シリーズ「南スーダンからアフリカ開発会議 (TICAD VI) を考える」 (6)

UNMASのミッションは、TICADで協議されるアフリカのインフラ、経済、農業といった活動を支える確固たる平和の礎となるのです。
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2016年8月27~28日、ケニアで第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)が開催されます。

初めてアフリカで開催されるTICADに向けて、国連広報センターでは日本の自衛隊が国連PKOに参加し、また多くの日本人国連職員が活動する南スーダンを事例にして、様々なアクターの皆さんに、それぞれの立場からTICADで議題となる課題について考えていただくという特集をシリーズでお届けします。

シリーズ第6回は、国連地雷対策サービス部(UNMAS)の南スーダン事務所に6月まで勤務し、現在はUNMASシリアでプログラムオフィサーとして勤務する吉岡由美子さんです。

南スーダンは、独立までの長い紛争とその後の国内紛争で、多くの地雷やクラスター爆弾などが使われました。現在も残っている地雷や不発弾は、人々の生活だけでなく国の開発や復興も妨げています。これらを除去する地道な作業が進んでこそ、TICAD VIで協議されるアフリカの包括的な開発が可能になります。吉岡さんに、南スーダンでの地雷除去の状況などを寄稿していただきました。(この寄稿は2016年7月の戦闘再発の前に執筆されたものです)

第6回 国連地雷対策サービス部(UNMAS) 吉岡由美子さん  

~平和の礎を作る仕事で不可能を可能にしたい~

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吉岡 由美子 (よしおか ゆみこ)国連地雷対策サービス部(UNMAS) シリア プログラム・オフィサー

山口県出身。大阪外国語大学(現大阪大学)、同大学院修了、在学中にダマスカス大学へ留学。大学院修了後、在イスラエル日本大使館で専門調査員、JICAヨルダン事務所でイラク復興支援担当企画調査員、外務省中東アフリカ局中東第一課で対パレスチナ支援担当官。その後、国連地雷対策サービスでアビエイ、リビア、南スーダンを経て、2016年6月よりUNMASシリア プログラム・オフィサー

南スーダンの首都ジュバは、アフリカ初開催のTICADが開かれるケニアのナイロビから北西に約1100キロ、飛行機で約1時間半のところにあります。私はジュバにあるUNMAS(United Nations Mine Action Service, 国連地雷対策サービス部、以下UNMAS)の南スーダン事務所に2016年6月まで3年4か月勤務していました。

2011年7月に、世界で最も新しい国として独立した南スーダンは、南北スーダン時代からの数十年にわたる紛争のため、また、13年12月に発生し現在も断続的に続く武力衝突のため、今なお地雷や不発弾などの爆発性危険物が残っており、人々は爆発物の脅威を感じながら生活しています。

日本で生まれ育った皆さんは、日々、爆発物の恐怖と隣り合わせの生活というのは想像し難いのではないでしょうか。UNMASは、爆発性危険物を見つけ出して処理し、開発や復興支援、またその前段階にあたる人道支援、人々が安全に安心して暮らすための基盤を整える役割を負っています。それは平和の礎を作る仕事であり、同時に困難なミッションでもあります。

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除去作業を行う作業員  ©UNMAS

「南スーダンで地雷対策の仕事をしています。住居と事務所はコンテナを改造したもので、同僚の大半は元軍人で自国の軍でも爆発物の処理を行なっていた男性たちです」とお話しすると、「それはとても大変で厳しいお仕事なのでしょうね」と皆さん気遣ってくださいます。もしかしたら米国の映画『ハート・ロッカー』(2009年公開のイラクでの米軍の爆発物処理班の活動を描いた映画)に出てくるような派手な爆発物処理シーンを想像されているのかもしれません。

現場でも一番の最前線で活動する作業員は、気温40度という過酷な環境の中で10キロの防護服を身につけ、気の遠くなるような地道な作業を続けながら爆発性危険物の除去活動に取り組んでいます。また、彼らは、爆発物から自分の身を守ることを目指す危険回避教育や、被害者支援、キャパシティ・ディベロップメント、啓発活動なども行なっています。

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地雷注意マーク (筆者提供)

南スーダンは2013年12月以降、深刻な人道危機にありますが、地雷対策の地道な作業は、人々の生活に安全と安心をもたらし、人道支援を可能にします。それだけではなく、インフラ整備、農業、市場での買い物といった小さな経済活動から、国内外の物流といった大きな経済活動までをも支えることとなります。さらに、教育や医療といった分野の支援にも繋がります。ここでは、困難なミッションの成功例を紹介します。

【ミッション1:移動インフラ支援 ~人々の安全な移動を確保せよ~】

南スーダンでは基礎インフラの整備が遅れています。道路整備の遅れは、人の移動や物資輸送を困難にしています。国の総面積は日本の約1.7倍にあたる64万平方キロですが、雨季になると60%以上の国土に陸路ではアクセスできなくなってしまいます。国内で舗装されている国道は、首都のジュバからウガンダ国境へ抜ける192キロのみです。このため、食糧や医療などの人道支援関係者は空路で移動しています。彼らが安全に支援活動を行えるよう、UNMASはヘリが発着する飛行場の安全確認調査を頻繁に行っています。

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UNMASが安全確認を行った空港から離陸するヘリ ©UNMISS

数年前、WFP(World Food Programme)がフィーダー・ロード・プロジェクト(Feeder Roads Projects)を始めました。遠隔地へ飛行機から直接食糧を投下するのではなく、道路を建設し陸路で輸送することで、飛行機を飛ばすコストを削減し、少しでも多くの食糧を支援しようとする試みです。WFPからの要請を受け、UNMAS は道路建設予定地で調査や地雷など危険物の除去作業などを行いました。道路完成後、この道を使って助けを必要としている人々のもとに食糧を届けています。

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WFPの食糧配給のためのコンボイ  ©アルバート・ゴンザレス・ファッラン

ミッション1、完了。

【ミッション2:教育インフラ支援 ~教育への安全なアクセスを回復せよ~】

南スーダンでは、就学人口の約半数の子どもが学校に通えない状態にあります。紛争で800あまりの学校が破壊され、場合によっては兵士たちに使用されることもあり、兵士が去った後には爆発性危険物や武器が残されていることもあります。UNMASはこういった場所の安全性を調査し、必要であれば除去し、子供が安全に学校に通えるようにしています。また、子供たちに危険回避教育を実施しています。

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UNMASの調査と地雷除去後、ベンティウのフレンドリー小学校で行った危険回避教育 ©UNMAS

北部の町レールでは、学校建設や修復を支援するため、UNMASは40カ所近くを調査し除去作業などを行うと同時に、児童、教員や両親に危険回避教育も重ねてきました。

ミッション2、完了。

【ミッション3:農業・経済支援 ~人々に安全な経済活動の場を提供せよ~】

北部ユニティー地方のニョロ村では、地雷が残っていたために農業を行なうことができず、また、水源へのアクセスも阻まれていました。この村で、UNMASは64個の対人地雷と8個の対戦車地雷、さらに5個の不発弾を除去しました。

人々は水源の利用を再開し、農業ができるようになりました。村の長老は「我々はようやく自由を手に入れたのです。以前はまるで牢獄にいるようでした。地雷の脅威のためにどこへも行くことができず、いつも、爆発物の脅威に怯えていました。今は、安心して水を汲みにいけるし、十分な食糧を育て収穫できるようになりました。それだけでなく、売りに出すための農作物も収穫できるようになったのです。これは我々にとって大きな変化です」と話してくれました。

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ニョロ村での聞き取り調査。住民との対話は重要な情報源  ©MAGショーン・サットン

UNMASは爆発性危険物の残された市場でも除去作業を行い、人々が安全に市場を使えるようにするなど、住民の日々の経済活動を支えています。

ミッション3、完了。

こういった活動を可能にしてくれているのは日本政府、また日本の皆さまの支援のおかげでもあります。日本はUNMASへの最大のドナーでもあり、特に南スーダンにおいては、12年以降、支援総額は1200万ドル以上に上ります。この支援なくして、我々の活動は成り立ちません。また、南スーダンは日本が唯一PKO活動に参画している国であり、UNMISSの陸上自衛隊派遣施設隊とUNMASとの緊密な協力関係も12年1月の派遣以降、続いています。

南スーダンには、いまだ爆発性危険物の残る危険地域が800カ所近くあります。この脅威を取り除き、人々に安全と安心を届けるために、今日もUNMASのミッションは続いています。そうしてこれらのミッションは、TICADで協議されるアフリカの包括的な開発、例えばインフラ、経済、農業といった活動を支える確固たる平和の礎となるのです。