「日本のコ・クリエーション アワード2013」でベストケーススタディに選出されたクラウドファンディング『zenmono』。その技術統括を担うのが宇都宮茂氏だ。彼が起業したのは44歳の時。もともとスズキ自動車の技術者だった彼は、なぜ起業を選んだのか。モノづくりに対する思いとその生き方に迫った。
▼『zenmono』インタビュー第1弾
やりたいことをやるのに遅すぎることはない。
最近だと若い起業家が注目されているが、年齢はさほど重要ではないのかもしれない。まして、スタートアップはIT・WEBの専売特許でもない。そんなことに改めて気づかせてくれたのが、モノづくり特化型のクラウドファンディング『zenmono』を運営する宇都宮茂氏の生き方だ。
宇都宮氏は、もともとスズキ自動車の技術者だった。スズキを退職後、数社を経て、製造業向け工場検索・マッチングサービスを手がけるNCネットワークに入社。そこで三木康司氏と出会い、44歳で起業をした。
彼らが運営する『zenmono』は単なるクラウドファンディングとは一線を画す。プロジェクトのオーナーに対して「資金」のサポートだけではなく、モノづくりのノウハウ、そして町工場や技術者のネットワークを提供する。経営やバリューチェーンに入り込むコンサルティングが特徴だ。このサービスには宇都宮氏の「モノづくりはおもしろい」という情熱が反映されている。
IT・WEB・ゲームといった領域を超え、宇都宮氏の生き方・考え方は、技術者としてのキャリアを考える上で重要な示唆を与えてくれるはずだ。
■ 嫌なことはやらない。会社で出世できないタイプ。
― もともとスズキ自動車で働いていたんですよね。
安定性のある大企業ですが、どういった経緯で退職されたのでしょうか。
夢があって...という答えを期待されているのかもしれませんが、上司とウマが合わなくて辞めたんですよ(笑)別に「起業するぞ」という強い気持ちがあったわけでもなくて。
ただ、親が経営者だったので、ずっと近くで見ていて起業家のマインドはどこかにあったのかもしれません。「起業家マインド」といえば聞こえはいいですが、気にいらないことはやらない、自分のやりたいようにやる、という大企業で出世しないタイプ(笑)
結局、「何のために生きるのか?」と突き詰めて考えた時に「おもしろいほうがいい」だったんです。言われたことを着実にこなすことが好きなら、それでいいのですが、私はつまらなかった。まだ世にないモノをつくりたい、知らないことを知りたい、と。
『zenmono』のサービスにも共通しているのですが、案件ありきの下請けは自分がやっていてもつまらないんです。町工場の人たちが自分たちで商品を企画してゼロから作るってワクワクするじゃないですか。
真面目に技術を追い求めても、お客さんが買ってくれなければ、その技術は必要がない。技術のすごさはなかなか伝わらないですが、「わくわく感」は伝わる気がするんです。よく「日本のモノづくりはこのままじゃダメ、という問題意識から起業した」と思われるのですが、それも違っていて。別に業界に対する憤りがあるわけではないし、憤りでは長続きしないですよね。おもしろいからやる、ただそれだけなんです。
■ 今の時代「働き方」の選択肢はどんどん増えている。
― 「おもしろいことをやろう」と今の道を選ばれたわけですが、
宇都宮さんにとって「仕事」ってどういったものでしょうか。
うーん...すごくむずかしい質問ですね(笑)
サラリーマン時代はわかりやすかったんですよ、勤務した分の時間が「労働」であって「仕事」だったので。今は24時間仕事といえば仕事だし、遊びといえば遊びですし。逆に、仕事と遊びと分けなくてもいいというのはすごくハッピーなことだと思います。分けざる得ない人もいるなかで。
― 楽しいことを仕事にする。
それでお金を稼いでいくのは簡単ではないですよね...。
簡単ではないですが、やり方はあると思うんです。
僕が思うのは、お金は後からついてくるもの、ということ。おもしろそうなことをしていれば、そこに人が集まってきて、もし、何か価値を感じてもらえたらお金がもらえる。だから、お金を稼ぐことより、「人」と「人」をつなげたり、リソースをオープンにしたり。それを対価に結びつけていくイメージなんです。お金ってもらいにいこうとすると、なかなかもらえない(笑)だから、向こうから来てもらえるような「場」をつくることが大事なんです。
■ いま持っている技術は、会社を辞めても活かせるか。
― 宇都宮さんは技術畑出身なわけですが、会社を辞めるときに、
自分の技術が他でも活かせるかどうか、不安はなかったですか?
サラリーマン時代から、専門書を読んだりしながら、個人的に技術の勉強はしていたんですよね。自分で自分を守らないと、誰も守ってくれませんから。
「つまらない仕事をどれだけ短時間で済ませられるか?」をいつも考えて仕事をしていて、余った時間で勉強する。おもしろそうな技術を探す。
40歳を過ぎてから会社に居場所がなくなるケースもあるわけで、そうなってから考えたら間に合わないですよね。だから早いうちに興味が持てることを、と。今になってそういった積み重ねが活きていると思います。
― どんな場所でも活かせるスキルを身につける、ということですよね。
たとえば、それはコミュニケーションスキルなども含まれるのでしょうか。
どうなんですかね...コミュニケーションって鍛えてどうにかなるもんでもないと思いますし、エンジニアなんだから、エンジニアリングを頑張ればいい、という気もします。技術者だとリアルなコミュニケ―ションが苦手っていう人も多いですし(笑)
エンジニア気質の人はとことん調べたり、突き詰めたりすることは得意なはずだから、そっちを伸ばしたほうがいいのかなと個人的には思います。
今は昔と違ってソーシャルネットワークやブログがあるわけで、オンラインでコミュニケーションができる。ダウンロードサイトに3次元モデルをアップして小銭稼ぎをしようと思えばできる時代ですよね。アウトプットが面白ければまわりから勝手にやってくるので、無理にこちらから話そうとする必要はないのかな、と。
― お話を伺っていて、一貫しているのが
「やりたくないことはやらない」という部分かと(笑)
それはありますね。大変なことはCEOの三木さんに全部お願いしたい(笑)...まぁそれは冗談として、たとえば、同じ物を作るにしても、作りたくて作ったら楽しいけど、やらされたらつまらない。そのワクワクって受け手にもきっと伝わると思います。
ただ、どっちが良くて、どっちが悪いという話でもないんですよね。
手ぬぐいでも何でもいいのですが、100円ショップで売っているものと、職人がつくった1点ものの高級品があったとしますよね。「つくる」という行為は共通していますが、全く違う考え方でつくられている。両方とも世の中にあっていい。言われたモノを忠実につくれる人も必要だし、作りたいモノがある人も必要だし。
どっちを選ぶかは個人の価値観なんだと思います。
ちょっと前まで、僕のような働き方はできなかったと思いますが、今だったらテクノロジーが進化して、いろいろな選択肢が増えてきましたよね。クラウドソーシングにせよ、クラウドファンディングにせよ、もっと選択肢が増えていくだろうし。会社に勤めながら、自分の時間でやりたいことを見つけるのもアリですよね。
自分の意思で決めればやれる時代。
あとは何をチョイスするかだと思います。
そういった意味で言うと、自分の意思を持たずに流れされていくと、選択肢があっても気づけないのかもしれません。僕らが中小企業の経営者さんに伝えているのも「何がしたいか」という意思を持つ大切さ。確立した自己を持つことが欠かせない時代なんだと思います。
― 技術者がキャリアを考える時も共通する部分ですね。『zenmono』は技術者の働き方を変えたり、メイカーズの味方になったり、働き方の多様化を促進するサービスでもあると思います。これからの新しいサービス展開も楽しみにしています。本日はありがとうございました!
[取材・文] 白石 勝也
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(2014年1月14日「CAREER HACK」より転載)