災害列島とも呼ばれる日本では、地震や津波、台風や水害などといった大きな災害が繰り返し発生してきました。「自分だけは大丈夫」と思っていても、いつ何時そうした災害に巻き込まれるかわかりません。日頃から防災・減災に対する意識を培っておくことも大切ですが、いざ実際に災害に直面した際には、どのように生活を再建していけばいいのでしょうか。被災によって直面する困難、被る損害は、人や場所、災害の種類によって大きく違います。しかし、第一歩目を踏み出すために必要な手続き、利用できる制度には、どの災害にも共通しているものもあります。本記事ではそうした災害時特有の制度について、基本的な事柄を整理してご紹介します。
災害時特有の制度がいくつもある
そもそも災害に見舞われた際、どんなことに直面するのか、想像できるようで具体的なところはわかりにくいかもしれません。そして実際、災害の種類や「災害救助法」「被災者生活再建支援法」などの法律の適用があるか否か、また自らの被災状況によって、活用できる支援や制度も異なっています。
災害時特有の制度の中で、多くの災害で共通するものの一つに「り災証明書」が挙げられます。災害対策基本法に基づいて、被災者の方からの申請によって市町村が被害状況(全壊、大規模半壊、半壊、一部損壊など)を調査し発行するこの証明書は、ニュースなどでご存知の方も多いのではないでしょうか。各種支援・制度を活用をする際、この証明書が必要となる場合が多いのですが、 ①自ら申請が必要であること ②証明書発行のための調査と片付けが前後してしまう際に、被害の状況がわかる写真を証拠として撮っておく必要があることなど、予め留意しておくべきポイントがあります。また、内容に疑義・不満がある場合は再調査を申し立てることもできます。
生活再建の一歩を踏み出す
では、生活の再建に向けて、利用できる公的制度・支援にはどんなものがあるのでしょうか。以下に代表的な4つの制度を紹介します。
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【被災者生活再建支援金】
被災者生活再建支援法に基づいて、すまいが全壊(※)になってしまった世帯に対し、支援金を支給する制度です。住宅の被害程度に応じて支給される「基礎支援金」(全壊等:100万円、大規模半壊:50万円)と、その再建方法に応じて支給する「加算支援金」(建設・購入:200万、補修:100万、賃借:50万円)からなります。
※り災証明書の「全壊」判定だけではなく、半壊や敷地被害でも解体により全壊扱いになる場合などもあるため、詳細は市町村への確認が必要です。
【応急修理制度】
災害救助法に基づき適用される「応急修理制度」は、すまいが半壊もしくは大規模半壊の判定を受けたものの、”応急的に少し直したら居住できる(居住することに決める)”場合に活用できる制度です。借家でも利用可能です。一方、修理できる箇所が決まっていたり、自治体への申請がなければ活用できなかったり、半壊の場合は所得要件があったりと、何かと制限も多いという側面もあり、活用にあたっては十分な検討が必要です。
参考リンク
2020年7月豪雨災害から適用となった、応急修理制度利用中の仮設住宅利用について
自宅修理でも仮設入居可 7月豪雨から適用(2020/7/17 日経新聞)
【義援金】
被災の状況に応じて分配され、被災された方からの申請に基づき支給されます。義援金は赤十字や赤い羽根共同募金など各地で集められたのち、被災地の自治体に送られ、第三者機関である義援金配分委員会(被災自治体、日本赤十字社、報道機関等で構成)によって配分基準を作成、被災された方々に配分されます。
【災害弔慰金】
災害がきっかけ(災害関連死を含む)でお亡くなりになった方がいらっしゃる場合、災害弔慰金法に基づき、ご遺族に弔慰金が支給される制度です。(生計を維持していた方がお亡くなりになった場合は最大500万円、その他の方の場合は最大250万円)また、同法に基づき、市町村から有利な条件で最大350万円の貸付を受けることができる「災害援護資金貸付」などもあります。
また、このほかに、支給されるお金以外にも、災害が原因で返済が困難になった借入れを一定の条件のもとで減免してもらえる「被災ローン減免制度(自然災害債務整理ガイドライン)」といった、各種ローンに対する措置もあります。こうしたより個別具体性の高い内容については都道府県の弁護士会の相談サービスなどを活用することをおすすめします。
過去の災害から教えていただくこと
もちろん、この他にも自治体独自の取り組みや、条件によって利用な可能な制度がある場合もあるので、常に新しい情報を手に入れる必要があります。しかし、被災地の多くでは、情報の周知不足や錯綜が大きな問題となる場合が多く、「知らなかった」「知っていたら別の選択をしていたのに…」という声も聞こえてきます。どのように正しい情報を行き渡らせるかはそれぞれの自治体やコミュニティ、また支援者の間での課題となっています。
ここに紹介した制度はほんの一部ですが、基本的な制度や過去に起きた災害の事例を知っておくことによって、「今回の場合は当てはまるのか?」「なぜ対象とならないのか?」など、支援を求めていくきっかけをつかむこともできるのではないでしょうか。
写真:佐藤慧
(文 佐藤慧・舩橋和花 監修 在間文康 [D4P理事,弁護士] / 2020年7月18日)
【参考資料・記事】
▶︎ [令和2年7月豪雨]生活再建の一歩を踏み出す「希望」の法制度情報を得よう(2020/7/9)
▶︎ くま弁ニュース~令和2年熊本南部豪雨災害編(第1号)
▶︎ 被災者生活再建ノート(日本弁護士連合会 2019.10.18 補訂版)
▶︎ 災害に備える くらしとお金の安心ブック(日本FP協会)
▶︎ 被災者支援チェックリスト(弁護士 永野海氏)
【活用したい関連資料】
被災者生活再建ノート(日本弁護士連合会作成)
災害からの生活再建に必要な情報が一冊のノートにまとめられています。カルテを活用することで、被災された方ご自身だけではなく、支援者・相談対応者も状況把握がしやすくなります。水害にあった時に(震災がつなぐネットワーク)
水害に特化した対応マニュアルです。制度の紹介から、片付けの方法まで網羅されています。新型コロナウイルス 避難生活お役立ちサポートブック第2版修正版(JVOAD/JVOAD避難生活改善に関する専門委員会 2020年6月17日発行)
新型コロナウイルスの影響下での避難生活に際し、どのようなポイントに気を付けるとよいか、活用できる素材などが掲載されています。
(2020年7月18日のDialogue for People掲載記事「いざという時、災害からの生活再建のために」より転載。)