「ペットボトル撤廃する」18歳のCFOが見た景色、日本企業が持つ希望とは

「昔から『日本の企業には未来がないんじゃないか』という漠然とした不安がありました」
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サステナブル・ブランドジャパン

「CFO募集 ただし、18歳以下」――。ユーグレナ(東京・港)が新聞の全面広告で史上最年少の経営幹部を募集したのは、昨年8月。CFOとは一般に最高財務責任者を指すが、同社が募ったのは「Future」を見通す「最高未来責任者」で、未来に向けた経営の意思決定を担う。全511人に及ぶ応募者の中からCFOとして採用されたのは高校2年生(当時)の小澤杏子さんだ。これまでの1年間の任期を通して、企業と若者は何を得たのか。小澤さんは「本気で世界を良くしたいと考えている企業が日本にあることが知れた」と明るい展望を話す。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局= 沖本 啓一)

 

「ミドリムシの会社」から「サステナビリティ・ファースト」へ

ユーグレナはミドリムシなど微細藻類を利用した健康食品やバイオ燃料の研究開発、商品の販売を手掛けるベンチャー企業だ。バングラデシュなどの「栄養貧困地域」にユーグレナ(ミドリムシ)入りクッキーを届けるプログラムや、業界を横断して企業や自治体などと連携するバイオ燃料活用の促進計画「GREEN OIL JAPAN」宣言など、サステナビリティ、SDGsを根幹に据えた事業を展開する。

同社は今年8月に15周年を迎え、コーポレートアイデンティティを「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」へ刷新した。ミドリムシの活用にとどまらずより広く持続可能性を軸にした事業を展開する構えを見せる。

これまでも「バイオ燃料で飛行機を飛ばす」など、大胆だが「そうなればより良い地球環境、社会になるだろう」というアイデアを現実にするために着実に歩みを進め、産官学と連携しながら事業の中で目に見えるかたちをつくってきた。その中でも、ひと際「企業人」を驚かせたのが冒頭の、18歳以下の若者を実際の経営層に迎えるという取り組みだ。

CFOに就任した高校2年生(当時)の小澤杏子さんと8人の「サミットメンバー」の仲間は今年6月、「飲料商品のラインナップから、2021年にペットボトルを全廃する」ことを会社に提言。会社はこれを受け入れ2020年9月以降、生産ラインからペットボトルを全廃する方針を決めるなど、成果を上げた。「17歳のCFO」は18歳になり、間もなく1年間の任期を終えるが、この1年間「挑戦と学びしかなかった」と小澤さんは振り返る。高校生は企業活動の中でどんな風景を見て何を感じたのか。小澤さんに聞いた。

 

未来はもう始まっている

――「最高未来責任者」としてどのような活動をされてきたか、概要を教えてください。

小澤杏子さん(以下、敬称略):サミットメンバーの問題意識や、見てきた世界が違ったので、最初の1、2カ月はみんなの中で意識を統一するのに苦労しました。学校に通いながら時には1週間に3、4回、各2時間のオンラインの議論をやり続け、今年に入ってから会社に経営改革の提言をしました。

その提言が実際に、本当に経営の改革につながって有言実行できたというところが、ハイライトとして挙げられることかなと思っています。ほかにも、環境大臣、法務大臣にお会いする機会をいただいたり、さまざまな活動をしました。

正解がなく、学校の委員会みたいにフォーマットがあったわけでもないので、最初は手探り状態でした。

具体的には、サミットメンバーがお互いを知る必要があったので「環境に対してやりたい案」を全員でまず100個出しました。そこでそれぞれがどういう問題意識を持っているのかなんとなく読み取れたんです。それからやっとやっと、ひとつひとつを捨てたり統合したりして提言を行いました。

提言は「プラスチックのペットボトルを2021年までに撤廃する」ですが、特に注目していただきたいのが「2021年までに」ということです。

議論の中で、サミットメンバーの一人が、「未来はもう始まっている」と言ったんです。それが素晴らしい言葉だなと思いました。彼の言葉を聞いたときに「未来という言葉って、(社会の中で)ちょっと都合よく使われてしまっているんじゃないかな」っていう現状に気付くことができました。

未来っていつの話なの? と話し合って、確かに「もう始まっている」と捉えないと危機感がなくなるよねと。その議論を会社が汲み取ってくれて、それが「2021年まで」という提言と、会社の実行につながったと思っています。

環境を考えて行動しようという「呼びかけ」や「促し」はたくさんあると思いますが、私はシステムを変えるということに注目しています。

100人の人間がいたとして、理想では100人全員が環境への意識を持ってほしい。でも現実にそこまで甘くないのは私たちも今までの経験で痛感しています。だったら、意識してなくても、結果的に環境に優しい選択ができることが「未来はもう始まっている」という前提の上で大切なことだと考えました。

企業の中で見えた希望 

――間もなく任期を終えられますが、この一年間で小澤さんが獲得されたこと、発見されたことは。

小澤:実は昔から、自分の中で「日本の企業には未来がないんじゃないか」という漠然とした不安がありました。親にも「本当にやりたいことがあるなら外国に出なさい」と言われていましたし、そうしようかなと考えていたんです。

日本の社会は私たちの世代から見ると、少子高齢化でどんどん暗くなっていくイメージを持ちがちだと思います。自分もこれまで研究のやりづらさを感じたり、原発の問題を大人に問いかけても応えてもらえなかったりということがあって「日本ってこのままで大丈夫なのかな」という葛藤や不安があったと思います。

でも、日本にも本当に世界を良くしていきたいという、向上心のある企業があるんだなと、ユーグレナという会社の中に入って初めて知りました。

熱い思いを持っていろいろな話をしてくださる方々を見て、私たちの世代でもっとその思いを開拓できれば、うまく立て直せるきっかけになるんじゃないかなと思いました。企業の中の人たちがどういうことを考えているか。そこを知れたことは私にとってとても大きなことだなと思っています。

私は帰国子女ですが、海外から帰ってきてから日本っていい国だな、日本のために何かしたいなと思いつつ、はっきり自信を持ってそれを言えてなかったんです。今は自信を持って日本のために何か貢献したいと言えます。そのきっかけになったユーグレナでの活動は、私にとって一生の思い出になると思っています。

――任期後はユーグレナとどのように関わりますか。

小澤:次期CFOにすごく興味があります。どういう可能性をもたらしてくれるんだろうっていう希望があって、次のCFOができること、やりたいことを近くで見たいという気持ちがあります。次期CFOが悩んだときには自分の経験が上手く生かされればいいなと思っています。

そして、持続可能な日本をつくるためには活動を広げ、つなげる必要があるので、そこで上手く助けになれればいいなと思っています。

いま、CFOという取り組みをしている会社で目立つのはユーグレナですが、それがもっとほかの企業に波及してほしいです。会社として、私としてもそこに強い思いがあります。環境だけでなく、前向きに持続可能性を追求する、ユーグレナだけでなくそういう選択ができる企業が増えてほしいなと思います。

 

つながりをつくり日本をより良く 

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――小澤さんの今後の活動や将来について教えてください。

小澤:日本で、「日本をよくする」ということに力を入れたいなと思っています。ユーグレナという会社の中でひとつの仕組みづくりに関われたので、それをもっと大きい規模で、違う場所でもつくるための知識を大学で研究していきたいと思います。

さらに、私以外にも国内のいろんなところで活躍している高校生がたくさんいます。そういう人たちにスポットライトが当たれば当たるほど、大人も明るくなっていけるんじゃないかなという気持ちがあります。

実は、例えば学生団体のトップの方とか、一人で海外に行って問題意識を持っている人とかからすると、「企業の一員」になっている私は少し「違う」と捉えられることが多いようです。だからこそ向こうからアプローチしづらいというお話も聞きました。

じゃあ私がアプローチしに行くよ、と思っています。積極的に私が会社の中で得たノウハウを共有したいし、みんなの世界や見てきたものを共有してもらって、日本をもっとよくできれば、ということが私の中でいま一番燃えていることです。

――最後にCFOの活動を総括して一言。

小澤:この1年間は挑戦と学びしかなくて、すごく大切な、記憶に残る経験でした。ここで得られた知見や視野を生かして、違うかたちでも社会に貢献できればと思っているので、これからも、年齢に関係なく、受験とかももちろん大切ですけどあまり捉われず、自分が思うままに行動できればと思っています。

 

 

高校生の参画で社内にも変化

広い視野を持ってリーダーシップを発揮し、8人のサミットメンバーとともにCFOの役職をまっとうした小澤さんだが、参画によってユーグレナ社内にも変化が起きた。同社広報の本間氏はこう話す。

「ユーグレナをサステナビリティに重点を置く会社ですが、ではどうしてこれまでペットボトルを使用して飲料を販売していたかというと『売っていかなければならない』からです。例えばペットボトル全廃も、これまで経営層からそのような要望があっても、営業・流通などの観点で実現しなかったことがあります。CFOから改めて突き付けられることによって『今すぐするべきことだ』と実行に移せたと考えています」

また社員の間でも、共同でマイボトルを購入するなど、日常レベルのサステナブルな行動が一気に浸透したという。