『TWOTONE』と『mount inc.』はWEBを主戦場とし、ユニークなクリエイティブで注目される会社。事業上では競合同士...だが、それぞれの会社で働く岩城洋平さん(TWOTONE)と吉田耕さん(mount inc.)はプライベートワークとして共同でアパレルブランドを立ち上げた。一体その理由とは?
アパレル門外漢の二人が、なぜ洋服づくり?
クリエイターたちの本業プラスαの活動、プライベートワークを紹介する【MyProject】企画。今回取り上げるのは2015年3月に立ち上がったアパレルブランド『Pe/Sa』だ。
ファーストシーズンは全12ラインナップのTシャツを展開。糸から生地、縫製まで全て「日本製」にこだわり、着心地の良さ、都会的でポップなデザインが特徴的なアパレルブランドだ。
じつはこのブランド、『TWOTONE』で取締役・アートディレクターをつとめる岩城洋平さんと『mount inc.』でプロジェクトマネージャーをつとめる吉田耕さん2名によって立ち上げられた。
アパレルに関して門外漢である二人が、なぜ洋服づくりにチャレンジするのか? そしてクリエイターのキャリアにとって、プライベートワークがもたらす好影響や意義を解き明かしたい。
デジタルデザインの枠を越え、見えたもの
― 主に、現職ではデジタル領域のクリエイティブでご活躍されているお二人ですが、どのような経緯でアパレルブランドを立ち上げることになったのでしょう?
(左/TWOTONE 取締役・アートディレクター岩城洋平さん
右/mount inc. プロジェクトマネージャー吉田耕さん)
岩城:
普段の仕事、クライアントワークだけだと、ふっと解き放たれたくなる瞬間があって(笑)僕はアートディレクターなので、プロジェクトごとに複雑な要件を解きほぐしたり、人間関係を円滑にしたり、そういう役割も担っています。どうしても「自分でつくる」「ダイレクトにユーザーの反応を得る」という部分と距離があって。このモヤモヤを晴らすために、本を読む、映画を見るなど自身が「消費者」になるのもいいのですが、プライベートワーク的なことをしっかりやってみようと思いました。
これまで会社のプライベートプロジェクトとしていくつかのインスタレーションの展示など海外でも行なってきて、どれもすごく好評で。国籍や言語、文化を越えて、自分の作ったものでダイレクトに喜んでもらえて、反応を得られて、たくさんの発見がありました。そこで、今度はデジタルではない領域に...という思いもあり、個人的にアパレルに挑戦した、と。
吉田:
仕事では企画・計画をするときには、多くのデータや様々な人の意見の集積でカタチになるじゃないですか。その先も難産の連続だと思います。でも、このプロジェクトは、企画・計画を練ったのではなく、今世の中にないものを考えて、それを整理する時に4つの方針だけでまとめることができたんです。4つ、方針を岩城に伝えた瞬間、ブランドロゴが形になりました。カタチになるための状況・プランとアサインが噛み合った気がしました。
― デジタル以外...という括りのなかで、なぜアパレルを選択されたのでしょうか?
吉田:
「気分をなんとなく上げたい時」って"お気に入りの服"を着ることがあると思います。単純に"好きなコト・モノ"を身につけると、ファッションとしてはNGになりやすいですよね。
― たしかに、趣味の領域、車、スポーツ、音楽など、そのままをモチーフにしたグッズって日常ではファッションとしてあまり身に付けないですね。たとえば、好きなロックバンドがいても、ライブ以外の時はあまりそのバンドのTシャツを日常的では着なかったり。
岩城:
もちろん日常的に身につける人もいますが、ファッションとして洗練されているかどうかは別の話になりますよね。ただ、服と好きなコト・モノが一緒になれば気分が変わるんですよ。だから服を「日常と特別な日を行き来できる装置」として考えたら面白いんじゃないか?という実験的な試みでもあります。そういう意味でいうと、僕らが好きなコトやモノがプロジェクトの発端にはありました。
作ったもので人に喜んでもらう、クリエイターの本質
― プライベートワークによって得られた好影響、本業へのフィードバックなどがあれば教えてください。
岩城:
ずっと仕事だけを長くやると「器用にできちゃう」みたいなこともあって、ちょっと油断するとあまり深く考えずにやってしまいかねないんですよ。手慣れでできることが増えるというか。その点、仕事とプライベートワークを両立することで、緊張感が生まれるし、いい流れがぐるぐるまわるイメージ。いいボールが投げ合えて、精神状態としてもいいですね。
あとは、こういったプロジェクトは、僕らが作ったものを、ちゃんと手に取って着てもらうなど、ダイレクトな反応を知れることにやはり大きな意味がある。クライアントワークの場合、どうしてもエンドユーザーが実際に体験しているところは見えないんですよ。なので、自分が作ったもので直接的に喜んでもらえると、大袈裟ですが「ああ、生きていてよかった」と感じられる(笑)これまで20年近く仕事をしてきましたが、「やってきたことが間違いじゃなかったんだ」と、クライアントワークの自信にもつながります。
― プライベートワークで得られたことについて、吉田さんはいかがでしょうか?
吉田:
僕らが服を買う時、感覚的に「これは安い、これは高い」って思うじゃないですか。でもなぜその値段なのかよくわからない。現場のリアルな話や事情を知って「ああ、そういうことになってるんだ」と知れたのは面白かったですね。
当然、業界の外からきた僕らが見ると「ちょっとおかしいな、こう変えたらいいのに」という部分も多少ありました。ただ、「服づくり」という大きな枠で見れば、そのやり方で何百年とやってきている。ポッと出の僕らが何かするのはまず難しい。じゃあ違うアプローチで何ができるか?それと、ずっとこの活動を続けていく方法はなんだろうか?を考えています。そういう意味だと、得られることも、苦労も、ここから先のほうが多いのかもしれませんね。
だいたいのプライベートプロジェクトってすぐポシャるんですよ。いくつも失敗をしてきました。それは権限が明確でないからだと思います。今はたまたま役割も機能もはっきりした状態でスタートできたし、賛同してくれる人も見つかって、それは素晴らしいし、良かったと思います。
若いクリエイターにとってのプライベートワーク
― 今っていろいろな情報やコミュニティがあり、プライベートワークを始めやすい環境が揃っているという印象があります。そんな中で、若手のクリエイターにプライベートワークをすすめますか?
岩城:
僕自身の若い頃を振り返ると、プライベートワーク的なことに取り組みにくい環境で...限界以上の力を出すために「とにかく人よりも長く働く」というやり方をしていたんですよね。もし、あの時、よそ見をして、本業を疎かにしていたら、今、僕はここにいないだろうな、と。なので、若いウチは本業に集中したほうがいいのかな...でも、それはそれですごくおっさん臭い考えだなという感じもして(笑)
今の若い子たちはもっとうまくやれるはず、という風にも考えています。実際、当社で働く新人にも「時間をつくって何かやったほうがいい」と言っています。ブラック企業だ何だって言葉がある時代に、「とにかく長く働く。人より多くの業務をこなす」という以外のやり方で、150%とか200%の力を発揮するためのメソッドを見つけてほしい。当然、本業で実績を残す上でも効率や速さは意識すべきことで。無駄なことをだらだら時間かけてやっても実になりませんよね。
吉田:
僕は「生産に携わる」という行為であれば、仕事だろうが、プライベートワークだろうが、何でもやったほうがいいと思っているんですよね。それが状況次第で、自力でやるか、チームでやるかが変わる程度だと思っています。だから、難しく考え過ぎずに何かしら「生産」しなきゃいけないと思うんですよね。
同時に岩城が言っていた「本業を疎かにしない」という部分とも共通するんですけど、やるならやり切る。高い質でやる。途中で辞めちゃダメ。モチベーションとしても「何かしらの経験を得よう」という目的でやるのではなくて、とにかくアウトプットし続ける。で、しっかりと形として残すことが重要だと思いますね。
― いずれにしても「つくる」という部分にどれだけコミットして本気で取り組めるか、情熱を注げるか。ここが成長の鍵を握る部分なのかもしれませんね。若いクリエイターにとっても参考になるお話だったと思います。本日はありがとうございました!
[取材・文]白石 勝也
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