――「このままでは生活できなくなる」。4月の緊急事態宣言以降、アルバイトをする学生からの相談が増えた。アルバイトで学費や生活費を稼いできた学生の多くが、苦境に喘いでいる。
「高等教育無償化プロジェクトFREE」が行なったネット調査「新型コロナ感染拡大の学生生活への影響調査」によれば、「退学を検討」している学生はおよそ2割にのぼった。
これに対して政府は、新型コロナウイルスで困窮した学生に、バイト収入が激減した場合は10万円、住民税非課税世帯は20万円を給付する追加の支援策を閣議決定した。対象者は約43万人にのぼると想定されている。
本記事では、私が事務局長を務めるNPO法人POSSEと連携しているブラックバイトユニオンに寄せられた相談事例から、アルバイト学生が新型コロナによってどのような影響を受けているのかを明らかにし、政府の支援策の実効性についても考えていきたい。
■休業手当が支払われずに困窮する学生たち
POSSEおよびブラックバイトユニオンには、3月から5月16日までに学生アルバイトからの相談が92件寄せられている。
彼女ら彼らは具体的にどのような問題を抱えているのだろうか。相談事例から見えてくる実態の一部を紹介したい(事例は個人が特定できないように編集している)。
個別指導塾で講師としてアルバイトをしている学生は、4月以降、新型コロナの影響で臨時休塾になったが、休業補償に関する説明が一切なかった。後日問い合わせたところ、「休業手当を出すことはできない」と言われてしまった。
また、家賃や生活費を稼ぐために居酒屋でアルバイトをしていた学生は、緊急事態宣言の後、店が休業になった。職場からは何の連絡もない。「家賃や生活費を仕送りではなく自分でアルバイトで稼いで払っているので、このままでは生活に困ってしまう」と訴える。
また、飲食店でアルバイトをしていた別の学生は、緊急事態宣言以前から店が休業になった。仕送りはもらっておらず、奨学金を借りて学費を払い、アルバイトで生活費として月13~15万稼いでいた。休業補償がなされていないため、その収入がいっさいなくなってしまった。「このままでは生活できない」という。
■生活費を稼ぐためにアルバイトをする学生が増えている
学生といっても、生活に余裕がない人たちが増えている。かつての学生アルバイトは「お小遣い稼ぎ」というイメージが強かったが、いまは違う。
国立大学の授業料は1990年には33万9600円から、現在は53万5800円までおよそ1.6倍上昇したが、日本全体の所得は低下しており、学費を負担できない家庭が増えた。
仕送りの額も減少している。東京私大教連による学生生活調査によれば、仕送りを10万円以上もらっている学生は1995年には62.4%であったが2018年28.4%にまで減少。逆に仕送り5万円未満(0円含む)の学生は1995年7.3%から2018年23.0%にまで増加した。
つまり、生活費を(場合によっては学費も含めて)稼ぐためにアルバイトをしなければならない学生が増大しているのだ。ここに新型コロナの影響が深刻化している理由がある。
■休業の影響を受けているのは小売・飲食・塾のアルバイト
寄せられる相談を業種別にみると圧倒的に「小売・飲食」からが多く55%を占めており、次いで「個別指導塾・予備校」からの相談が多い。この両者だけで相談のおよそ7割になる。
相談に来た学生がどのような問題を抱えているのかを見てみいくと、圧倒的に「使用者側の事情による休業」に関する相談が多くなっている。事例で示したように「休業手当が支払われない」という問題が非常に多い。
緊急事態宣言によって休業することになった、小売や飲食、個別指導塾で働いていた学生たちが、休業に伴って問題を抱えているということがわかるだろう。学生からの相談は3月末から徐々に増え始めたが、緊急事態宣言が出されてから一気に増加した。
こうした産業で働く学生アルバイトは、職場のなかで重要な役割を背負っている。小売・飲食・塾の多くの職場では、店長や教室長などの正社員はせいぜい1人。それゆえ、学生アルバイトが職場で重要な責任を負って働くことになる。
しかしながら、重要な労働力として職場に組み込まれているにもかかわらず、休業などの場合には「学生だから」という理由で補償から排除されてしまうという状況が広がっている。
■休業手当は請求することができる
なお、休業補償を特別な理由もなく支払わなかったり、「学生は対象にならない」などと言って支払わないケースが多いが、新型コロナによる休業であっても、多くの場合、企業には休業手当の支払い義務がある。また、学生アルバイトが休業補償を請求することも可能だ。(参考:学生の2割が「退学検討」の衝撃! 立ち上がり始めた学生アルバイトたち)
ブラックバイトユニオンでは休業補償が得られず生活に困っている学生をサポートしながら、団体交渉などを通じて、学生アルバイトに対する休業補償を支払うための取り組みを進めている。「緊急事態宣言による休業だから仕方がないのかな?」と思ってあきらめている学生がいたら、ぜひ相談してもらいたい。
学生ではないが、アルバイトが声をあげたことで休業補償が支払われた実例もある。コナミスポーツ株式会社は、当初アルバイトには休業補償を一切支払わらないとしていたが、同社のアルバイト従業員が声をあげたことによって、その方針を一転。アルバイト従業員にも10割の休業補償を支払うとした。(参考:コナミスポーツが休業補償10割へ 背景にアルバイトたちの「必死」の訴え)
個別指導塾でアルバイトをしているブラックバイトユニオンに参加するメンバーも、こうした成果を目の当たりにして「自分も声をあげてみよう」と決めた。「待っていても、国も企業も助けてくれない」と考え、現在、アルバイト先の企業に休業補償を求める準備をしている。
■10万円給付で足りるか?
さて、最後に、政府が発表した学生に対する支援策の有効性について触れたい。
政府は学生に対する支援策として、バイト収入が激減した場合は10万円、住民税非課税世帯は20万円を給付することを決めた。しかしすでに4月の休業によって生活が困窮している学生は少なくないため、速やかな実施が求められる。
また文部科学省が上限20万円の給付金に関して、外国人留学生に限って成績上位3割程度のみとする要件を設け、大学などへ伝えたと報じられてもいる。しかし外国人留学生だけに成績要件を設けるというやる方は明確な差別だ。日本人と同等の条件で実施すべきだ。これに反対するネット署名も立ち上がっている(「文部科学省: 留学生全員に現金給付をして下さい!」)
果たしてこれで、十分な支援の有効性があると言えるのか。
10万円では退学を検討するほど追い込まれている学生を救済するには十分ではないだろう。学費の延納や減免、給付型奨学金の拡充など、学生生活を保障するための措置を国の責任で実施していくべきだ。新型コロナによって、アルバイトをしなければ大学に通い続けることができないという構造そのものが問われているのではないだろうか。
(編集:榊原すずみ)