駅員が足りない!

ドイツの鉄道の労働組合は毎年のようにストを行う。この国の鉄道は、日本に比べると利用客に対するサービス精神が少ない。
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 日本では鉄道のストなど、ここ数年全く聞いたことがないが、ドイツの鉄道の労働組合は毎年のようにストを行う。この国の鉄道は、日本に比べると利用客に対するサービス精神が少ない。

 中部ドイツのマインツ駅で、2013年8月に変わった現象が起きた。駅員不足のためにポイントの切り替えができなくなり、ほとんどの列車がこの駅に停まることができなくなったのだ。列車は、この駅を通過するばかり。駅の電光掲示板には「列車は到着しません」という表示がずらりと並んだ。この状態は2週間も続き、夏休みの行楽客でにぎわうはずの駅は、ゴーストタウンのような状態になった。

 駅が事実上「閉鎖」された原因が、技術上のトラブルではなく、労務上の問題だったというのは、驚きである。ポイント切り替え担当の駅員18人の内、9人が休暇か病気であるために、ポイント切り替えをできる駅員が9人になったということだった。

 ドイツの鉄道史上でも例を見ない不祥事である。

 私のような素人は「ではなぜ他の駅からマインツ駅に職員を派遣しないのか」と考えてしまう。日本ならば、鉄道会社はすぐに他の駅から駅員を送り込むに違いない。

 だがドイツの労働組合としては、そのようなことはマインツ駅の駅員たちの権益を侵害することになるので、たとえ乗客が困っていても、簡単にやってはならないのだ。ドイツでは休暇は神聖なものであり、駅長さんも、休んでいる駅員を呼び出すわけにはいかない。いずれにしても、ドイツ鉄道会社や労働組合は、乗客の都合よりも組合員の休暇や健康の方が大事と考えているようである。

 人手不足の原因の一つは、ドイツ鉄道会社が株式市場に上場するために、従業員の数を大幅に減らして業績を改善したということである。

 ドイツの鉄道をめぐっては、最近不祥事が続いている。マインツ駅ではあわや列車が正面衝突というきわどい事態もあった。数年前には高速列車の冷房が真夏に故障して、多数の乗客が体調を崩した。ベルリンでは郊外と都心を結ぶ列車が技術的なトラブルでダウンし、多くの通勤客らが足止めを食った。

 ミュンヘンのある駅では老朽化がひどく、雨が降るとプラットホームの屋根に開いた穴から、雨水が滝のように流れ落ちてくる。

 日本の鉄道に比べると、乗客の不満は大きい。ドイツ鉄道会社には、猛省を求めたい。

(文と写真・ミュンヘン在住 熊谷 徹)

筆者ホームページ: http://www.tkumagai.de

(保険毎日新聞連載コラムに加筆の上転載)