Women stand outside a UN Refugee Agency (UNHCR) site in Yei, in southern South Sudan. The formerly peaceful town of Yei was once a beacon of coexistence, but Yei is now a center of the country's renewed civil war. © 2016 AP
(ナイロビ)― 南スーダン南部の街イェイの内部と周辺ではこの数ヶ月間、南スーダン政府軍と反政府勢力による民間人への深刻な人権侵害が起きていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。具体的には、政府軍による殺害やレイプ、恣意的拘禁、また反政府軍による拉致などだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチが今回イェイで確認した人権侵害は、現在の紛争で両勢力が行ってきた一連の民間人攻撃の最も最近の事件といえる。
スーダン人民解放軍(SPLA)と反政府勢力との戦闘、および両勢力による民間人攻撃が同国南部で激しくなったのは、2016年7月初めの首都ジュバでの一連の衝突後。民間人数十万人が南部のエクアトリア地域(Greater Equatoria)から逃れている。
「国連による武器禁輸措置の提案がようやく協議される。これまで南スーダンでは、ほぼ3年にわたり武装組織による民間人への残虐行為があった」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアフリカ・アドボカシー上級ディレクターのダニエル・ベケレは述べた。「国連安全保障理事会メンバーは、民間人攻撃の停止の一助となりうるこの措置をただちに支持すべきである。」
11月、ジェノサイド防止に関する国連特別アドバイザーであるアダマ・ディエン氏は、南スーダンでのジェノサイドの危険性を警告した。11月17日、米国国連代表部は安全保障理事会に対し、南スーダンへの武器禁輸と、非公開の別表で特定された個人への対象限定型制裁措置を含む新たな決議を回覧した。
11月19日から26日にかけて、ヒューマン・ライツ・ウォッチは中央エクアトリアに新設されたイェイ川州の新州都イェイで被害者と目撃者70人以上に話を聞いた。イェイは首都ジュバから150kmだ。治安が悪化しているため、調査員らがムグウォ(Mugwo)、ルベケ(Rubeke)、ミティカ(Mitika)などイェイの周辺地域やラス(Lasu)に通じる街道一帯で直接状況を評価することはできなかった。これらの地域は、更に深刻な人権侵害が起きていると言われている地域だ。調査員らはイェイの政府職員とジュバの援助機関にもインタビューした。
南スーダン内戦では2013年12月の紛争勃発以来、政府軍と反政府勢力(スーダン人民解放運動反対派:SPLM-IO[マシャル前大統領派])構成員による民間人攻撃が顕著だ。2015年8月には、両勢力指導者が国民統一暫定政府設置などで合意したにもかかわらず、従来は安定していた地域でも現在も衝突や戦闘が起きている。
イェイの住民はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、身の毛もよだつような民間人殺害、拘束と戦闘への恐怖により、7月からイェイと周辺地域では大勢の人びとが避難していると語った。イェイは政府軍が掌握しているが、反政府側が周辺地域の大半を手中に収めた模様だ。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)はイェイの町に駐在しているが、人権侵害の報告があってから国連PKO部隊が哨戒を実施できたのはわずか2回。主な原因は、国連側のジュバの出入りに政府が制限を加えているからだ。
8月23日の殺害事例では、正体不明の襲撃者たちが家に押し入り、母親と娘(4)を手斧で殺し、遺体を川に捨てたと伝えられる。幼児(4ヶ月)は首を切りつけられたが生き残った。殺害は政府軍支配地域で起きたが、この事例やその他の事例でも、ヒューマン・ライツ・ウォッチは襲撃犯が政府軍か反政府勢力のどちらかであるかを確認できなかった。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、政府軍兵士が民間人男性をイェイの軍事施設に恣意的に拘禁した事例を多数明らかにした。またジュバ、ヤンビオ、ワウでの軍による恣意的拘禁について、現在の典型的なタイプも示している。イェイの信頼できる消息筋によれば、被拘禁者は拷問を受け、悲惨な環境に置かれている。少なくとも2人が強制失踪の被害に遭っているが、当局は拘禁を否定しており、所在は不明だ。強制失踪はいかなる状況の下でも禁止されており、戦争犯罪に該当することがある。
A young girl walks down a dusty street in Yei, which has been left nearly empty since becoming the center of the country's renewed civil war. © 2016 AP
ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査員はまた、マシャル前大統領率いる反政府勢力と連携していると主張するゲリラ側が、イェイから逃れている民間人を乗せた車列を待ち伏せ攻撃した事例も確認した。犠牲者の大半がキール大統領と広い意味で同じエスニック・グループであるディンカの人びとだった。「銃撃が始まったので身を伏せました」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのインタビューに対し、少年(11)は10月8日の車列襲撃事件の様子を語った。「他の人たちが僕の上に倒れかかってきました。1人は頭を打ち抜かれていました。」 ゲリラはトラックと中にまだ残っている人たちに火を放ち、中にいる数十人も殺害した。
政府軍兵士と反政府勢力戦闘員はともに、2016年半ばにイェイと周辺地域で紛争が激しくなって以来、女性や少女をレイプしていると、被害者、医療従事者、NGO関係者、政府職員は述べた。反政府勢力戦闘員は、イェイの南にあるキャンプに住むヌバ(Nuba)山脈出身の難民を襲撃し、少なくとも女性とその子ども計9人を拉致している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチがインタビューした人はほぼ口をそろえて、民間人がイェイから自らの畑も含めた周辺地域に移動することがかなり難しいと語った。政府軍や反政府武装勢力がいるためだ。
国際法では、紛争時に広範な治安上の理由に基づき民間人を逮捕・拘引することは禁じられていないものの、拘禁は厳密なデュー・プロセスに従わねばならず、こうした手続き上の保護措置が尊重されなければ拘禁は恣意的とされる。とくにあらゆる被逮捕者は逮捕理由を告げられ、起訴または釈放を判断するため判事に迅速に面会し、拘禁の合法性に異議を申し立てる機会を与えられるべきである。
南スーダン政府は治安と移動の自由を確保するとともに、イェイで支援を求める民間人への援助機関のアクセスを許可し、ポスト・レイプ・ケア用の緊急医薬品を含む、緊急性の高い基礎医薬品についてイェイ市民病院への搬入を認めるべきだ。南スーダン政府は女性の権利擁護団体等に対し、心理社会的支援を含めた緊急のポスト・レイプ・ケアの重要性に関する啓発キャンペーンを支援すべきであると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
国連安全保障理事国は、米国による武器禁輸と対象限定型制裁の提案を支持すべきだ。また南スーダンについてアフリカ連合(AU)によるハイブリッド刑事法廷設置作業を進めるよう強く求めるべきだ。法廷では、戦争犯罪など紛争下での深刻な武力紛争法違反の責任者について捜査と訴追が行われる。
「今回の恐るべき紛争は、南スーダンの民間人に甚大な被害をすでにもたらしているが、それは更に悪化している。誰一人として重大犯罪の責任を問われないことがその大きな理由だ」と、前出のベケレ・ディレクターは指摘する。「国連、アフリカ連合、またこの問題の主要国は、武器禁輸のほか、個人制裁やアフリカ連合によるハイブリッド刑事法廷など、一連の措置をただちに支持すべきだ。それによって国際犯罪の実行者の責任追及が可能となるのである。」
(2016年11月23日「Human Rights Watch」より転載)