「復興法人税の前倒し廃止」が目玉、政府で行われている「経済政策」議論の内容とは?【争点:アベノミクス】

政府が経済政策の目玉として発表するといわれている「復興法人税の前倒し廃止」について、与党内で議論が割れている。公明党は、賃金引き上げの確約が得られない企業優遇策と反対しており、今後の議論の行方が注目される。現在、経済政策については複数の議論が行われている。それぞれの議論が根本で絡み合い、相互に影響を及ぼす状況だ。議論の内容を整理して紹介する。
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Reuters

政府が経済政策の目玉として発表するといわれている「復興法人税の前倒し廃止」について、与党内で議論が割れている。公明党は、賃金引き上げの確約が得られない企業優遇策と反対しており、今後の議論の行方が注目される。現在、経済政策については複数の議論が行われている。それぞれの議論が根本で絡み合い、相互に影響を及ぼす状況だ。議論の内容を整理して紹介する。

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安倍晋三首相が10月1日に消費税率の引き上げとあわせて表明する経済対策の概要が明らかになった。対策規模は5兆円程度で、増税による景気下振れリスクに対応するとともに、デフレ脱却や経済再生への道筋を示すことが狙い。

政府・与党間ではすでに、投資減税などの政策減税や低所得者対策として現金を給付する「簡素な給付措置」などの大枠が固まった。政府提案の復興特別法人税の1年前倒し廃止をめぐって調整が続いている。

1日夕の臨時閣議で、来年4月から消費税率を現行の5%から8%に引き上げると決定し、その後、安倍晋三首相が記者会見で経済対策と合わせて増税の狙いなど説明する予定。

<経済対策規模5兆円程度、13年度補正で追加国債発行回避へ>

関係者によると、対策の財源は、前年度の剰余金や今年度の税収増、不用分など一般会計で3兆円超が見込まれるほか、復興予算の使い残し1兆円台が想定されており、全体で5兆円規模の財源は確保できる見込み。来年度予算・税制改正とあわせて具体化し、補正予算を編成する。13年度の補正予算規模については税収の上振れが固まる年末に向けて精査するが、対策に伴う「追加国債発行は回避する」(政府筋)方針。

<復興法人税の前倒し廃止めぐり29日も協議、財源は税収の上振れで対応>

経済対策の目玉として政府が提案する「復興特別法人税の1年前倒し廃止」については調整が最終段階に入った。自民党は野田毅税調会長への一任となったが、公明党税調で反対論が根強い。27日午後に開かれた公明党税制調査会総会でも、賃金引き上げの確約が得られない企業優遇策と反対論が相次いだ。

ただ、安倍晋三首相はじめ政府は、消費増税に伴う景気腰折れを回避し経済成長を軌道に乗せる起爆剤として経済対策の重要な柱と位置付けている。野田自民税調会長は27日午前に開かれた与党税制協議会後の会見で「ただ反対で終われるものではない。両党でさらなる対応をどうするか協議していく」と指摘。自民・公明両党は29日夕に再度、与党税制協議会を開き詰めの協議を行う。

復興法人増税の前倒しに伴う必要財源は9000億円程度。政府は一般会計の税収の上振れ分を特別会計に繰り入れて対処する方針で、対策規模にも「復興財源の補てんを含めて5兆円程度」(政府原案)とした。

<企業減税や「簡素な給付措置」で企業・家計に支援へ>

デフレ脱却を最優先課題とする政府は、今回の経済対策を消費増税による経済の落ち込みを埋め合わせるだけでは不十分と判断。経済成長を軌道に乗せて成長力を底上げする施策を対策の重要な柱と位置付けている。

これまでに政府・与党間で生産性向上のための設備投資促進、ベンチャー投資促進、研究開発促進、中小企業の投資活性化などの投資減税(3500億円─3600億円程度)や、事業再編促進税制などで大筋合意した。

また、企業に賃上げを促す税制について「給与総額を5%以上増やした企業」としている適用要件を緩和し、今年度と来年度は「2%以上」、15年度は3%以上、16、17年度は5%以上とする。企業減税については、10月15日に召集予定の臨時国会に、産業競争力強化法案と併せて成長促進のための税制改正案を提出する予定。

一方、消費増税の逆進性に配慮した「簡素な給付措置」(3000億円程度)や住宅取得の給付措置(4000億円程度)などの家計への支援策、投資補助金などの競争力強化策や高齢者や女性、若者向けの施策、復興・防災安全対策の加速――なども盛り込む。

このうち、消費増税に伴う低所得者対策として導入が決まっている「簡素な給付措置」の概要も大枠固まった。住民非課税世帯に対し1人1万円とし、65歳以上の年金受給者には1人1.5万円に加算する。

ただ、公明党は、年金を繰り上げ受給する60歳以上の対象者への配慮を求めており、政府側との調整が続いている。

<法人実効税率引き下げ、なお流動的>

財界が主張する「法人実効税率引き下げ」は、なお流動的だ。首相周辺が導入に前向きな姿勢を示す一方で、麻生太郎財務相や財務省は一段の税収減につながる税率引き下げに慎重姿勢。与党内でも「国際競争力強化の観点から主張するのであれば、実効税率の引き下げについて真正面から議論するのが筋」(公明党筋)との声がある一方で、自民党は公約通り、中長期的な課題との位置づけを崩していない関係者が多く、将来の検討課題としての表現方法をめぐって温度差もみられる。

方向性を明確にするために「早急に検討開始」とする案も一部で浮上しているが、対策では引き下げの時期や幅についての明記は見送る。最終的な表記については流動的だ。もっとも、この場合でも複数の関係者は「課税ベース拡大と合わせた多面的な議論であって減税一辺倒とは異なる」とし、引き下げに向けた調整が本格化するのは早くても2015年度以降の課題とみられている。

(吉川裕子 基太村真司、編集 石田仁志)

[東京 27日 ロイター]

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