日経平均株価が終値で2万円を割った。懸案のギリシャ問題に進展が見られないうえ、頼みの米国景気が思ったほど順調に回復していないことが確認されたためだ。
ただ、日本企業を取り巻く状況は何ら変わっておらず、これまでの急ピッチな株価上昇に対する一時的な調整に過ぎないだろう。年末に向けて企業業績の改善が確認できれば、自ずと2万円台が定着するとみられる。
■決定打となったイエレン発言
6月18日、日経平均株価の終値は19,990円となり、終値ベースでは5月18日以来およそ1ヶ月ぶりに2万円の大台を下回った。これまで何度か2万円を下回りそうになりながらも下値が堅く持ちこたえてきた日本株に変化をもたらしたのは米FRB(連邦準備制度理事会)イエレン議長の発言だ。
日本時間の今日未明、米FOMC(連邦公開市場委員会)終了後に会見したイエレン議長は「年内の利上げが最適」と述べた。ここまでは市場の予想どおりだったが、議長は「労働市場のもう一段の改善が条件」という主旨のコメントを付け加えた。また、FOMCメンバーによる今後の金利予想は前回より下方修正され、利上げペースが相当ゆっくりになることが示唆された。
これがなぜ日本株を売る材料となったのか。今年2月以降、日本企業の業績改善を拠り所に日本株は極めて順調に値上がりしてきた。
しかし、その上昇過程では、「米国の景気は順調に回復して年内にFRBが利上げを実施するだろう。異次元の金融緩和を続ける日銀とは金融政策が正反対になるので一段のドル高円安が進む。すると海外での需要増に加えて円安の恩恵を受ける輸出企業を中心に業績が更に良くなるはずだ。」という期待が膨らみ、好業績をだいぶ先取りする格好となっていた。
この様子を示すのが図1だ。雲のような部分はPER(株価収益率)14倍~16倍に相当し、筆者は株価の適正ゾーンと考えている。2月上旬に株価が適正ゾーンの上限を飛び出すと、「業績改善を見越した買い」や「クジラ(と称される公的マネー)による買い支え」で、その後もほぼ一本調子に値上がりした。
4月下旬~5月上旬に各社が今期の業績見通しを発表すると適正ゾーン自体が大きく上方にシフトしたものの、株価は更に高い水準にあった。この株高を支えていたのが前述の"期待"に基づく良好な需給だ。
ところが、このシナリオが崩れた。正確には、「米景気回復が想定していたほど良くない(シナリオが既に崩れている)」ことを市場は薄々感じていたが、見てみぬふりをしていた。そこに今朝のイエレン発言で"やっぱり良くない"と確認した。好業績を先取りする株高材料が崩れれば一旦は調整するのが当然だ。
■年末にかけて2万円台が当たり前に
先月、25年以上ニューヨークに住む友人(筆者とは高校の同級生)が一時帰国した。彼女は現地でカフェ(観光客向けのオシャレ系カフェではなく、地元の庶民相手の普通のカフェ)を経営しており、近所の個人宅にデリバリーもする。
その友人によると、NYの景気は「ちっとも良くない」そうだ。「あんたたち金融機関のせいよ!」という苦情も付いてきたが、「消費意欲は全く感じない」という彼女の言葉は、現地の庶民感覚を最も身近に感じている人の貴重な情報だった。
米国景気が本当に良くないなら、日本株の2万円台は正当化されないのだろうか。そんなことはない。まだタイミング的に少し早いだけで、15年末にかけて2万円台が当たり前になるとみている。
図2に示すとおり、直近の予想業績(予想1株利益)は1,234円だが、市場の平均的な予想である15%程度の増益をベースにすると1株利益は1,320円になる。この場合PERが現在の16.2倍より低い16倍ちょうどでも株価は21,120円だ。
更に、15%増益の前提は1ドル=115円程度なので、仮に足元の120円台が年度を通じて定着すれば20%増益も視野に入る。この場合、適正ゾーン上限のPER 16倍なら22,000円を超える。
ただし、これには少なくとも中間決算で2ケタ増益が確認され、16年3月期末決算の15~20%増益が確実視できるといった条件が整う必要があろう。今は時期尚早でも、いずれ2万円台は"当たり前"になるだろう。
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(2015年6月18日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 主任研究員