「猪苗代湖をもう一度、水質日本一にしたい」。猪苗代湖の環境保全活動に携わる「NPO法人輝く猪苗代湖をつくる県民会議」理事長の中村玄正さん(73歳)は穏やかな口調で話す。
生まれは山梨県甲府市。小学校から高校までを香川県で過ごし、子どもの頃から海水浴や川で魚釣りをして遊んでいた。多感な時期を水辺で過ごした中村さんは、当時のきれいな水環境が強く印象に残っているという。一方で、公害などで水質汚濁が進む川も見てきた。「悪臭でどこから臭うのかと思ったら近くを流れる川でした」と中村さん。
東北大学を卒業し、日本大学の講師として福島県に住むことになった。大学講師を選んだのは、水質汚濁防止や水環境保全のための研究をしたいとの思いからだという。以来、2008年の退職まで同大にて教授として務め、名誉教授となった。上席研究員の現在も、水質に関する研究を熱心に続ける。幼い時からの原体験が今日まで活きているのだ。
水質に関する講義を行う中村さん
日本で一番の水質を誇った猪苗代湖。しかし...
福島県のほぼ中央に位置し、豊かな自然が広がる猪苗代町。特に「磐梯山」、「猪苗代湖」という2大シンボルが織りなす風景は、観光客はもちろん、地元の人でさえ見とれてしまうほど風光明媚だ。中村さんは「実際に見たスイスの山、湖にも負けていない。世界的にも美しい景色ですね」と称賛する。猪苗代湖の水質はかつて日本一だと言われており、景観の美しさを引き立てていた。しかし近年は、環境汚染によって水質が悪化。日本一どころか、水質ランキングから猪苗代湖の名前は消えてしまった。大腸菌群数が環境基準を超えるなど、とても「きれい」とは言いがたい状況だった。
猪苗代湖と磐梯山
なぜ水質日本一だった猪苗代湖の水質汚濁が進むのか
猪苗代湖の水質日本一復活を目指して、「清らかな湖、美しい猪苗代湖の水環境研究協議会」が立ち上がる。2008年のことだった。この協議会が、「NPO法人輝く猪苗代湖をつくる県民会議」の前身だ。
なぜ、大腸菌が猪苗代湖に増えてしまったのか? この原因追求のため、中村さんたちは、湖65地点及び猪苗代湖への流入河川90地点、計155地点で理化学調査を実施。大腸菌群数は、流入河川で多く検出されたことがわかった。
中村さんは、何度も猪苗代湖の水質調査、実験を行った。その結果、湖北部に生えるセキショウモ、ヒメホタルイ、ヒシなどの水生植物が枯死し腐食することが、水質汚濁の一因とであることが判明したのである。これらの植物は、夏に生い茂り、秋になると腐食して浜辺に打ち上げられる。これを目の当たりにした中村さんは、連携団体や学生ボランティアと共に水草回収活動を始めた。
猪苗代湖の浜辺に打ち上げられる水草など
継続が身を結び環境大臣賞を受賞
清掃活動の中で大変なことは「天候に左右されること」だという。多くの協力を得られたとしても、厳しい天候によって作業を中断しなくてはならないからだ。「限られた回数や時間の中、また活動に理解を示し参加、協力している人たちにも申し訳ない」と中村さん。やむを得ず、中断の決断に迫られた日を何度も乗り越えながらも、活動を停止することはなかった。ずっと続けてきたのだ。
中村さんが進める水質保全・改善活動は、2014年に日本水大賞における「環境大臣賞」受賞という形で実を結ぶ。中村さんは「受賞は、この活動が評価されたもの」と話し、猪苗代湖の水質保全活動に関わったすべての人で受賞したものであると話す。
猪苗代湖の水質日本一を目指す中村さんの活動はこれからも続く。「水質が日本一に復活したときには、冷たい、おいしいビールで乾杯したいですね」と優しい笑みを浮かべながら、今日も猪苗代湖へ足を運ぶ。
中村玄正さんが理事長を務める「NPO法人 輝く猪苗代湖をつくる県民会議」主催の「AQUA SOCIAL FES! in 福島(第2回)」は10月3日(土)に開催される。詳細は公式ホームページhttp://aquafes.jp/projects/157/へ。
※第1回は7月12日(日)、いわき市で開催しました。
(取材:福島民報社東京支社 広告局 相楽和紀)