「東京ドーム」と聞いて何をイメージするだろうか?
白い屋根に「TOKYO DOME」の緑のネオン。野球やコンサートを思い浮かべる人もいるだろう。
このたび、東京ドームの新ビジュアルが公開された。撮影を担当したのは数々のファッションブランドの広告などを手がけるニューヨーク在住のフォトグラファー、小浪次郎氏である。
小浪氏は活動初期から8年間、自身の父親を撮影し続けた作品で2010年に富士フォトサロン新人賞を受賞。活動拠点をニューヨークに移した後は、『The New York Times』『Interview Magazine』などで作品を発表し、現在国内外で活躍している。
小浪氏が撮り下ろした写真には、今まで見たことがない東京ドームの姿が写されている。あなたの東京ドームのイメージが少し変わるかもしれない。
こんな東京ドーム、見たことない
2024年3月19日〜3月31日の期間限定で実施されたイベント『TOKYO DOME ART MUSEUM』で、新ビジュアルのパネルが展示された。東京ドームシティのあらゆる場所で、東京ドームを様々な視点で切り取った写真を見ることができた。
メインとなるビジュアルは、夕暮れの東京ドームを写したものだ。白い屋根とネオンが印象的で、東京という大都市における、東京ドームの存在の大きさが感じられる。
写真の被写体には、子どもが起用されていた。10名ほどの子どもたちが、東京ドームを駆け回る姿が写されている。
野球選手でも、有名歌手でもない。未来ある子どもたちが、空っぽの東京ドームで自由に動き回る光景は、東京ドームの新しい可能性を示しているようだ。
撮影では、子どもたちにインスタントカメラが渡され、子どもの視点で撮られた写真も紛れている。どの写真からも、今までの東京ドームのイメージとは異なる印象を受ける。
この新ビジュアルは、2022年から始まった東京ドームのリブランディングの一環だという。その狙いはどこにあるのか?仕掛け人である株式会社STARBASE・CMOの日髙雄二郎氏と、株式会社東京ドームの佐藤理一氏に話を聞いた。
小浪さんなら、面白いものができる
「小浪さんは過去にも東京ドームを撮ったことがあるんです」と佐藤氏が口火を切った。
小浪氏は2022年のプロ野球のセ・リーグ開幕戦を撮影し、その写真は東京ドーム内に期間限定で展示された。選手の写真がメインだったが、東京ドームを写した作品もあった。佐藤氏は、今までにない視点で撮影されていたのが印象的だったという。
STARBASEとの出会いも、その展示だった。
「ジャイアンツの2022年のビジュアルをSTARBASEが担当していて、写真の展示もそのプロジェクトの一つでした。お客さんがあまり利用されない場所でしたが、口コミで広まって、1万人以上来てくれたんですよ」(日髙(雄)氏)
小浪氏であれば、次は東京ドームをメインに撮っても、面白いものができるだろうと二人は話した。しかし、東京ドームはほとんど空き日程がない。すぐに実施することは難しそうだった。
いつか小浪氏に撮影してもらいたいという思いを残しつつ、STABASEは進行中だった東京ドームのリブランディング施策に加わった。
東京ドームは、エンタメの聖地だ
2022年、東京ドームは過去最大規模のリニューアルを行なった。その様子を発信すべく、公式SNSアカウントを開設して発信したことが、リブランディングの始まりだったと佐藤氏は話す。
「想像以上にSNSの反響が大きかったんです。野球ファンだけではなく、コンサートを楽しみにする方など、色々な方が反応してくれた。東京ドーム自体にファンがいることに気がつきました」
野球のスタジアムというだけでなく、多様なエンターテインメントが生まれる場所である。その視点に、日髙(雄)氏も共感した。
「東京ドームは日本のエンタメの聖地だとずっと思っていました。野球やコンサート以外の催し物ができる場所。出演者や来場者にとってターニングポイントになるような大きなイベントが生まれる場所でもあります」
1988年、東京ドーム初の開幕戦は、雪だった
想いを共有し、STARBASEとのリブランディングがスタートした。日髙(雄)氏はまず、東京ドームの歴史を聞くことから始めた。そこで、1988年の東京ドーム初の開幕戦の写真に出会う。
「その日は雪だったんですよね。当時は屋根付きの球場は東京ドームだけで、他の試合は全部中止だった。東京ドームだけ開催できたんです。その写真が一つのきっかけで、過去を振り返るイベントを企画しました」
そして2023年3月18日~4月2日に「TOKYO DOME 35th ANNIVERSARY ~HOME OF THE TOKYO GIANTS~」が開催された。東京ドームの35年の歴史を振り返るパネル・フラッグを東京ドームシティに展示した。
ジャイアンツをテーマに掲げながらも、来場者からは、コンサートやイベントを振り返る声が聞こえてきた。佐藤氏は改めてエンタメの聖地として認知されていると実感したという。
未来にむけて、新しい東京ドームの写真を
一方で、課題も見えた。東京ドームの過去を様々な写真で振り返りたかったが、あまり写真がなかったのだ。多様なイベントが行われているものの、株式会社東京ドームがそれらの写真を所持しているわけではなかった。
「新しく写真を撮りたい」と改めて二人は話し合った。「過去は振り返ったから、次は新しい東京ドームを見せていこう」
そう話しているときに、東京ドームに空き日程が出た。小浪氏はニューヨーク在住だが、たまたま日本にいるタイミングだった。この日を逃すと、もうチャンスはないかもしれない。佐藤氏は社内の了承を得て、日髙(雄)氏と企画を進めた。
そして、2023年夏に撮影が実現した。東京ドームには10名ほどの子どもたちが招待された。グラウンドを走り、マウンドに寝そべり、階段を駆け上がった。小浪氏がその瞬間を切り取っていく。
「これからの新しい東京ドーム見せるためには、未来ある子どもたちが、東京ドームで無邪気に遊ぶ姿が一番いいと思ったんです」と日髙(雄)氏は企画の意図を語った。
子どもたちは、友人同士ではなく、その日に初めて知り合った。それでも、撮影時は一緒になって遊びはじめたという。その光景を見て、佐藤氏は東京ドームの魅力を再認識した。
「野球もコンサートも知らない人同士で盛り上がりますよね。それと同じだなって。東京ドームだからこそ仲良くなれたのかなと撮影時に感じました」
撮影はフィルムが使用されたため、その日は写真の確認ができなかった。後日、できあがった小浪氏の写真を見て、東京ドームの社内からは驚きの声が上がった。
東京ドームで湧き上がる、あの気持ち
「バックスクリーンのネオンを撮った写真があるんです。裏から撮っているから、文字が反転するはずなのに、そのまま読めるのが不思議でした。ただ写真を反転させただけではありますが、僕たち社員がいつも見ている視点ではなくて、面白いなと」(佐藤氏)
日髙(雄)氏は、東京ドームに駆けていく子どもの写真を見て、東京ドームらしさが現れていると感じた。
「みんな、走り出したくなるような気持ちで東京ドームに行くと思うんです。好きなアーティストのコンサートに向かう時って、もうウキウキじゃないですか。東京ドームは、そういう気持ちにさせてくれる場所なんですね」
写真によって、東京ドームで湧き上がる感情が喚起される。佐藤氏は「ライブ感」と表現した。
「今は配信やVRなどもエンターテインメントの楽しみ方の1つです。でも、コロナ禍が収束し、東京ドームに来てくれたお客様の熱狂を目の当たりにして、すごいエネルギーだなと。今回の写真を見て、東京ドームでライブ感を味わいたいという方が、1人でも増えたら嬉しいです」
東京ドームで映画撮影?写真が広げる可能性
写真は、東京ドームの魅力を再認識させるものだった。日髙(雄)氏はさらに、写真によって東京ドームの可能性が広がることを期待する。
「例えば、映画を東京ドームで撮ろうとか。今まで東京ドームに触れてこなかった層に刺さることで、違った視点で東京ドームが使われるかもしれない」
佐藤氏も、写真から生まれる可能性を感じていた。
「写真では、有名歌手が立った場所に、子どもたちがいます。その写真を見て、私も東京ドームに立てるかもしれない、歌手になりたいと思うかもしれない。大げさかもしれませんが、それがこれからの東京ドームかなと思います」
これからの東京ドームを映し出した写真は、今後もグッズやメディアを通して露出していくという。多くの人の目に留まることで、新たな東京ドームの可能性が広がっていくことだろう。
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リブランディングの一環として、スタジアムツアーが復活した。写真の子どもたちのように、グラウンドに降りられるそうだ。ぜひ様々な形で、東京ドームを楽しんでみてほしい。
TOKYO DOME TOUR
https://www.tokyo-dome.co.jp/dome/visit/
TOKYO DOME ART MUSEUM
https://www.tokyo-dome.co.jp/dome/topics/art_museum.html
STARBASE
https://starbase.jp/
(取材撮影・小原聡太 取材&文・Kayuko Murai 編集・磯本美穂)