国連・EUほか各国は最高指揮官たちに制裁を
Civilians fleeing Kajo Keji county, toward the southern border with Uganda, April 27, 2017. © 2017 Jason Patinkin
(ナイロビ) ― 南スーダン政府ならびに反政府勢力の指導者たちが、殺害やレイプ、強制追放といった重大犯罪を阻止せず、また加害者の責任も問わないでいると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。
報告書「兵士は私たちがみな反逆者だと思っている:南スーダン赤道州で拡大する暴力と人権侵害」(52ページ)は、昨年、南部のエクアトリア地域(Greater Equatoria)で一般市民に対して拡大した暴力と重大な人権侵害を調査・検証したもの。本報告書では、旧中央エクアトリア州のカジョ・ケジ郡と、旧東エクアトリア州の町Pajokという2つの地域に焦点を当てた。
サルバ・キール大統領、リエック・マシャール前副大統領、ポール・マロン前軍参謀長ほか6名の指揮官を含む9名に対し、紛争における重大な人権侵害に対する責任を示す証拠が積み重なっていることを踏まえ、制裁を科すべきだ。国連安全保障理事会や欧州連合(EU)、その他各国が9名に制裁を発動し、加えて安保理は遅きに失してはいるものの、南スーダンに対し包括的な武器禁輸措置も実施する必要がある。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのケネス・ロス代表は、「4年目となったこの危機では凶悪な犯罪が続いており、何百万人もの人びとが家を追われ、数十万人が人災による飢饉に直面している」と指摘する。「残虐行為には高い代償がつく、という強いメッセージを権力者たちに送るべき時はとうにすぎている。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2017年5月に大統領令により分割・改名されたウガンダ北部に位置する2州で調査を実施した。内戦被災者の大半が、この地域に避難している。南スーダンにある両州では、その大半がディンカ人である政府軍兵士が、反政府勢力との戦闘のために展開しているが、これらの兵士が一般市民に対し、民族を理由に不法殺人や恣意的拘禁、拷問、強制失踪、広範な略奪といった様々な犯罪を働いている。
カジョ・ケジ郡では、2016年半ばに新政府による軍隊の派遣で攻撃が始まった。目撃者らは、2016年6月〜2017年5月の間に、政府軍兵士が少なくとも47件の不法殺人を犯したと詳述。兵士が人びとの家に侵入し、子どもや高齢者、障がい者を含む一般市民を銃撃したケースも複数あった。
Romogi村のある中年女性は、1月のある火曜日の午後、農民の夫と5歳と10歳の子どもを兵士たちに殺されたと話す。「10人くらいの兵士が家に来たときに、私は夕飯を作っていました。外に出た夫が撃たれました。夫についていった息子2人も一緒にです。」
パジョク(Pajok)での証言によると、4月3日に多数の政府軍兵士が町に入ってきて、少なくとも14人の一般市民を殺害したという。「私を車から引きずり下ろして、車のキーを奪いました」と話す60代の男性。 「それから私の目の前で、兵士たちが1人の男性を撃ちました。」彼はほか数人が殺されるのを目撃した。
調査を行った2カ所での目撃者と被害者はまた、政府軍による恣意的拘禁を数十件報告した。輸送コンテナでの長時間拘束や拷問、強制失踪などが含まれるが、当局は拘禁を否定したり、被拘禁者の所在や安全を明らかにしなかったという。
2013年12月の内戦開始以来、200万人近くが南スーダンから脱出し、さらに200万人が国内避難しており、国連の保護区域にまだ20万人以上が滞在している。 拡大する内戦と人権侵害により、昨年だけでも70万人がウガンダ北部の難民居住地区に押し寄せ、エクアトリア地域の多くが無人化した。
2015年8月の和平協定でも戦闘はおさまらず、2016年7月に首都ジュバで武力衝突が起きると、その後も首都の南西部で戦闘が続いた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ヤンビオ、ワウ、イェイの街で起きた一般市民に対する重大な犯罪を調査・検証。これら犯罪には、国連の保護区域で起きた、人道支援従事者や南スーダン人女性に対する、政府軍兵士の明らかな一連の性暴力事件も含まれる。
ヒューマン・ライツ・ウォッチほかは長きにわたり、包括的な武器禁輸措置と対象限定型制裁措置の対象者拡大を南スーダンに対して発動するよう、国連安保理に要請してきた。これまで武器禁輸措置は実施していないが、政府の指導者3人と反政府勢力の指揮官3人に、それぞれ渡航禁止および資産凍結措置を発動した。また、米国とEUは6人の個人に対し制裁を実施。EUは何年にもわたって武器禁輸措置を行ってきたが、アフリカ連合(AU)はさらなる個人の制裁や武器禁輸措置を発動していない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチが、人権侵害や国際人道法をめぐる重大違反の責任を負う証拠を収集し、制裁を科すべきとしているのは次の9名:
- サルバ・キール大統領(軍の最高司令官)
- リエック・マシャール前副大統領(反政府勢力指揮者、南アフリカに亡命中)
- ポール・マロン・アワン大将(元軍参謀長および北バハル・アル・ガザール州知事)
- Johnson Juma Okot中将(エクアトリア地域での人権侵害を告発された第6部隊をかつて率い、現在は地上部隊の司令官)
- Bol Akot中将(2013年12月のヌエル人住民の殺りく時に、ジュバのGudele地区およびMio Saba地区を指揮下においており、西エクアトリア地域で人権侵害を告発された軍隊の元指揮官。現在は国家警察長官)
- Marial Nour Jok 中将(2014年4月から軍情報総監で、エクアトリアとワウ地方での恣意的拘禁・拷問・強制失踪を告発された当局者たちの責任者)
- Attayib Gatluak "Taitai"中将(2015年にユニティ地方での人権侵害を告発された第4部隊の元指揮官で、現在は2015年後半にワウでの人権侵害を告発された第5部隊の指揮官)
- Johnson Olony大将(上ナイル地方で子どもを含む戦闘員の強制動員を告発された反政府勢力の指揮官)
- Matthew Puljang少将(2015年にユニティ地方で人権侵害を告発された軍隊を指揮。子ども兵の強制動員を告発されている)
南スーダン人権委員会は、これらすべての個人をめぐる刑事責任の可能性について、直接的責任および上官責任の両面から、速やかに調査すべきだ。3月に国連人権理事会は、公正かつ信頼できる法廷で、戦争犯罪および人道に対する罪の責任者を訴追するための証拠収集および保存を、南スーダン人権委員会に求めた。
2015年の和平協定は、南スーダンのためにアフリカ連合がハイブリッド刑事法廷を設置することを想定していたが、18カ月以上も目にみえる進展がほとんどない。主な問題は、南スーダン政府が法廷の設置に関してアフリカ連合と実質的にほとんど関わろうとしないことにある。
2017年7月21日にアフリカ連合、南スーダン、国連関係者がハイブリッド刑事法廷について議論するためにジュバで会談。8月末までに法廷規程を確定するなど、その設置のためのロードマップに同意した。
アフリカ連合は、たとえ南スーダン指導者の協力を得られなくても、必要に応じて継続的な前進の気運を確保すべきだ。信頼できる公正で独立したハイブリッド刑事法廷が設置されないのであれば、残された国際刑事裁判所(ICC)という選択が追求されるべきだろう。この場合、南スーダンはICCの締約国ではないため、安保理の付託か南スーダン政府の要請が必要となる。
ロス代表は、「アフリカ連合による南スーダンためのハイブリッド刑事法廷設置という案は、暴力と不処罰の連鎖を止める希望をもたらした」と指摘する。「しかし2年近くたった今も法廷はまだ生まれていない。7月21日のロードマップは、被害者にとって画期的なものになる可能性を秘めているが、それを実際に証明するのは法廷の設置だ。」
(2017年8月1日「Human Rights Watch」より転載)