自宅で話をするロヒンギャ難民のアブル・カラムさん=群馬県館林市
ミャンマー西部ラカイン州に多く住むイスラム系少数民族ロヒンギャは、仏教徒が大多数の同国で「不法移民」として扱われ、国籍も与えられないなど迫害を受けている。ロヒンギャが国際的な問題になっているなか、日本に暮らすあるロヒンギャ難民の家族を訪れた。
夏の暑さで有名な群馬県館林市。連日、最高気温のニュースで耳にすることも多いこの地に住むアブル・カラムさん(51)宅に7月、足を運んだ。
■88年、ヤンゴンで民主化デモに参加
「そのうちミャンマーに帰れるから」。カラムさんはそう信じて、2000年に来日した。しかし、母国の大地を再び踏める見通しは立っていない。
ラカイン州出身。1988年、イギリスから帰国したアウンサンスーチー氏が民主化運動を率いた際には、首都(当時)ヤンゴンの大学生としてデモに参加した。「ロヒンギャにとってラカイン州の外は外国のようなものでした。でも、大学に行くことでヤンゴンに行けました」。しかしこの民主化運動を軍政が弾圧。仲間は捕らえられ、拷問を受けて何人かは命を落とした。カラムさんは、野原や山を越えて隣国タイに逃れた。その後、ドイツに行ったこともあったが、「食べ物など文化が、欧米に比べて近い」と思って日本行きを決心した。
仲間を頼って名古屋や横浜に住んだ後、館林にたどり着いた。不法滞在の身分でもあり難民申請をしていたが、2003年10月に茨城県牛久市の入管施設に収容されることになり、ここで15カ月間を過ごした。妻と結婚したのは収容される前で、結婚早々、離れて暮らした。2007年に難民に認定された。
■ミャンマー語が話せない子供たち
難民認定を受けているため、在留資格と法令の範囲内での権利と公共サービスの利用が認められており、現在の暮らしは、一応、安定している。郊外の公営住宅に住み、家族はバンコクで出会った43歳のタイ人の妻と、8歳の長女、6歳、5歳、4歳の3人の息子だ。子供たちは、笑顔で家に迎え入れてくれた。
カラムさんは、自動車関連工場で塗装の仕事をしている。周辺のロヒンギャの半数は工場に勤めており、残りは中古車販売業を営んで車を東南アジアなどに売っている人が多いという。日本に暮らすロヒンギャは約230人といい、館林にはその約9割の約200人のロヒンギャが住んでいる。在日ロヒンギャの人たちが集まる協会の初代代表が館林に住んでいたことから集まったとされる。200人の中には、難民認定されず、仕事や医療などの面で苦境にある人々も少なくない。
しかし、心配なのは子供たちの将来についてだ。妻子との会話はタイ語がメーンで、あとは日本語を使っている。カラムさん以外の家族はミャンマー語を話すことができない。そして、子供たちが今後、どこで学び、何をして暮らすのかが気になる。
イスラム教徒の妻は、いつも肌の露出を最小限に抑えた衣服に身を包んでいる。8歳の娘も頭を覆う布をかぶり、夏でも長袖、長ズボン姿だ。小学校の水泳の授業では当然、水着姿になるのだが、「そろそろお終いでしょうかね」とカラムさんは話す。長女は「学校は楽しい」と笑顔で話すが、学校給食や家族での外食についても、イスラム教徒は豚肉を口にしないため、苦労があるという。
■アウンサンスーチー氏には「もっと訴えてほしい」
ミャンマーは2011年から民政化が進み、ビルマ族の難民では母国に帰る人たちも増えている。しかし国籍のないロヒンギャは、帰国の見通しが立っていない人がほとんどだ。
「アラカン(ラカイン)に住んでいる友達はたくさん捕まりました。危ない思いもしているようです。そして私は故郷を離れ、遠い日本で暮らしています。ロヒンギャとして、なんのために生きているのかと時々考えてしまいます」
カラムさんはそう思いをぶつけた。ラカインでは、2012年に仏教系住民とロヒンギャとの衝突が激化し、多数の死者が出た。さらに数万人が避難民となり、その後も国外脱出が続いている。無事に他国にたどり着けず、洋上などで命を落としてしまう人たちも多い。そんなニュースに触れる度に、カラムさんの胸が痛む。
「かつては違う宗教の人たちの間でも、ここまでぶつかることはありませんでした。私たちも、お坊さんに会えば挨拶をしたものです」
ロヒンギャ問題はどうなるのか。カラムさんは「難しいですね…」と表情を曇らせた。最大野党党首のアウンサンスーチー氏は多数派のビルマ族で、ロヒンギャ問題については積極的な発言は控えている。「国際社会にもっと訴えてほしいです。彼女が言えば、変わります」。
カラムさんの両親や親類は、地元ラカインに残っている。電話などで時折、連絡を取っている。しかし、「88年に母国を離れてからは、両親と直接会ったことはないです。会いたいです」と語った。
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記者(中野)は、10年以上前から新聞記者として在日ロヒンギャの人たちを取材してきた。今後もミャンマーやロヒンギャの人たちを見続けていきたい。
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