缶ビール→自作ハイボール→4Lの焼酎へ…。コロナ禍でアルコール依存症予備軍となった私は減酒を決めた

「味」よりも「コスパよく酔える」お酒を、長い時には7時間飲み続ける。外出自粛中の寂しさやストレスで、大好きなお酒の飲み方が変わってしまったライター・姫野桂さんによる「減酒」の体験記です。
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Supermarket shelf defocus background
Nirad via Getty Images

お酒が好きだ。

一日の締めの行事である晩酌は毎晩欠かさない。休肝日なんてよほど体調の悪いとき以外存在しない。

そんなお酒大好きな私だが、このコロナ禍で飲み方が変わった。

まず、飲み始める時間が早くなった。リモートワーク中は移動時間が削減され、仕事が思ったより早く終わることも多かった。そうすると、今日は仕事を頑張ったからもういいか! と、早いときだと午後3時頃から自宅で一人で飲み始めることもあった。夕飯時にはもうほろ酔いで、就寝前はへべれけ状態である。

そして、飲む時間が長くなると飲む量も増える。次第に私はコストパフォーマンスを重視するようになった。

最初は500ml缶のビールやチューハイだったものが、次第にウイスキーの瓶と炭酸水を購入して自作ハイボール、それも通り越して4Lの焼酎のボトルを買ってジャスミンティーで割って飲む飲み方に変わった。

もはや味などどうでもいい。酔うために飲む飲み方に変わってしまったのだ。飲んでいる時間は約7時間。

そして、そんな飲み方をしていたある日の朝、ゴミを出すためにゴミ箱をのぞいたら、ゴミがすっきりとなくなって新しいゴミ袋がセットされているではないか。どうやら私は酔ってブラックアウト(記憶喪失)を起こし、深夜にゴミを出していたようなのだ。

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7maru via Getty Images

このブラックアウトは、大量の酒と、普段私が処方されている薬をチャンポンしてしまったことから起こったものだと考えられる。

私は発達障害の診断を受けており、その二次障害から双極性障害Ⅱ型を併存している。そのため、通院している心療内科から抗うつ薬などを処方されていて、主治医には「双極性障害の薬とアルコールは相性が悪いので、薬を服用中のお酒は控えるように」と言われていたが、そんなことは右耳から左耳へ流れ、私は頑なに飲むのをやめなかった。なぜなら、血液検査など数値的な異常がみられないのだから、と。

しかし、今回のブラックアウトでさすがに主治医も深刻な顔をして「アルコール依存症の可能性があるので、お酒は控えましょう」と再度言い、私もようやく今の飲み方を変えなければと決心した。

 

やめずに、減らす。「減酒」という新しい選択肢

今までアルコール依存症の治療は「お酒をやめる」、つまり「断酒」しかないと思っていた。しかし、榎本クリニックで長年依存症治療に携わってきた斉藤章佳さん(精神保健福祉士・社会福祉士)の著書『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)に、新しい選択として「減酒」が紹介されていた。

私は今回主治医の勧めもあり、この「減酒」を選んだのだが、「断酒」とどうちがうのだろう。また、どんな人が「減酒」に向いているのか、斉藤さんに聞いた。

「基本的に問題飲酒(アルコールが原因で社会生活に支障が出ること)を繰り返している人が目指すべき最善の目標は断酒です。

ただ、今の日本ではアルコール依存症に対するスティグマ、例えば『お酒をやめられないのは意思が弱い』とか、『だらしない性格』という“アル中”イメージがあります。そのような偏見のせいでなかなかカミングアウトできなくて専門病院にも行けない、そこから問題が深刻化し、結局死に至ってしまうケースもあります。 

そうしたことをふまえて、最近では予防医学的な観点から、アルコール依存症になる手前の段階、つまりプレアルコホリックの段階から飲酒習慣を見直す機会を設けて、早期発見・早期治療で介入できるようなプラットホームを作る必要があるのではないか、と生まれたのが、減酒外来です」

 

禁酒3日目、お酒のCMがつらく、うつ状態に

そこでまず私は、自力で7日間の禁酒にチャレンジした。

冷蔵庫の中にはノンアルコールビールが溢れた。せっかくなのでいろんなノンアルコールビールを飲み比べて、よりビールの味に近いものを見つける遊びもしてみた。

今までほとんど飲んだことのないノンアルコールビール。1日目は「意外とビールの味を再現している! これはイケるかも!」という余裕があった。

しかし、飲んでも飲んでも酔わないため、酔いを求めてとにかく量を飲んでしまうので気持ち悪くなって嘔吐してしまった。

3日目が精神的に一番つらかった。テレビでお酒のCMが流れるのがつらい。コンビニでお酒の棚から目を背けるようになった。うつ状態にも陥って自分の価値がないように思われた。

しかし、3日目を越えたあたりから1日1日を乗り越える快感が出てきた。そしてようやく7日間の禁酒を完走し終えた。私は1週間、ノンアルコールでも耐えられたのだ。とはいえ、ストレスからか7日間毎日嘔吐していたので、胃液で喉が荒れてしまった。

8日目は350ml缶の生ビールを1本だけ飲んだ。この1本がどれだけおいしかったことか。コクがあり、のどごしがスッキリ。この瞬間、酔うためのお酒ではなく、美味しいお酒が好きなのだと確信した。

そこから数日間はノンアルコール飲料とアルコールを半々で飲み、アルコールは350ml缶2本までにコントロールした。酩酊感よりも味を優先したので、つらくはなかった。500mlのロング缶を飲むのもやめた。

そして、禁酒と減酒を頑張った数日後、著書が重版した。これは単なる偶然だが、お酒を我慢したご褒美だと思いたい。

その後、心療内科の診察があり、主治医に7日間の禁酒に成功したことを話した。すると、主治医は私の双極性障害が少し良くなっていることを感じたのか、以前から私が希望していた抗うつ薬などの減薬をしてくれ、その代わりに飲酒量低減薬を処方してくれた。

この薬は「お酒を飲みたい」という欲求を抑えるものだと主治医は言った。前出の斉藤さんによると、「飲酒量低減薬は、飲酒しても、お酒特有の酩酊感が得られなくなるので、減酒できる」とのことだった。

飲酒量低減薬を飲むのは夕飯前やお酒を飲む前。夕飯前に服用して飲酒してみると、いつもと変わらない気がしたが、なんとなくお酒に「飽きた」感じがした。

以前、斉藤さんと摂食障害についてオンライン対談イベントを行った際、摂食障害とアルコール依存症を併発している人が多いという話になった。その際、視聴者からのコメントで「私が飲まないようになったのは飽きたからです」という意見が寄せられたのだが、まさに私もその心境に陥っていた。

長年、数々の依存症の臨床に携わってきた斉藤さんも以前、重度の薬物依存症者のハードドラッグをやめた理由で「飽きたから」という言葉を聞いたという。エビデンスはないが、嗜癖問題を突き詰めていくと、依存していたものそのものに飽きる、という現象も起こるのかもしれない。

 

一番の治療法は断酒であることを忘れずに

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Chris Y. Hayward via Getty Images

それから私は、なぜ異様な飲み方をしていたのかを考えた。

コロナで人に会えなくなった影響はもちろんある。それに加えて、家に誰もいない一人暮らしの寂しさ、一時的に仕事が減ってしまった不安。それらをアルコールで打ち消していた。

しかし、飲めば飲むほど寂しさが増したり、家族を持つ人が羨ましくなったりした。それに、飲んでも仕事が舞い込んでくるわけではない。

依存症の臨床現場でたびたび言われるのが「アディクションの反対はコネクション」。私はステイホームしなければならない期間、積極的に友人たちと電話やSkypeを始めた。特に何の用事もないが「しゃべりましょう」とチャットを送り、Skypeを立ち上げることもたびたびあった。

6月に入り、少し規制が緩和されてきた頃には対面取材や対面での打ち合わせも、三密に気をつけながら開始。人に会うことでこんなに元気や、やる気をもらえることに気づいた。

今、都内では再び新型コロナウイルスの感染者数が増え、自粛はそれぞれの自己責任となっている部分がある。戸惑うことも多いが、私たちはこれからコロナと共存していかねばならない。

その戸惑いや不安からまた問題飲酒に走らないよう、何事もほどほどに捉えて言動していこうと思う。もちろん、問題飲酒で一番重要なのは断酒であることは再度承知の上、今後もお酒と楽しく付き合っていきたい。

(文:姫野桂/編集:毛谷村真木