アメコミヒーローの代名詞「スパイダーマン」が新たな映画となって帰ってきた。2017年8月11日から『スパイダーマン:ホームカミング』が日本で封切られる。今回メガホンをとったのは『クラウン』『COP CAR/コップ・カー』のジョン・ワッツ監督だ。
ジョン・ワッツ監督
1960年代に『マーベル・コミック』に登場して以来、世界的な知名度を誇るスパイダーマンは過去5回にわたって映画化された。新シリーズを託されたワッツ監督へのプレッシャーは計りしれないものだろう。
そんな中でワッツ監督自身は、原作コミックを核に「なぜスパイダーマンは、これほどまで愛されるのか」を常に意識しつつ、「新しいピーター・パーカー」を目指したという。ハフポスト日本版は単独取材で、ワッツ監督にその真意を聞いた。
「気の迷いが生じたときは、常に原作コミックに戻った」
――『スパイダーマン:ホームカミング』の制作にあたって大切にした点は。
なんと言っても、特に初期の、原作コミックのスパイダーマンだね。「なぜスパイダーマンはこれほどまで愛されるのか」という部分に集約される。
なので、撮影前の準備から撮影中も常に「スパイダーマンがスパイダーマンである」ゆえの核となるキャラクターの魅力には気を付けた。それを存分に描くために、気の迷いが生じたときは常に原作コミックに戻ったよ。そこが一番の土台になったね。
1960年代『マーベル・コミック』に登場して以来、絶大な人気を誇る
――日本では原作モノを実写化することは、原作のファンから期待のハードルが高く設定されることが多いです。
確かにそうだね。マーベルの場合は「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」という、複数のスーパー・ヒーローが共演する世界観がある。『アベンジャーズ』シリーズのようにね。
「アイアンマン」など、他のマーベル作品のヒーローも登場
そこに学べるという意味では、とても作りやすいという部分はあった。原作コミックをそっくりそのまま、原作ファンが100%納得する形で映像化することは難しい。基本となるMCUの世界観を描くことで、ファンにも喜んでもらえるように心を砕いたんだ。
――スパイダーマンの監督に決まった時はどんな気分でしたか?
僕の前作『COP CAR/コップ・カー』を気に入ってくれたマーベルの首脳陣から、「会ってみない?」と声をかけてくれました。その時は、まだスパイダーマンが映画化されることなんて知らなったよ。感触としては「なんか面白そうな監督がいるから、今後のために会っておこうか」ぐらいの感じだと思って、僕も軽い気持ちだった。
で、いざマーベルを尋ねていったら「トニー・スタークがピーター・パーカーに新しいスーツを与えて…」と、もう筋書きができていた。もちろん、僕も興味が湧いた。
僕も次回作は「ザ・青春モノ」みたいな映画を作りたかった。そのために良いテーマはないか、どんな舞台が良いか、良い主人公はいないか…とずっと考えていたんだ。そこに「グッと年齢を若くしたピーター・パーカーを主人公にしたスパイダーマンをつくる」という話があった。もちろん僕は「この映画をやりたい!」と思ったよ。
そこから僕はやる気になって、1ヵ月ぐらいかけて予告編のパロディとかプレゼンの資料とかをわんさか作って売り込みに行ったよ。ミーティングを重ねるたびに部屋に来る人も増えていった。でも、最終的に自分に決まるとは思ってなかったからね。決まった時にはもう「最高ッ!」って気分で興奮したよ。
「『力』と『責任』に葛藤する、新しいピーター・パーカーを描きたかった」
――今作では、主人公のピーター・パーカーが「スパイダーマン」としての核や矜持を持つ前、言うなれば15歳の「未成熟な青年」として描かれています。「暗い科学オタク」っぽさがない、垢抜けた感じで。
そこが今までの「スパイダーマン」と違っているところだね。人間として成熟しきれていない、大人になりきれていない。そんな青年が、ある日ものすごい力を身に着けてしまったらどうなるか…。「力」や「責任」に葛藤する姿は、ストーリーの面白いベースになるんじゃないかなと思ったんだ。
――原作のスパイダーマンでも、「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という名言がありました。これはスパイダーマンの世界の根底に流れるテーマですよね。
「大いなる力には、大いなる責任が伴う」――この言葉って、本当に奥が深いよね。ピーターぐらいの年頃って、人としてもまだ未熟だし、モノの見方もあやふや。「世界が広い」ということも、なかなかわからない。そういう部分を反映しながら、新しいピーター・パーカー像を作れたら良いなって思ったんだ。
ピーター・パーカーは、スパイダーマンとしての「責任」「力」と葛藤する
「責任とは」「力とは」を突き詰めると、やっぱり1本の映画では簡単には表現できないし、観る側も簡単には学び取ることができない。もっと時間をかけて身につけないと。今後、ピーターがどうやって成長していくかというのは、僕も楽しみだよ。
今回の作品はほんの手始め。これからもスパイダーマンで、もっともっとやりたいことがあるんだ。でも、今回の作品をみなさんが気に入ってくれたみたいだから、それだけでまずは肩の荷がおりたよ(笑)。
――今回の作品では、ピーター・パーカーを「21世紀の若者」として表現していました。スマートフォンで自撮りする姿は、特に印象的でした。
もし自分が「スパイダーマン」になったら、多分みんな自撮りすると思うんだ。Instagramにあげるかもしれないよね。そんな今どきの典型的なティーンエイジャーを描きたかった。その一方で、あれは原作へのさりげないオマージュでもあるんだ。
原作でも描かれているけど、のちにピーターは「デイリー・ビューグル社」(マーベル・コミックの世界に登場する架空の新聞社)でカメラマンとして働くんだ。でも、今どきの若い子は首から35ミリのカメラなんかぶらさげてないでしょ?(笑)。そういった意味で、将来的なことをほのめかしてみたんだ。
――そんなピーターを演じた主演のトム・ホランドに、どんな演技アドバイスを伝えましたか?
とにかく「15歳という年齢設定を忘れないで」「若さはじける感じやる気満々!エネルギッシュに!」と。それを心がけながら演じてほしいと伝えたよ。
トムはピーター・パーカーとスパイダーマンを完璧に体現してくれたよ。演技力が抜群で、プロ意識も高い。身体能力も非常に優れている。でもそれは単に、飛んだり跳ねたり、アクロバットに富んだアクションが巧いということじゃないんだ。演技の上でも、とにかく全身を使って表現する。本当に素晴らしい役者だと思うよ。
ローリングストーン誌「トム・ホランドは、これまでの中で一番の“スパイダーマン”だ」
――敵役(ヴィラン)は、「完全な悪人」ではなく、家族を大事に思う父親の姿が垣間見えました。監督は過去作の『クラウン』で、人食いピエロになってしまった悲しい父親を描いていましたね。
そこの比較は自分でも気づかなかったよ。新鮮で面白いね(笑)。
僕はね、普通の人が自分なりに一生懸命暮らしている中で、偶然「何か」が起きてしまって、かけがえのないものを犠牲にせざるをえなくなる…そんな物語に心惹かれるんだ。
そういう意味では、今回の作品と『クラウン』は共通しているよね。ヒーローにしろ悪役にしろ、そういう部分はストーリーのなかでも大切にしたい。
――最後に、日本のファンにメッセージを。
何と言っても、なぜスパイダーマンがこれだけ世界中で未だに愛されるスーパーヒーローなのかということを、この映画で改めてみんなに思い出してほしい。その魅力に浸ってほしい。
MCUという「あるべき場所」にスパイダーマンが戻ってきたことで、これからの可能性は無限大になる。そんなワクワクするような期待感を感じ取って欲しいね。
――あ、監督。最後にもう一つだけ。もしスパイダーマンになれたら、どんなことをしたいですか?
そうだなぁ。クモ糸をつかって、ビルからビルへと飛び移ってみたいね。そう言えば昨日の夜、自分がビルの壁にはりついて高いところへ登っていくという夢をみたんだ(笑)。楽しかったよ!
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