Yahoo!ニュースは2016年11月、広告商品「Yahoo!ニュース スポンサードコンテンツ」をリリースしました。
スポンサードコンテンツとは、広告主がもつ製品・サービスなどの中から伝えたいことを、メディアのスタイルになじませ、有益なコンテンツに編集してお届けする記事広告のこと。ヤフーでは、Yahoo!ニュースのほかに、ネタりか、TRILL、Yahoo!ライフマガジンなどで展開しています。
今回は「ニュースを届けること」から少し離れて、Yahoo!ニュースがスポンサードコンテンツを始めた経緯、担当者の思いをご紹介します。
※この記事は「news HACK」内に2017年9月8日に掲載された記事です
Yahoo!ニュース スポンサードコンテンツとは
コンセプトは「社会派スポンサードコンテンツ」。広告主の社会貢献につながるCSR活動・研究・ものづくりや、いま世の中で注目されているもの・ことへの取り組みに着目し、企画を立てています。
コンテンツ編集を担うのは、Yahoo!ニュースの編集者。Yahoo!ニュース トピックス編集の経験者や、新聞社出身の編集者を集め、「ニュースを届ける」業務とは分離させた編集組織を作りました。
スポンサードコンテンツはYahoo!ニュースのPC版、スマートフォン版に専用の枠を設けて掲載しており、インプレッション(※注=ページでの掲載回数)を保証するかたちで販売しています。
Yahoo!ニュース上で表示される位置
1記事制作するプランの場合、インプレッション保証は約1億impsです(2017年9月現在)。
膨らみ続ける「コンテンツマーケティング」、Yahoo!ニュースにできることは
そもそもスポンサードコンテンツとは、コンテンツマーケティングと呼ばれる手法の一つ。コンテンツマーケティングの範囲は幅広く、WEB制作・SEO・ネイティブアド・動画などの全てを含みます。いずれの領域も伸び続けており、広告業界におけるコンテンツマーケティングへの温度感は年々高まっています。
Yahoo!ニュース スポンサードコンテンツの商品設計を担当したコンテンツマーケティング事業本部の遠藤奈都子は、その要因として「バナーなどの従来のディスプレイ広告だけでは、ユーザーに広告主のメッセージを伝えにくくなってきた」ことが挙げられるといいます。
「ディスプレイ広告とは異なる方法で企業の製品・サービスの魅力を届けられないかということで、コンテンツマーケティングへの関心が高まってきました。中でもスポンサードコンテンツは、親和性の高いメディアにおいて、独自に制作する記事でアピールできるため、より効果的な認知拡大や、理解・共感の深まりが期待されています」
例えば「女性向け」など、メディアの特性を生かしたスポンサードコンテンツが注目されている(イメージ:アフロ)
「スポンサードコンテンツは基本的に、広告主のブランディングに寄与するもの。ヤフーで展開しているスポンサードコンテンツでは、いずれもユーザーの具体的な『購入』や『申込み』などのリアクションを一番の狙いにしていません」
最近のスポンサードコンテンツ業界をみてみると、「使ってみた」「やってみた」などの体験型記事や、ライターの拡散力を生かしたバズる企画がトレンドです。訴求力が高く素晴らしい形ですが、遠藤は「Yahoo!ニュースのスポンサードコンテンツでは、もっと違うやり方を考える必要があった」と話します。
「Yahoo!ニュースのスポンサードコンテンツの商品設計をする中で、懸念だったのは『広告主が求めるところと、Yahoo!ニュースが意図しているところの着地点の合意が取れるか』。Yahoo!ニュースは、報道も扱うメディアなので、客観性をもって伝える必要があります。スポンサードしてもらうことによって、Yahoo!ニュースの文脈から離れてしまわないか不安でした」
選んだのは正面突破。社会派スポンサードコンテンツが、広告主の課題解決になる
現在Yahoo!ニュース スポンサードコンテンツのプロジェクトマネジャーを担う片山千里は、「どんなスポンサードコンテンツでありたいかという議論は、Yahoo!ニュース内では比較的すぐにまとまった」と振り返ります。
商品設計をしていた2015年当時は、Yahoo!ニュースに配信している媒体社の窓口を担当
「Yahoo!ニュースのコンセプトは『社会の課題解決』。これはスポンサードコンテンツでも考え方は変わりません。あくまでYahoo!ニュースのもとにあるコンテンツなので、コンセプトに合わなければ載せられないと考えていました」
もともと、広告営業を担当する部署から異動しYahoo!ニュースのメンバーになった片山。自身の立ち位置をこのように話しています。
「私は広告営業、商品設計担当、Yahoo!ニュースをつなぐ『翻訳家』。部門によって立場や見ている方向性が異なるので、相手の求めていることやそれぞれが抱えている事情を推し量りながらお互いが理解して進められるようコミュニケーションを心がけています」
特に時間をかけたのはYahoo!ニュースの編集者との話し合い。「ニュースのトンマナ」「エビデンスの必要性」「社会性と公共性を兼ねたトピック」といった部分を理解するのに時間をかけました。
「広告営業にとって『ベター』であっても、編集にとっては『マスト』だったり。しかもその『マスト』に、広告主が求める内容をどう料理し、載せていくのかも考えていかなければいけない。Yahoo!ニュース スポンサードコンテンツの人間である限り、どちらの意図ともしっかり向き合うのが大切だと思っています」
ここでYahoo!ニュース スポンサードコンテンツが広告主の課題解決になった事例を一つ、ご紹介します。
「絶景」で終わらせない。小さな村の挑戦をスポンサードコンテンツに
Yahoo!ニュース スポンサードコンテンツのリリース後、はじめて出稿いただいたのはニュージーランド航空。羽田・成田とニュージーランドを唯一直行便で結ぶ航空会社です。出稿の背景、狙いを聞きました。
ニュージーランド航空・オンラインセールス部長の入江賢哉さん
「私どもの日頃の大きな課題として挙げられるのが、ニュージーランドの認知度が低いこと。どんな見どころがあるか、どんなアクティビティが楽しめるのか、知っていただけていないのです。海外渡航者の全体から見た割合は0.3~0.5%ほどで、人数でいえばトルコより少ない状況です」
普段は航空券セールなどのキャンペーン情報をディスプレイ広告で訴求していたニュージーランド航空。Yahoo!ニュース スポンサードコンテンツの提案を聞き、より多くの方に知っていただきたい「ニュージーランドの星空」の魅力をコンテンツとして考えたとといいます。
ニュージーランドの山あいにある小さな村・テカポは、「星空」を目当てに世界中から人々が訪れる観光地。記事では、テカポの星空を世界遺産にしようと活動している日本人や、夜空を暗く保つために人工光を制限している村の工夫、「観光と居住区の両立」といった課題に焦点をあてています。
「他媒体の広告特集では、四季やアクティビティが主なコンテンツになり、それほど更新ができないのが課題でした。Yahoo!ニュースはマス媒体で、1カ月と区切った期間で新たなユーザーに認知拡大ができる。読みにくるユーザーも、数あるYahoo!ニュースのタイトルの中から自らの意思で選んで来てくれているので、とても質が高かったです」
Yahoo!ニュース スポンサードコンテンツ上のページビュー、完読率(※編注:記事を最後まで読む率)だけでなく、ニュージーランド航空のサイトに飛んだユーザーの回遊率、滞在時間もとても良い数値だったのに加え、掲載開始後に検索数が伸びたこともあり、認知拡大という狙いは成功したと考えていると入江さんはいいます。
第二弾のYahoo!ニュース スポンサードコンテンツも掲載を開始。記事のメイン舞台であるティリティリマタンギはテカポと比べて旅行者がアクセスしやすく、より実際の旅行につなげやすい場所にフォーカスした記事にしました。
「Yahoo!ニュースの編集からはプロフェッショナルな意識を感じました。こんなにやりとりがミニマムで終わったのは初めてで、とても『安産』。打ち合わせの段階で、どんなテーマで、誰を取材し、どの要素をしっかり取材で得てくるかを固めているから、安心してお願いができました。これから第三弾の掲載についても検討していきたいと思います」
広告主とユーザーの、どちらの幸せも諦めない。「より届く、より伝わる」ための編集方針
スポンサードコンテンツの編集デスク・井上芙優によると、「記事を作る上で一番大事にしているのは、読者をひき付ける切り口をしっかり探すこと」だといいます。
編集デスク・井上(左)、編集リーダー・金子有司(右)
Yahoo!ニュース スポンサードコンテンツの編集は、広告主への企画出し、取材同行、記事制作まで、コンテンツの全てに関わっています。中でも鍵となるのが、一番最初の「企画出し」。どんなトピックをどんな切り口で料理するかによって、広告主のメッセージの伝わり方は変わってくるそうです。
「Yahoo!ニュース スポンサードコンテンツの編集は、切り口を『社会的な問題』『社会的な関心』いずれかに絡ませながら考えていきます。どちらかを軸に置くことで、時事性や社会性をもった記事になります」
例えば貧困・少子高齢化・働き方など、Yahoo!ニュースでも多く取り上げている社会の問題。もしくは、田舎暮らし・東京五輪・将棋など、今世の中で注目されている関心の高いもの・こと。そういったトピックに広告主の「伝えたいこと」を乗せていくといいます。
「岐阜県美術館の案件では、現代アートの修復を軸にした記事を制作しました。展覧会の内容を解説するだけでももちろん価値がありますが、Yahoo!ニュースのユーザーにとって、アートという抽象的なものを伝えるにはもう一捻り必要だな、と」(井上)
そこで着目したのは、山本幸三前地方創生相が2017年4月にした「学芸員はがん」発言。あの一言によって、学芸員とは一体どういう仕事なのか、と多くの人が思ったのではないでしょうか。
「世の中の社会関心にうまく応える切り口と軸で、学芸員の興味深さや展覧会の内容に落とし込んでいきました。アートに興味がない人にも理解してもらうのも工夫のひとつだと思っています」(井上)
広告主の想いや狙いを全面に出すよりも、社会的な関心や時事問題の視点から語ったほうが、結果としてより伝わる。気づかなかったところを発掘し、ユーザーに一番わかりやすい形に翻訳する。広告主とユーザーのどちらの幸せも諦めない編集方針のもと、日々制作に取り組んでいるといいます。
「ユーザーの体験の質を下げないために、釣り見出しや炎上、誤報には細心の注意を払っています。その上で、いかにYahoo!ニュースの面になじませるかが腕の見せどころです」(金子)
【PR】が嫌われないインターネットに
リリースからもうすぐ1年。
試行錯誤をしながら、多くの事例を作ってきました。
今後注力していきたいのは、Yahoo!ニュースに配信しているコンテンツパートナーとの連携です。例えば地域に密着した広告主と、地域に根付いた地方紙。両者とともに作っていくことで、よりYahoo!ニュースの強みを生かすスポンサードコンテンツになれると考えています。「広告主、ユーザー、コンテンツパートナー、Yahoo!ニュースの4者がハッピーになれるスポンサードコンテンツを作っていけたら」(片山)
また、スポンサードコンテンツを作るメディアにとって、PR表記をどこに、どのように入れるかが話題になります。PR記事は読まれない、つまらないものという前提があるのかもしれません。井上は、このトピックに新しい道を示せたらと考えています。
「私たちが信頼されるスポンサードコンテンツを作っていくことで、PRも好まれるインターネットになればいいなと思っています。とはいえ、本当にユーザーの共感を得るスポンサードコンテンツとは何かということについては、まだまだ頭を悩ませる日々です。試行錯誤しながらではありますが、業界のスポンサードコンテンツそのものの質を上げていきたいと思っています」(井上)