木の実から生まれた500グラムのダウン。老舗アパレルの後継が挑む日本発のサステナブルなブランドとは

家業で目の当たりにした下請け企業の現実とは?「KAPOK KNOT」代表・深井喜翔さんインタビュー。
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「KAPOK KNOT」代表・深井喜翔さん
Kaori Sasagagawa / 提供画像

たった500グラムなのに、ダウンの暖かさーー。「カポック」という木の実から採れる綿に目をつけた、日本発のサステナブルなアパレルブランド「KAPOK KNOT(カポックノット)」。

2019年に実施したクラウドファンディングでは目標金額の30倍を超える1700万円以上の資金を集め、10月にはアメリカでのEC展開も開始した、今まさに注目のブランドだ。

深井喜翔さん(29)は、双葉商事という老舗アパレル企業に属しながら、KAPOK KNOTの代表を務めている。深井さんに、ブランドを立ち上げたストーリーと、そこに込められたミレニアル世代らしいSDGsを体現するビジネスを聞いた。

 

500グラム、木の実から生まれた新素材のダウン

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「こだわり」が詰まったアウターを羽織る。驚くほど軽いのに、しっかりと暖かさを感じた。KAPOK KNOTの主力商品のコートやジャケットは、カポックという植物由来の天然の綿を使っている。

主に東南アジアに自生する落葉高木で、日本では観葉植物としても知られているカポック。その木の実から採れる綿は、繊維の中が空洞になっており、コットンの約8分の1という軽さながら、湿気を吸って暖かくなる吸湿発熱という機能を持ち合わせる、優れものだ。

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しかし、カポックは繊維が短く、糸状にすることが難しい。生地ができたとしても、洗濯時に抜け落ちてしまうなどの理由から、各メーカーでも商品化には至らず、海水に浮いた油を吸うオイルキャッチャーやクッションの詰め物など限られた用途でのみ使われてきた素材だったという。

「カポックは、木の実からとれるので、木を伐採しなくてもいいし、羽毛のように動物を殺す必要もないので、環境面でも優れています。安価なのに機能的なので、作り手も消費者にもメリットは大きい。素材として、これだと思いましたね」

「試行錯誤しながら、カポック繊維をシート状に加工した『エシカルダウンカポック™ 』(特許申請中)を中綿として使用し、製品化に成功しました」

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Kaori Sasagawa

主力商品のコートやジャケットをつくるために、インドネシアのカポック工場を探し当て、直輸入する交渉に成功。デザイナーらと開発した商品は、主に北海道と青森の工場で縫製をしている。 

「従来のアパレルの商流で言うと、10万円ぐらいする商品ですが、受注生産にすることで価格を抑え、ファンの方が買いやすい価格設定にできています。また、まだブランド認知拡大の段階。農場から製品化までの一貫したトレーサビリティを実現するためには、ある程度消費者のもとに届かないと始まらないので、1、2年目は赤字の覚悟です」

 

家業で目の当たりにした下請け企業の現実

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Kaori Sasagawa

慶應義塾大学環境情報学部で、ソーシャルビジネスを学んだ深井さん。途上国から世界に通用するブランドをつくる「マザーハウス」や、子どもの貧困問題に取り組む「認定NPO法人フローレンス」など、同じ大学の卒業生の活躍に憧れていたという。

「社会性と事業性の両立が当たり前だと思いながら、社会に出たら、案外そんなことないんだなという葛藤もあって」

新卒で、有休資産を活用する不動産ベンチャーに入社したが、ハードな働き方に限界を感じ、1年で退社。大手の旭化成に入社し、スポーツウェアの表地の営業などを担当。繊維の勉強をしたり、新しい素材を見つけたりして、2年ほど働いた。

深井さんの実家の家業は、70年以上続く双葉商事。婦人服製造を得意とする下請け企業だ。長男の深井さんは、いずれはその家業を継ぐ心積りでいた。

「双葉商事に戻って、僕が痛烈に課題を感じたことがありました。ブランドからオーダーがあった洋服をカンボジアで作っていたのですが、この5年で最低賃金が2倍になっているんですね。なのに、この5年間で商品の値段は同じ。上がり続けるコストをどう吸収するかを考えたら、過重労働させるか、自分たちが利益を削るかの二択なんですよ」 

「自分は後継としてあと50年働かなくてはいけない。なのに、カンボジアの人件費は上がり、日本の服の平均単価はどんどん下がっている」

「この構図を根本的に変えなあかんと思って。まずは下請け企業からの脱却、そして持続可能な新しい商流、日本から世界に通じるブランドを作らないといけないと思いました」

こうして深井さんが、双葉商事の新規事業として立ち上げたのがKAPOK KNOTだ。

経済産業省/JETRO主催のグローバル起業家等養成プログラム『始動 Next Innovator2019』のメンバーに選ばれたことや、受注生産を目的に始めたクラウドファンディングが成功を収めたことで、ビジネスとしての勝ち筋を見い出し、2020年1月、KAPOK JAPANとして会社を設立した。 

メンバーは深井さんと、経産省からの出向で期間限定の人材がフルタイムで、他はみな副業でブランドを支える。

ちなみに、ブランド名の「KAPOK」はカポック、「KNOT」は結び目のこと。永遠に続く、解けない結目の水引をモチーフにしたロゴを用いて、日本発のサステナビリティをうたうブランドとして名づけたという。

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Kaori Sasagawa

ミレニアル世代にとってのSDGsとビジネス

深井さんがサステナビリティやSDGsを“自然”と考えるようになった原点が2つある。

1つ目は、10代の頃から、国際交流を目的とする団体CISV(Children’s International Summer Villages)に参加していたこと。活動の中には、毎年、世界各国の子どもたちと約1カ月の共同生活をしながら交流を深めるプログラムがあり、「人権(Human Rights)」「紛争と解決(Conflict and Resolution)」「多様性(Diversity)」「持続可能な発展(Sustainable Development)」という4つのテーマが掲げられていたのだという。 

「Sustainable Development(持続可能な発展)というテーマについて、幼い頃から慣れ親しんでいたことは自分の中で大きな原体験だと思いますね。持続可能な発展は僕にとってごく自然なことでした」

2つ目は、大学時代に所属していたゼミの合宿。沖縄県の宮古島に、障がい者の方々が働く福祉施設があり、そこでつくる野菜などの商品のマーケティングを手伝った。

「その施設の理事長が『障がい者がつくっていることを抜きにしても売れる状態にしてほしい』と言ったんです。障がい者がつくるストーリーを抜きにしても売れる商品でなければ持続的ではない、と。福祉施設がサステナブルな考え方をしていることが衝撃的でした」 

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Kaori Sasagawa

深井さんは、決して他社とのビジネスの差別化やブランド力強化のために、サステナビリティやSDGsと向き合っているわけではない。サステナブルな考え方が、自分のベースに深く染みついているのだ。

「日本の意思決定層は50、60代のおじさんたちで、彼らの言うSDGsは、せいぜい5年先の話。本当の意味でのサステナビリティは、日本はまだまだ浸透していないと思っています」

「アメリカではミレニアム世代が10年後には労働力人口の75%を占めると予想されている。ミレニアム世代がマスだから、パワーを持ちますよね。僕らのようなミレニアム世代がつくったブランドが世界を席巻していければ。きっと日本も変わるのではないかなと思っています」

下請けからブランドへ——。自然由来の素材を開発し、オリジナル商品で世界に挑戦する。日本発のサステナブル・ブランドは、ミレニアル世代から生まれた地に足の着いたビジネスだった。 

 

(取材・文:五月女菜穂、編集:笹川かおり)