第92回アカデミー賞でアジア映画として初めて作品賞を受賞したほか、監督賞など3部門も受賞した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」。作品の中で重要な役割を果たすのが「家」だ。IT長者の一家が暮らす高台の豪邸や、貧しいキム一家が暮らす半地下の住宅に実際に暮らすには、いくらくらいかかるのか。調べてみました。
<注:以下、一部ネタバレ要素を含みます>
「パラサイト」は、劣悪な居住環境の半地下住宅に暮らす、全員が失業中のキム一家が、高台の豪邸に暮らすIT長者の一家に身分を偽って入り込み、「寄生(パラサイト)」する作品。キム一家の計画は順調に進み、寄生の度合いを強めていくが、ある夜から物語は急転する――。
作品の中で、富豪の一家と貧しいキム一家との違いを象徴的に浮き立たせるのが、それぞれの家族が暮らす「家」だ。
富豪一家は、ソウルの高台にモダンで広々とした、庭付きの一軒家に暮らしている。家はガラスとコンクリートを多用し、見ているだけで澄んだ空気を感じる。Facebookの映画公式アカウントでは、豪邸の写真も投稿されている。
一方で、キム一家が暮らす半地下の家は、日当たりも悪く、窓から見えるのは道行く人の膝下。水圧の関係から家の最も高い位置に便器が置かれている。家の中は便所コオロギが這い回り、かび臭さすら感じる空間だ。
対照的な2軒の家は、いずれもセットで撮影され、実在しない。しかし、同程度の家に住むには、それぞれどれくらいのお金が必要になるのだろうか。
まずは、豪邸の方から調べてみたい。ハフポスト韓国版によると、「パラサイト」に描かれているような隠し部屋がある豪邸は珍しくないようだ。大韓航空などを傘下に持つ財閥・韓進グループの会長宅を家宅捜索したソウル地検は、本棚やクローゼットで隠された隠し部屋を3つ発見したという。
韓国の通信社、聯合ニュースによると、世界有数の造船企業を傘下に持つ大企業の前会長宅は、2015年に競売に出され、鑑定価格は86億6000万ウォン(約8億円)だった。この家にも地下に隠し部屋があり、核爆発や震度7の地震にも耐えられ、空気と水を浄化する施設も備えていたという。
作品に登場する豪邸はセットだが、内装品は実際に高価なものだった。ニューヨークマガジン誌によると、ソファ前に置かれた桜の木のローテーブルは1万9800ドル(約220万円)、ダイニングテーブルは2万2300ドル(約245万円)、ダイニングチェアーは一脚2100ドル(約23万円)する。さらに、リビングに飾られた森の絵は12万ドル(約1320万円)だ。
では、半地下の住宅はどうだろうか。
半地下住宅はそもそも、北朝鮮との戦争に備え、「防空壕」として設置された空間を、低所得者向けに住宅に代用したもの。韓国統計庁の2015年人口住宅総調査によると、韓国では約36万世帯が半地下または地下住宅に住んでいる。全世帯のうち、その割合は実に1.9%を占める。
イギリスの公共放送BBCは、半地下の住民に注目した特集の中で、ソウルの半地下の住宅に実際に暮らす人々を取材。半地下住宅は家賃は月額およそ54万ウォン(約5万円)だと伝えている。
低所得者層が半地下住宅に暮らすケースが多い要因のもう一つが、「敷金」だ。韓国では日本の礼金に相当するものはないが、敷金にあたる保証金が高く、金融機関からの借り入れが困難な低所得者層は、家探しに苦労することが多いという。
その点、半地下住宅は敷金が安く、低所得者層でも入居しやすい傾向にあるという。日本に留学経験のあるソウル在住の韓国人男性(34)は、ハフポスト日本版の取材に「半地下住宅は、日本で言う風呂トイレ共用の4畳半一間のような存在。20年以上前は、家族で半地下の家に住んでいる人も多かったが、最近はいわゆる貧乏学生が住むところというイメージ。高度経済成長時代の遺物という感覚です」と話す。