら銃刀法にひっかかってしまった。銃刀法の前にレコード会社から発売停止されましたけど。

 

メディアはもっと踏ん張らないといけない

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KAORI NISHDA/西田香織

堀:PANTAさんは今のメディアの状況をどうお感じになっていますか。昔よりも窮屈になっているでしょうか。

PANTA:頭脳警察結成当初はレコ倫(レコード制作基準管理委員会)との戦いでした。レコード協会に加盟していなければ関係なかったんですけど、自分は中に入って変えていかないと駄目だと思っていたんです。

「マーラーズ・パーラー」という曲の中に、「ブル新(「ブルジョワ新聞」の略)」という言葉が出てきますが、レコ倫がこれは共産党用語なので使ってはいけないと言い出したんです。そもそもなんで共産党用語使っちゃいけないんだって話なんですが、レコード会社の担当者が「いえ、これはブルーバードの新車という意味なんです」と説明したらそれで通っちゃったんですよね(笑)。それぐらいいい加減なものでした。

堀:そういう時代と今を比べてみていかがですか。

PANTA:変わらないですね。でも、メディアはもう少しふんばらないといけないと思います。クライアントのことばかり気にしていますから。NHKについては、一枚岩じゃなく中でなんとかしようと頑張っている人もいるから、俺たちはそれを応援してやらないといけないとは思いますね。

ある時、発売禁止になった歌についてNHKに聞いてみたら、「うちには放送禁止はありません」と言っていたんです。でも、自分がNHKのパーソナリティをやった時に資料を見てみると、「放送注意」というリストがあったんですね(笑)。

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KAORI NISHDA/西田香織

堀:禁止を注意と言い換えているんですね(笑)。

PANTA:放送注意リストのAは歌詞もメロディも紹介できない。「網走番外地」なんてメロディも駄目なんです。でもある日、スタジオでアナウンサーがしゃべっているバックで「世界革命戦争宣言」(発売禁止になった頭脳警察のファーストアルバム収録曲)かけちゃったことがありますけど、放送事故だよね(笑)。

 

BLMとこの国の差別

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KAORI NISHDA/西田香織

堀:最近、ブラック・ライブズ・マター(BLM)についてどう思いますかと聞かれました。最近は差別が大きなテーマですよねと言われた時、僕は「ちょっと待ってください、差別はこの国にもいっぱいあって、最近になって大きなテーマになったわけじゃない、例えば在日の方々への差別とかどこに行ってしまったんですか」と言ったんです。

PANTA:そうだよね。今回のことでびっくりしたのは、みんな白人目線なんですよ。「All Lives Matter」でいいじゃないかと言うヤツもいるんだけど、そうじゃない。あれは「黒人の生命だけが大切だ」じゃないんだよ、「黒人の生命も」なんだよ。

『世界革命戦争への飛翔』という本に載っていた上野勝輝さんの「世界革命戦争宣言」に、「君達にベトナムの仲間を好き勝手に殺す権利があるのならば、我々にも君達を好き勝手に殺す権利がある」と書いてある。それは、「俺たちはお前を殺すぞ」ではなく「勝手に殺してはいけない」という意味であって、それと同じことだと思うんです。

学生運動の時代はイデオロギーが大手を振っていて、みんなガチガチに固まっていた。イデオロギーに自分をはめようとして悲劇がたくさん起きていたんです。イデオロギーがいけないというよりも、自分の判断でヒューマニズムを尊重することが大事だと思うんだよね。ヒューマニズムにはうさんくさい部分もあるんだけど。

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KAORI NISHDA/西田香織

堀:そうですね。ヒューマニズムは利用されることもあります。すっと心の隙間に入り込んで「怒ろう、泣こう」と迫り、気がつくと体制に組み込まれてしまいます。ナチスのプロパガンダなんかも、最初は若者たちを奉仕活動に動員して、「君たちの若い力で困っている地方の農夫たちを助けよう」なんてやっていたわけです。

PANTA:そこは思考能力が必要だよね。人のために何かしなさいとか、そんなことはあまり考えなくていいと思う。アダム・スミスの『国富論』じゃないけど、最終的には経済に利用されるかもしれない、でも自分の利益を追求することが、社会全体の利益につながるよということもある。だから、自分がやりたいことをやるべきです。自分は銃を取って戦うなんてごめんだから、歌っているんです。

 

答えを求めるのではなく問い続けることが大事

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KAORI NISHDA/西田香織

堀:そんな風に自分のやりたいこと、叫びたいことが見つからないという人に質問を受けることが多いんじゃないかと思うんですが、なんとお答えするのですか。

PANTA:自分のエネルギーの源泉は好奇心です。ネガティブなことも含めて、どうしてそんなことになるのか知りたくてしょうがいないんです。そうやって何でも探っていくと自分の好きなものが見つかり、向上心もついてきます。自分はそれがずっと続いているだけですよ。

堀:過去ではなく未来を感じさせる映画になっているのは、PANTAさんのそういう姿勢に理由があるのかなと思いました。探求し続けることに終わりはないんですね。

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KAORI NISHDA/西田香織

PANTA:そう。答えを出すんじゃなく、クエスチョンマークを出し続けることが大事なんです。

昔、浄土真宗のお坊さんと朝まで話し込んだ時、お子さんに神様がいるかと聞かれたらなんと答えますか? と聞かれたんです。「お前がいると思えばいる、いないと思えばいない」と答えると言ったら、「それでは駄目です、『いる』と答えなければいけない」と言われたんです。親がいないと言ってしまったらそれで終わってしまうけど、いると答えればその子の頭には、どこにいるのか一生クエスチョンマークがついて回るからだと。考えさせるきっかけを与えてあげることが大事なんです。

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映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』より
©2020 ZK PROJECT

(取材・文:杉本穂高/編集:毛谷村真木)