なぜ、うちの女性は離職率が高いのだろう?
OA機器販売やホスティングサービスなどを手がける「スターティア」(本社・東京)は、1996年に設立されて以来、着々と規模を拡大してきた。今は正社員だけで約600人、うち3割近くが女性だが、離職率は男性の倍近い約21%に達していた。女性の半数近くが営業職のため「体力的にきついから辞めるのでは」と言われていた。
取締役に女性はいない。では女性社員たちに自ら、働きやすい職場環境を提案してもらおう。本郷秀之社長の意を受けた役員の発案で「スタ女委員会」は2010年に初めて招集された。月1回程度、20~30代の女性社員10人近くが集まって議論し、健康診断に婦人科検診を取り入れるなどの要望が採用されたこともある。
2014年8月、「女性活躍推進法」が成立し、従業員300人を超す企業に、数値目標を盛り込んだ「行動計画」の策定が義務化されることになった。2014年秋、メンバーを一新した第2期「スタ女」8人が指名された。
(左から)「スタ女」メンバーの冨居綾子さん、加藤亜弥さん、石橋香菜さん、杉山桜さん。2016年3月17日撮影
「有給休暇をもっと取りやすくしてほしい」
「住宅手当を増やしてもらえないかな」
月1回招集され、1回につき数時間のディスカッションを重ねた。細かい課題や要望は次から次へと浮かぶ。しかし、メンバーや委員会に具体的な成果を出すよう求められていたわけでもなかった。
「何か女性が働きにくいよね」の根本的な解決策は何なのか。話はまとまらず、議論は毎回、振り出しに戻った。
■「結局、何も変わらない」と言い残して同僚は去った
堂々巡りを繰り返していた2015年8月、スタ女メンバーの1人が退社した。「結局、何も変わらない」と、スタ女ではなく上層部に言い残して。
「何か結論を出してくれ」とプレッシャーをかけられたメンバーは戸惑った。
議論は煮詰まっていた。ひとまず、全女性社員の声に耳を傾けよう。女性社員全員にアンケートを取って、これまでの議論で上がった項目の中から、何を望むのか、複数回答で選んでもらうことにした。
そこで上位に上がってきたのは、育児休業期間の延長と、保育園の保育料補助制度の創設を望む声だった。
「女性社員は営業の仕事がきついから辞めていく」。通説の陰に、大きな問題が隠れていたことを、メンバーは知った。
それまで同社の育児休業期間は1年半だった。リーダーの田邊史さん(36)は「ちょうどその頃、同僚から『育休が切れる。保育園は見つからない。会社辞めるしかない』という声を聞いたんです」と言う。
自身、営業の第一線で仕事一筋で働いてきたが「子供が3歳になるまで保育園探しができれば、幼稚園に入る子も出てくるので、預けられる確率はかなり高まるということも、そのとき初めて知った」。保育園に入れないという問題が、初めて身近な問題として迫ってきたのだった。
メンバーで唯一、子供を保育所に預けている杉山桜さん(35)は「私は運よく預けられたけど、見つからずに退職したり、パートに変わったりした人は、社内外の知り合いに何人もいた。見つかったとしても、保育料が高くて家計を圧迫する人も多い。そうしたケースをスタ女メンバーと共有していきました」と話す。
■「気配が消えたようだった」
「女は家庭」が当たり前の時代を生きてきた男性役員たちを説得するためには、まずお金のかからないものから。こう考えた田邊さんらは、育休期間の3年への延長と、保育料補助制度の新設に絞った。
11月、田邊さんらは、社長、専務、常務たちと向き合った。熱弁を振るう田邊さんの前に並んだ経営陣は「気配が消えたようだった」という。「きっと皆さん、男性に囲まれて仕事してきたから、イメージがわかなかったはず。反応のしようがなかったと思うんです」
その月末、育休期間を3年に延長することと、保育料が5万円以上の場合に1万円を補助する制度が始まった。
■「ゴールは、まだ見つからない」
「試行錯誤したこと、動き出したこと、何か少しでも変わると分かったことは収穫でしたね。ただ、本来あるべき姿からしたら、まだまだ達成したと胸を張るにはほど遠い状態」と田邊さんは振り返った。
「結局、『女性の活躍』ってどんなことなんでしょう。女性が子供を産んで、家庭と両立させて、仕事でも活躍して…という成功例のイメージを、私たちも含めて誰も見つけられていない。そこが見えないから、私たちも世間も、目指すゴールが見えなくて迷走しているんだと思うんです」
女性活躍推進法の行動計画は、2016年4月以降、策定が義務化される。