新型コロナウィルスのパンデミックにより、国を問わず人々の生活は一変した。
例に漏れず緊急事態宣言の発出に伴い私の生活も変化した。
アメリカ人である私が日常的にマスクを着用する日が来るなどと考えたこともなかったが、外出する時は必ずマスクを着用するようになったし、トレーニングジムが閉鎖され、運動がてら歩いて通勤するようにもなった。
オンラインで世界が近くなった
こうした個々の生活の変化もさることながら、ビジネスシーンにおいても様々な変化がみられる。
まずミーティングがオンラインになった。長く日本に住んでいる私にとって、直接お目にかかってお客様と話さないことは、どこか不躾で失礼にあたるような気がして居心地が悪い。しかし、お客様も私も感染してはお互いにとって良くないことは自明だから、オンラインでのミーティングは致し方ない。
ただ、これにもメリットがあってお客様のところへ赴く時間も含めて組まれていたスケジュールは、ミーティングの時間のみを確保すればよいことにつながった。しかも、新幹線などに乗らずともオンラインでミーティングができるため、ミーティングを設定するハードルは低くなった。
これは世界に点在する同僚たちとの関係も同様で、世界があっという間にオンラインで繋がり近くなった。しかし、その分だけデスクの前にいる時間が増えたと感じている。オンラインで仕事をしている方は同じような実感をお持ちではないだろうか。
アメリカでのビジネスマナーの変容
アメリカの同僚などもパンデミックによるビジネスマナーの変容を実感しているようだ。
例えば挨拶である。スポーツの大会で国歌斉唱をする際に選手が胸を当てるポーズはご記憶にあるだろうか。withコロナではあのポーズであいさつをするというのだ。握手を交わすという、これまで当たり前の光景が見られなくなったというのは、にわかに信じがたい。
アメリカにおけるマスクの着用率は様々であるが、約3割がマスクを着用していると報じられている一方で、カリフォルニア州ではマスク着用が義務化された。ただし、これに反対する市民は過激な行動を起こしたり、NY州知事がトランプ大統領にマスクの義務化を訴えたりするなど、アメリカ国民全体の意識は統一されているとは言い難い状況ではあるがマスク着用はアメリカ国民にとっても習慣となりつつある。
このように環境は私たちの生活に大きな影響を与える。
『Atomic Habits』(邦題:ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣)の著者ジェームズ・クリア氏は、農業の発展を例にとり、人類の歴史においていかに環境が人々の生活に影響を与え、長期に渡りある環境下に置かれることは個人の特性をも圧倒するといい、行動分析学では「行動の原因は環境の中に存在している」とも言われている。
新型コロナウイルスのパンデミックが私たちの生活を一変させたのもうなずける。
環境を味方につけようとしたトランプ大統領の愚策?
環境が生活や人を変化させるのであれば、その理論を使って社会を変えようという発想は自然な流れだろう。クリア氏は成功を促す環境を自ら設計することができるというし、行動経済学では環境を少し変化させることで行動をおおきく変化させることができると言われている。
ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のリチャード・セイラー教授の「ナッジ理論」で示された小便器の真ん中にハエの絵を描いたことで掃除費用の大幅削減に成功した例はみなさんもよくご存じだろう。
このように社会問題の解決に環境を変化させることには大いに賛同したいが、6月に発せられたトランプ大統領の就労ビザや留学生ビザの発給停止命令はいかがなものか。
就労ビザを持つ非移民の入国停止は新型コロナウィルスのパンデミックが原因で一時帰国していたアメリカで働いている外国人(当該ビザを持つ就労者)は仕事に戻れなくなるともいわれている。
入国禁止とされたビザにはコンピュータープログラマ―などのデジタルトランスフォーメーションが叫ばれる昨今において重責を担う職種も含まれ、この命令によって約52万5000人もの外国人労働者がアメリカ国外へ流出することになるという。
彼らがアメリカで担っていた仕事は、アメリカ人がやりたがらないことや特殊なスキルを必要とするものでもあるとも考えられる。アメリカにとって必要な人材を失うことにもつながり、これによりビジネスシーンは一変し、アメリカ経済は悪い方に変化するのではないかと危惧している。
環境の変化を笠に着て、持論を推し進めようとするトランプ大統領のやり方には賛同できないばかりか、環境を効果的に利用したとは言えないだろう。
環境を味方につければ社会問題の課題解決にもつながる。
新型コロナウイルスの感染拡大防止に関しても、世界中が英知を結集して最善策を模索している状況であるから、何が正しいか等、まだ誰にも分らないだろう。
とはいえ、私たちはすでに感染拡大防止という共通認識をもって衛生管理やビジネス習慣を変化させ、自らのビジネスをより成長させるために試行錯誤を繰り返している。
初めての経験も60日ほどすると生活に馴染み、日常となるとも聞いたことがある。現在の試行錯誤が新しい価値創造につながるのはこの秋だろうか。環境の変化を味方につけ、この難関をともに乗り越えたい。
(編集:榊原すずみ)