セックスと真面目に向き合う。「SRHR(性と生殖の健康と権利)」の活動を支援する基金設立。

「性」についての考え方、捉え方は近年、変化しつつある。
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Soshi Matsuoka

今年の梅毒の患者数が6000人を超えた。若年層を中心に増加しており、年間6000人を超えたのは1970年以来だという。「コンドームを着用しよう」「早期に検査をしよう」、こうしたニュースに続いて予防啓発に関する情報が目に止まる。

思い返すと、これまで学校の保健体育の授業や、世の中のニュースから「性」に関して私が受け取った情報の多くは、どうすれば性感染症に感染しないかなど、「リスクアプローチ」がメインだった。

そんな「性」についての考え方、捉え方は近年、変化しつつある。

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Soshi Matsuoka

LGBTをはじめ、さまざまな性のあり方の多様性が認識されるようになった。#MeTooなど、セクハラや性暴力をなくすための運動が世界的に広がりを見せている。

自分自身の性に向き合うこと、自分の身体、子どもを持つ/持たない等の自己決定について認識すること。セックスなど、他者との性的なコミュニケーションにおいて安全や平等について考えること。

こうした性や生殖にまつわることがらを人権と捉え、社会の制度や環境を整備していくため、「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利。頭文字から"SRHR")」という概念が用いられるようになった。

性の健康につながる「基金」

27日、安全で安心なセックスについて考える、セクシュアル・アメニティブランド「bda organic」が、セクシュアル・ヘルス(性の健康)について次世代につながる活動をしている団体を対象に、売り上げの一部を助成する「セクシュアル・ヘルス次世代基金」を設立。12月1日より助成先団体の募集することを発表した。

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スパイス・アンリミテッド代表取締役の鈴木美樹氏
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「これまで、セックスローションは(化粧品でも医薬部外品にも入らない)「雑品」として扱われていました。しかし、体に入れたりするものなのに、成分の安全性が確保されていないのはおかしいと思い、オーガニックで安全なセックスローションを作ろうという所から、bda organicは始まりました」とbda organicを手がけるスパイス・アンリミテッド代表取締役の鈴木美樹氏は語る。

さらに、セックスの安心・安全を考える際「利用する物の成分だけでなく、利用する人の性の健康の両方が揃ってはじめて、安心安全が成り立つのではないかと思い、この基金を立ち上げることに至りました」。

昔は性の権利には蓋をされていた

基金の設立に関して、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する研究や活動、実践を行なっている3名の専門家から話があった。

選考委員でもある産婦人科医の宋美玄氏は、そもそもこの概念が生まれた経緯について解説された。

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丸の内の森レディースクリニック院長の宋美玄氏
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「昔は、性の権利には蓋をされていて、権利やそもそも概念自体がありませんでした」と宋氏は話す。

「1800年代までは、女性に性欲があることすら認識されていませんでした。それまでセックスは『旦那さんの相手をして世継ぎをもうけること』だと考えられていましたが、1900年代から女性の性機能について研究が進み、全て人権に含まれるのではないかと考えられ、『セクシュアル・ヘルス』という概念が生まれました」。

リプロダクティブ・ヘルス/ライツは「もともと母子保健と言って、出産で危険に晒されてしまう赤ちゃんとお母さんの命を救い、健康について考えるという所からスタートしました」。

未だ、望まぬ妊娠をしてしまい中絶したいが、産むことを誰かから強制されるなどの実態が、日本を含め世界中で報告されている。

「避妊や中絶も含め、一人一人が子どもを妊娠し出産するかどうかは『自分で決められる権利なんだよ』という考えが、宗教や思想を超えて広がってきています」。

「そもそも性は生殖に関することだけではありません。性別に関わらず、性に関する健康や権利を認めていこうということで、1990年代から、性の健康世界学会やWHOなどの国際機関より『性の健康・権利宣言』が出されています」

宣言には、全ての人が性に関する権利を有しているという考えのもと、ジェンダーの平等の促進、性暴力性的虐待の排除、リプロダクティブヘルスについての認識の確立、性感染症蔓延の防止、性機能不全への取り組みなどが含まれている。

「性の喜びは『誰からも決められることのない、幸福のひとつなんだ』というのがセクシュアル・ヘルスの考え方です」。

HIVは、老後を考える時代

続いて、HIV/エイズの陽性者支援や予防啓発を行なっているNPO法人ぷれいす東京代表の生島嗣氏から、日本のHIVについての現状について話があった。

「HIVは主に性行為によって、体内にHIVというウイルスが侵入することで始まります。HIVは人の免疫を壊す特性があり、数年から10年くらいで免疫機能が下がってしまいます。そして、普段であればなんともないような病原体によりさまざまな症状が引き起こされる。この症状が出た状態をエイズと診断します」

日本のHIV陽性者、エイズ患者は毎年約1400人報告されているという。

「現在は高止まりと言われていて、年々増えているわけではありませんが、毎年これくらいの人たちが新たに自分がHIV陽性だと気づいています」。

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NPO法人ぷれいす東京代表の生島嗣氏
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「HIVに関する知識をぜひアップデートしてほしい 」と生島氏は話す。

「HIVと聞くと寿命が短くなると思われがちですが、今は老後を考える時代です」。

2016年にデンマークで行われたHIV陽性者に関する調査によると、2010年から2015年に診断を受けたHIV陽性者の寿命は73.9歳だった。一方で、一般の寿命は80歳。その差は約6歳程度だった。

ぷれいす東京の生活実態調査によると、HIV陽性者は2〜3ヶ月に1度の通院、1日に1〜2回の服薬で健康状態をキープできるという。

「HIVは、高血圧や糖尿病のような慢性疾患と同じような治療スタイルで健康状態をキープできる時代になってきています」。

さらに、2016年の国際エイズ会議で発表された、HIV陽性者とHIV陰性者のカップルを対象にした調査によると、コンドームを使わないセックスをしていても、カップル間での感染はゼロだったという。

「薬を飲んで血液中のウィルスが低い状態が6ヶ月以上続けば、以降ほとんど感染しないと言われています」

こうした科学的なエビデンスから、現在「U=U」というキャンペーンが世界で広がっているという。

U=Uとは「Undetectable(検出されない状態)=Untransmittable(感染しない)」の略で、「検出限界以下では、HIVは感染しない」という意味だ。

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日本では、約7〜8割が自分がHIVに感染していることに気づいており、残りの約2〜3割が感染に気づかず過ごしている現状があるという。

「HIV陽性者で自分の感染に気づいている人は、感染を広げる存在ではありません。ですが、気がついていない人は感染を広げる一つの要因になっています。

セクシュアルヘルス、病気を持っているかどうかを確認したり、向き合うかどうかが非常に重要ですが、多くの人は検査を棚上げしてしまいます」と生島氏は話す。

「HIVの現場から感じることは、それぞれが性の健康を守るために、コンドームや検査を受けるかなど、自分なりの予防手段を選ぶ時代だということです。

性について語ることがタブー視されるといった壁などがありますが、自分自身の性と向き合う機会を増やしていくために、支援を続けていきたいと思います」。

セックスワークとセクシュアルヘルスの繋がり

性風俗で働く人たちの健康と安全のために活動するグループ「SWASH」代表の要友紀子氏からは、世界と日本のセックスワーカーとHIVやセクシュアルヘルスに関する話があった。

要氏によると、世界には現在、約78ヶ国に263のセックスワーク関連の団体があるという。

「(こうした団体が)世界に広がったきっかけは、1980年代半ばのエイズパニックの時。セックスワークへの弾圧に対抗する運動によって広がっていきました。

なので、セクシュアルヘルスとセックスワークの自助グループの広がりというのはとても密接に関わっているのです」。

セックスワークのセクシュアルヘルスにとって一番良いと言われている国はオーストラリアのニューサウスウェールズ(NSW)州と、ニュージーランドだと要氏は説明する。

「オーストラリアのNSW州はHIV/性感染症の感染率が世界で最も極端に低いです。理由はセックスワークが非犯罪化されているため、アウトリーチや予防啓発がしやすいからです」。

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SWASH代表の要友紀子氏
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セックスワークを犯罪化すると、例えばコンドームを携帯していることが逮捕の根拠になってしまうことがあると要氏は言う。

「セックスワークが禁止されているのにもかかわらず、なぜコンドームを持っているのか、性的なサービスを売買しているのではないかと疑われてしまい、コンドームを携帯できなくなります。

この問題は日本でも起きています。例えば日本の性産業でメジャーな、デリヘルと呼ばれる非本番系・派遣型の風俗ですが、オーラルセックスが中心のため、コンドームを使う人はほとんどいません。むしろ、コンドームがあることで本番行為をしているのではと疑われやすくなるため、店によっては持たないようスタッフに注意する所もあります。そのため、オーラルセックスにおいて、コンドームは使わないというのがデフォルトになってしまっているのです」。

性感染症とセックスワークについて考える際、「セックスワーカーだからリスキーなセックスをしているのではないか。だから性感染症にかかりやすいのでは、と言われることがあります。実際は、金銭を介した性行為の経験があるひとと、したことがないひとを比べて調査をした結果、不安なこと・心配なこと・いやな経験は、金銭を介しない性行為の経験をしたひとのほうが多かったのです。セックスワーカーだからといって、リスキーということではありません」。

こうした現状に対して、SWASHでは、セクシュアルヘルスに関する手引書の作成や、お店での研修など、適切な知識の普及啓発などを行なっているという。

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誰もがまじめに性のあり方やセックスに向き合い、セクシュアル・ヘルスについて考えるための「セクシュアル・ヘルス次世代基金」。性感染症やHIV・性教育などにつながるセクシュアル・ヘルスに関する活動を行なっている団体に20万円が助成される予定だ(2019年度)。

応募開始は世界エイズデーでもある12月1日から始まる。詳細・応募はbda organicのWEBサイトから確認できる。