「この国は、女性にとって発展途上国だ。」
化粧品会社のポーラが2016年に打ち出したテレビCMのメッセージだ。女性の生きづらさをリアルに映し出しているとして、当時大きな反響を呼んだ。
「時代の空気と合っていたんでしょうね。どんなに頑張っても、やっぱり女性には『ガラスの天井』があるんだよね、と多くの方が感じていたのだと思います」
そう語るのは、同社執行役員の山口裕絵さんだ。
新卒からポーラ一筋。日本で初めて厚労省の認可を獲得したシワ改善商品や、美白ブランドのマーケティングを歴任し、42歳にして執行役員になった。
なんとポーラでは、10人の執行役員のうち4人が女性。日本企業の平均と比べてもかなり高い割合だ。
「ガラスの天井」を一直線に突き破り、いち早く「発展途上」から抜け出しているように見える山口さんに、話を聞きに行った。
「発展途上国」を抜けたら、その先にはどんな景色が見えるのでしょうかーー
まだまだ「ガラスの天井」が分厚く横たわる日本企業
世界経済フォーラムが発表している「ジェンダーギャップ指数」で日本はG7で最低の121位。特に得点の低い「経済」の分野で、各国にもっとも遅れをとっている指標が「管理職ポジションに就いている男女の人数の差」だ。
東京商工リサーチによると、2019年3月期決算の上場企業における女性役員の割合は4.9%。女性役員がゼロの企業は58%にものぼる。
一方、約1500人の社員を抱えるポーラの場合、役員の女性比率は4割、部長以上の管理職の女性比率は約3割と、いずれも日本の水準と比べると「かなり高い」といえる数値だ。そのうえ、2020年1月に就任した及川美紀社長も女性だ。
「女性活躍」という文脈においてかなり先進的に見えるが実態はどうなのだろうか。まだまだ男性中心の側面もあるビジネスの場面において、女性であることの難しさや不自由さを感じることはないのだろうか。
「正直、社内では男性だ、女性だ、というのを感じることはないです。むしろ社外で講演させていただく時などの、司会の方のちょっとした言葉の方が性別を意識させられます。『若くして、女性で、役員で…』という枕詞がつく感じといいますか。世の中にはまだまだ、女性であることを意識せざるを得ないビジネスパーソンの方が数多くいるんだと改めて感じます」
山口さんは続けて、「やはり量の問題は大きいと感じる」という。
「もっと男女の人数に偏りがあれば、今のようなフラットな感じではないのかもしれませんが、うちは10人中、6人と4人。しかも社長が女性ですからね、強いですよ(笑)」
20年前、女性は「決定権者」ではなかった
そうはいっても、最初から「性差を意識しない」雰囲気だったわけではない。
山口さんが入社した20年前は「女性役員もいなかったし、女性の部長もゼロか、いたとしてもわずかだったと思う」という。
「新入社員や若手は大体、男女半々ぐらいいるのに、だんだんと年次が上がっていって、課長、部長になってくると女性が少ないなという印象でしたね。きっと当時の、数少ない女性管理職の方は苦労も多かっただろうなと今になって推察します」
この20年の変化の鍵はなんだったのか?
「ありきたりですが、やはりトップの決意だと思います。組織や制度を変えるのは、一筋縄ではいきません。トップダウンで粘り強くやるしかない」と山口さんはいう。
産休育休後の復職サポート、時短勤務の整備、リーダー育成プログラムの実施など、一つ一つの制度自体は目新しいものではない。しかし、渦中にいる人にとっては、一つ一つの制度を利用していくことが、「新しい景色を見る」ことに繋がるのだという。
「(制度が整ってきたことで)結婚退職や出産を機に退職する人がだんだん減ってきました。そうやって長く会社に勤められるようになって初めて、今までは見えなかったキャリアアップの道が見えてくるんです」
「社長の及川は、結婚もして子育てもしながら、仕事で成果を出し続けてきました。私にとってはロールモデル。あまりの大変さ、あまりのすごさに、憧れるよりも尻込みする気持ちの方が大きいですけど…(笑)、女性社員にとって、追いかけたい背中が一つ、また一つと増えることは大事だと思います」
「どうしましょうか?」ではなく、「私はこう思う」
マーケティング担当の執行役員として、100人以上の部下をもつ山口さん。
分刻みにスケジュールが埋まっており、オンライン上で社員に全公開しているスケジュールを見て、「総理大臣みたい」と社員にからかわれることもある。
毎日大量の相談や上申を受け、どんどん判断していく。本当は”現場の仕事”が大好きだったというが、今の仕事はもっぱら、意思決定と人材育成だ。
「見た瞬間に『ダメだ〜』と思う企画も多いですよ」と笑う山口さんは、「外部環境と社内環境の両方を汲み取り、意思を持って提案できる人を評価したい」という。
「『山口さん、これどうしましょうか?』と言ってくる人は育てたくないんです。『どうしましょう』『何しましょう』ではなく、『私はこう思うんですが、山口さんはどう思いますか』と言える人を増やしたい。間違ってたっていいんです。わからなければ二人で一緒に考えればいいですしね。いずれにせよ、自分なりの見立てを持っている社員を評価しています。シビアに見ていると思いますよ」
「この国は、女性にとって発展途上国だ。」とうたったCMシリーズには、他に「これからだ、私。」をキャッチコピーとしたものもある。
管理職や役員の女性比率や人数などといった「数値目標」は、数字合わせが目的化してしまうリスクを指摘する声もある。
しかし、まずは数の「フラット」を目指そう、と言いたい。
「10人の男性の中に、女性が1人いれば『お人形扱い』。2人いれば『仲違いさせられる』。3人いて初めて『自分』になれるんです」
ジェンダーと政治が専門のお茶の水大学・申琪榮(シンキヨン)准教授はかつてハフポストの取材にこう語っていたが、「男だから、女だから、というのは意識することがない」と繰り返す山口さんの言葉に、女性役員比率40%の会社のリアリティを見た気がした。
現状だけを見ると、この国はまだまだ女性にとって「発展途上国」だろう。しかし、一つずつロールモデルを増やし、「新しい景色」や「新しい道」を社会全体で想像するよりほかない。
ハフポストとTwitterがお届けする就活応援番組「#ハフライブ」。
3月10日(火)夜9時からの生配信では、ポーラの人事戦略部の大城 心さんをお迎えして「女性役員4割の会社のリアル」に迫ります。
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