増税延期と解散総選挙-消費税先送りが大義名分になるのか

政治判断で多数の経済政策を先送りするなら、安倍政権は選挙後、成長戦略・財政再建の動きを一層加速させる必要がある。それでも景気回復が芳しくなければ、今度は政権自体の責任を問われることになる。
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時事通信社

(7-9月期のGDPは2四半期連続マイナス。政治は、「消費税先送り+年内に解散総選挙」へ)

17日公表の7-9月期国内総生産(GDP)速報値は前期比年率▲1.6%と2四半期連続のマイナスとなった。4月の消費税増税で落ち込んだ景気は7-9月、戻りが遅いどころか、落ち込んだままとの結果となった。

この結果をみて安倍首相は消費税の引き上げの是非を判断するとしていたが、消費税先送りで年内解散総選挙の動きが決定的となった。

(消費税先送りが大義名分になるのか)

自民党の谷垣禎一幹事長は12日、「衆院解散は首相の専権事項」としながらも、「もしそうなれば、(解散の)大義名分が必要」と述べた。おそらく安倍首相は、「12年の3党合意で約束した消費税引き上げの先送りを国民に問う」ことを大義名分に掲げると見られる。野党は、小渕優子前経産相の政治資金不正支出問題など政治とカネの問題、さらにアベノミクス政策自体の失策を隠すための「大義なき解散だ」と批判を強めるのは必至である。

消費税引き上げの先送りを争点に解散することには、首をかしげざるを得ない。

消費税率を今年4月に8%、来年10月に10%へと2段階で引き上げる消費増税法には、付則として「景気条項」がある。経済状況を見極め、増税するかどうかの最終判断を、政府が行うことができると定められている。先送りすることが解散の理由とはなりにくい。

もし争点にするとすれば、消費増税の先送りでなはく、「やるべきことをやったが、それでも消費税を引き上げられる環境にならなかった」「アベノミクスはこのままでいいのか」という点だ。

「金融」「財政」「成長」の三本の矢からなるアベノミクスの成長戦略では昨年度、国家戦略特区、産業競争力強化法を成立させたが、改革は進んでいないとの評価が一般的だ。労働、医療、介護といった、いわゆる「岩盤規制」分野で規制緩和が進んでいないことが大きい。つまり、成長戦略が経済成長に寄与してきたとは言いがたい。

他方、日銀は消費増税に前向きだった。黒田東彦日銀総裁は12日、衆院財務金融委員会に出席し、10月31日の金融政策決定会合で決めた追加金融緩和について、「消費税率の10%への引き上げを前提に実施した」と述べた。日銀は消費増税へ向けた環境整備に努力したが、土壇場で「政府にはしごをはずされた」という見方もできそうだ。

最近の金融市場の動きのように、消費増税先送りリスクによる財政悪化から生じる金利上昇は、限定的といっていい。株価は安倍政権の政策運営への懸念による株価下落どころか、景気後退リスクが減じたとして上昇している。この状況から何が言えるだろうか。

まず、債券市場に注目すれば、先送りリスクに対して市場が懸念を示しているが、日銀の異次元緩和第2弾で金利上昇が押さえ込まれている。また、株価に注目すれば、市場は、景気再加速に向け消費税の先送りを全面的に評価しているとの見方もできる。

市場は消費税先送り、解散をどう評価しているのか、見方が割れているようにも思える。

(選挙後の動きに注目)

いずれにせよ、政治は動き出した。こうなると、いまさら「消費税を引き上げるべきだ」と言っても、何も変わらない。

このまま行けば、総選挙後も政権の形が大きく変わるとは考えにくい。

安倍政権の支持率は下がったとはいえ、50%を若干下回る程度で推移している。政権が掲げるとみられる消費増税先送りという争点に対して野党は、与党と戦えるだけの戦略も、別の争点も作り出せていないように思える。

だとすれば、選挙後の動きが大事だ。

解散から総選挙までの間、政治は一時停止する。今国会では重要法案が多いが、大半は先送りされる。選挙後、消費税先送りの法案を準備し、国会へ法案提出、両院で成立するには数カ月かかるだろう。15年度予算も、12月から審議する予定だったが来年に持ち越され、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字幅を対GDP比で半減させるという目標の達成は難しくなってきた。それに続く成長戦略の促進に向けた各種議論についても、その先となる。

政治判断で多数の経済政策を先送りするなら、安倍政権は選挙後、成長戦略・財政再建の動きを一層加速させる必要がある。それでも景気回復が芳しくなければ、今度は政権自体の責任を問われることになる。

 (消費税先送りと財政の関係については、「消費税率引き上げ判断-先送りの場合、何が起こり、何が次のポイントとなるのか」をご参照ください。

※本稿は2014年11月17日発売・週刊エコノミストの原稿を加筆・修正したものである。

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株式会社ニッセイ基礎研究所

経済研究部 チーフエコノミスト

(2014年11月17日「研究員の眼」より転載)