80年代、デジタル・レコーディングの普及で日干し状態になったある一つのアナログ・レコーディング・スタジオが、90年代のロックシーンの影響により再び注目をあびる。「サウンド・シティ」。それは、多大なる有名ミュージシャンが数々の名盤を世に生み出した、ロック史の1ページを刻む伝説のレコーディング・スタジオである。
サウンド・シティでレコーディングを行ったミュージシャンには、フリートウッド・マック、トム・ペティ、ニール・ヤング、ニルヴァーナ、メタリカ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなど、ロック史の偉大なる面子が揃う。40年間に渡りすばらしいの名曲の音色を仕留めてきたこのスタジオは、90年代ロックシーンの衰退と、その後のデジタル・サウンドやコンピューター・プログラミングの普及により、2011年に完全に幕を下ろすこととなった。しかし、現在はオーナーが代わるも、「フェアファックス・レコーディングス」と新しい名前で生まれ変わり、今でもアナログ・レコーディング・スタジオとして同じ場所に居座っている。最近では、グラミー賞において「Somebody That I Used To Know」で最優秀レコード賞を受賞したミュージシャン、ゴティエがレコーディングをしたスタジオとしても知られている。
2014年10月11日、ロックの歴史とサウンド・シティの栄光をたたえるため、25人の地元ロサンゼルスで活動するアーティスト達が集まり、一夜限りのアート展覧会「Sound & Vision」が開催された。ロック音楽やサウンド・シティにちなんだアート作品を展示する他、多くのミュージシャンが足を踏み入れた実際のレコーディング・スタジオもゲストのためにオープンされ、華やかなイベントとなった。
写真中央、キュレーターのカール・ドレセン
"ニルヴァーナ"− ニルヴァーナ
ジェフ・ネントラップ作
"スイート・スポット"− サウンド・シティ
ティモシー・ロバート・スミス作
"キャッシュ"− ジョニー・キャッシュ
ショーン・チータム作
"ユア・ソング"− エルトン・ジョン
ブランディ・ミラン作
"ベイカーズ・アンプ"− バッド・レリジョン
ナタリア・ファビア作
それぞれのアーティストが、影響を受けたミュージシャンの肖像画やライブシーン、ファンタジックにオリジナル化したもの、スタジオ自体を1枚のペインティングに収めたものなど、興味深い作品を展示している。ミュージシャンに絵描きが多いように、アーティストがロックファン、もしくはミュージシャンである場合も少なくはない。アートと音楽、この二つの異なる表現の技が出会うとき、どちらもすばらしい化学反応を起こし、見事な存在感を表してくれる。アーティストに来客者、彼らのロックンロールへの愛情がスタジオ内の隅々を満たしたようだった。
アート以外にも、サウンド・シティを敬う作品として、フー・ファイターズのデイヴ・グロールが監督を勤めたドキュメンタリー映画「サウンド・シティ − リアル・トゥ・リール」や、ビートルズのポール・マッカートニーやフリートウッド・マックのスティーヴィー・ニックスが参加した同映画のサウンドトラックも見逃すことはできない。
テクノ、ハウス、レイヴなどのデジタル・サウンドがマーケットをしめる近年の音楽業界の中で、ギター、ベース、ドラムのスリーピースが揃ったロックバンドの姿を見る機会が少なくなった 。今ではパソコン一つで誰でも簡単に音を作り出せる時代になり、楽器の技術無しでは成り立たないロック音楽の居場所がどんどんと狭くなっているように感じる。ロックは死んだと言われるが、そんなことはない。なぜなら、彼らのロックに対する愛情は、いつでもそのサウンドのようにがつんと図太く根強いものだからだ。
Sound and Vision Website: http://www.soundandvisionartshow.com
Sound City Studio Website: http://soundcitystudios.net