我が家が日本からポートランドに移住をしたのは、2019年の8月。そのときにまさか国境が閉鎖されるような状況がやってくるとは思いもしなかった。
ポートランドで今経験していること、今この時の想いを忘れないように綴っておく。海外で暮らすことのリスクや現実も少し触れることになるだろう。
はじまりは日本への帰国の中止だった
3月7日のポートランドー成田便を予約をしていた。仕事のため家族は残してひとり、1週間ばかりの帰国を予定していた。滞在先は都内。
2月中旬から日本国内での感染者報告が増え、企業がリモートワークへと切り替へ始めた。2月22日、米国CDCが日本への渡航警戒レベルが2へと上がったことを受け、帰国をキャンセルすることを決めた(その数日後に政府からイベント自粛が発令され、私が参加予定だった会議も中止となるのだが)。
この時はまだ私の住むオレゴン州では感染報告がなかったと記憶している。帰国して自分が感染する可能性より、万が一感染をした時に米国へと持ち込み、家族や友人知人、大切な人と街が辛く悲しい思いをする可能性が怖くてキャンセルした。また道中の空港で感染して、鎌倉の友人や同僚に万が一にも、と考えるとこれは行くべきではないと思った。
3月13日、4月頭まで一斉休校が決まる
3月13日、もともと3月最終週は春休みだったのだが、1週間早く休校になり春休みも数日延びることになった。オレゴン州全体でもまだ30名程度の時期だったと思う。決断の速さに驚いた。
3月16日、レストラン&バーのクローズのオーダーが出る
私が住んでいるストリートは、わりと飲食店が多く、家族で週に数回ランチやディナーを楽しんでいた。その飲食店が一斉に閉まった。テイクアウトのみの営業をしている店も3割ぐらいはあった。
3月17日、一斉休校の延長が発表される
私が仕事場として愛用していたコーヒーショップもTO GO(テイクアウト)のみとなった。その時毎日2杯は買いにこようと決めた。そして一斉休校が4月28日まで延長となった。
そして翌日の3月18日、そのコーヒーショップでバリスタ全員が集まって朝からMTGが開かれていた。ドアにはしばらくクローズするよというお知らせがあった。
同じ頃、公園に出かけた時、子どもをつれたパパが自転車で来ていた。帰路にその家族がいたので向かったところ、5メートルぐらいの距離のところで「来ないで!僕風邪気味なんだ!6フィート保って!」と大きな声で叫ばれたという出来事があった。
風邪をひいてても子どもを見ていなければいけなくて外行きたいと駄々こねたんだろうなと。もしかしたら、と少しでも感染の可能性があるなら、感染している前提で人と接触を控え、近づかない。そういうものだよね、とこのパパから改めて教えられた気がする。
3月23日、「Stay Home, Save Lives」のオーダーが出る
実質、外出禁止だ。エクササイズと買い物は最低限認められている。感染者はオレゴン全体でまだ100名に達していない。でもこの決断は賛同したいものだった。私たちひとりひとりの行動が命をまもる。動いてはいけない。
子どもたちにはちょっと辛い。うちは集合住宅で庭もなければ広くもない。ちょっとのエクササイズで人を避けて家の周りを歩いたり公園に気分転換に出かけているがそれも神経をかなり使う。一方で、リングフィットアドベンチャーを子どもとやったり、Cosmic Kids YOGAという楽しいYouTubeを見つけたり、家の中で楽しむことを増やした。
ピアノを弾いたり、オセロをしたり、トランプをしたりと子どもたちと過ごす時間は格段に増えた。リモートワークで仕事は続いているためそこはしんどい事もある。が、育休以来、ここまで子どもたちと一緒にいたことはおそらくない。かけがえのない時間を過ごせているのかもしれない。
そして公園へとエクササイズに出かける途中、すれ違う人たちは必ず6フィートあけるように道を譲り合ったり、対向車線側へとルート変更したりと、ひとりひとりの行為が街全体へと影響を及ぼすことをみんなわかって行動しているのを感じる。この街がまた好きになった瞬間だった。
スーパーマーケットは混雑を避けるために入場規制をしている。6フィート空けてみんな並んでいる。
海外で暮らすということ。
今年の3月にはポートランドから羽田へと直行便が飛ぶはずだった。もちろん、今直行便なんて飛んでいるはずがない(それどころかポートランドから主要米国都市へ行くこともままならない)。
東京も鎌倉もいつでも行けるしね、直行便も出るし!そう言いながらポートランドに来た。年に2回は行き来するつもりで。
6月の日本帰国のフライトを3月頭に予約をしている。が、米国、日本のどちらかがカオスであれば私は日本に帰る選択をしないと思う。いやできないと言ったほうがいい。なぜなら、米国がカオスだった場合、私が日本の大事な友人、同僚、家族を危険に晒す可能性があるから。逆に日本がカオスだった場合。いま暮らす街にも大切な人がいる。子どもたちにもここにコミュニティができあがっている。その人たちと街にリスクを持ち込むことになる。
日本への3月帰国キャンセルを決めた時と同様だ。私は感染するかもしれない。その前提のもと、周囲に起こる出来事を予測すると、それは悲しいことしか思い浮かばず移動するという選択肢をとりたくなくなるのだ。
そして、もうひとつ。私は米国市民ではない。永住権は持っているから仕事も滞在もできるが、もしかしたら入国できない可能性もある。
世界が近くなった、と思っていた。が、それはこうも簡単に変化する、ということを知った。
自分たちがとった選択であり後悔はないのだけど、海外で暮らすリスクと現実を海外移住を考えている人には現状を伝えることで知らせたいと思ったこともあり、今の気持ちと状況を記しておくことにした。
非日常が日常になるボーダーにいま私たちはいる。
本当にどういう暮らしがいいか、働き方がいいのか。それをひとりひとりが考える時なのだと思う。
ひいてはどういう街、どういう産業とこれから生きていくべきなのか。つくっていくべきなのかを皆が考える時なのだとも思う。
決められた時間を働くために、子どもたちを預けるわけだけど、本当にその時間は働くのがいいのか?(もっと大切な時間の使い方があるのではないか)
本当に気持ちのより人との密度はどれぐらいなのか?(満員電車も、過度な密度も辛くはないか)
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最後にオレゴン州とオレゴン保健局、そしてポートランドに本社を構えるクリエイティブエージェンシーWiden+Kenedyがつくったキャンペーンムービーが先週末に公開されていたので紹介したい。
Stay Homeのオーダーがオレゴン州知事から発令されたのが月曜日、その土曜日には公開されていたから、どれだけのスピードで企画制作されたのかを考えると、制作した人たちの真摯な思いを感じずにはいられない。
どうぞ皆さん見てください(2本あります)。
DON’T ACCIDENTALLY KILL SOMEONE.
STAY HOME,SAVE LIVES.
大事な人の生死を決めるのは私たちの行動とムービーは言っている。
出かけたくなったら、移動をしたくなったら、移動をすることになったら、出発点に、そして到着点に、そして道中に、いるかもしれないあなたの大事な人のことを思い浮かべてみて欲しいと思う。
(2020年03月30日の松原佳代さんnote掲載記事「ポートランドで出会うことになったコロナがある日常。」より転載)