ユーザーは、どんな大革命が起きるかまでは教えてくれない ──スティーブ・ジョブズ

本田が「他社の模倣」を極端に嫌ったように、スティーブ・ジョブズも「模倣」や「ちょっと良いもの」ではなく、人々のライフスタイルが大きく変わるようなイノベーティブな製品づくりを目指していた。いずれもちょっとした思いつきや改良くらいでは実現できないものばかりだ。
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「独創的な新製品をつくるヒントを得ようとしたら、市場調査の効力はゼロとなる」はホンダの創業者・本田宗一郎の言葉である。日本でマーケット・リサーチが流行し始めた時代、本田は「既成の製品を探るうえでは有効だが、消費者がまったく気がつかなかった楽しみを提供するためには『批評家』である消費者に頼るのではなく、『作家』たる企業家が好奇心を武器に、全身の感覚を研ぎ澄ましてものを聞き、見て、試すことが必要だ」と若いホンダマンに説いている。

 本田にとって企業家とは、消費者が「これが欲しかった」と心底思わせるものをつくる「作家」でなければならなかった。ものづくりの世界に「分からないことは消費者に聞け」という言葉がある。それは正しいのだが、真に革命的な製品をつくるためには消費者ではなく、自分の内なる声に耳を傾けることが重要になる。

 本田が「他社の模倣」を極端に嫌ったように、スティーブ・ジョブズも「模倣」や「ちょっと良いもの」ではなく、人々のライフスタイルが大きく変わるようなイノベーティブな製品づくりを目指していた。いずれもちょっとした思いつきや改良くらいでは実現できないものばかりだ。

 「アップルにはたくさんのユーザーがいるし、その関係の調査もいろいろとした。業界のトレンドにも注意を払っている。でも結局のところ、いろいろなことが複雑にからんでいるため(マーケティングの方法である)フォーカスグループをつくったぐらいで設計ができるわけじゃない」

 では、どうやって革命的製品を生み出すのか。マッキントッシュを世に送り出した頃、こう考え方を話している。

 「すべては偉大な製品とともに始まる、ということだ。もちろんユーザーの言葉に耳を傾けるというのは大事なことだ。でもユーザーはこのコンピュータ業界全体をひっくり返してしまうような、どんなすごい大革命が来年に起きるかといったことまでは教えてくれない。本当に技術というものを分かっている連中と一緒に、よけいな雑音の入らないところに引っ込んで、ただし消費者の声は胸に留めて、じっくりと次の大革命を模索しなくちゃならない」

執筆:桑原 晃弥

本記事は書籍「1分間スティーブ・ジョブズ」(ソフトバンク クリエイティブ刊)を再構成したものです。