『ザ・インタビュー』公開で、ソニー警戒強める アメリカ子会社のリスク管理強化

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これまで映画事業の経営判断はSPEが独立して行ってきたが、北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺を題材にした映画「ザ・インタビュー」の上映をめぐっては、平井一夫社長が、SPEのマイケル・リントン最高経営責任者(CEO)の判断を逐一承認。本社の関与を高め、25日の映画公開の影響に警戒を強めている。

25日から公開の映画は、劇場へのテロ予告で17日にいったんは上映中止を決めたが、オバマ米大統領が19日の記者会見で、その判断を「誤り」と批判。23日に一転して公開に踏み切った。今や、企業の経営判断を超え、米国の「国家安全保障」や「表現の自由」が問われる問題に発展した。

ソニー関係者によると、平井社長は前週末からクリスマス休暇を利用し、米国西海岸の自宅に帰省しており、米国内でSPEのリントンCEOの報告を受けている。オバマ大統領の会見で米国世論が「脅迫に屈しない」方向に一気に傾いた状況を受けて、リントンCEOは上映を決断し、リントンCEOの判断を平井社長が支持した格好だ。

基本的にソニー本社は、SPEの日々の経営判断に介入する体制にはなっていない。ただ、25日の映画上映の判断にあたっては、通常の経営管理を超え、平井社長とリントンCEOの電話連絡が毎日のように行われ、上映中止も上映決行も、平井社長の了承で行われたという。

<ソニーの対応、全米の対策>

映画上映を受けて、ソニーが警戒するのは、ハッカー集団の報復だ。11月24日にSPEのコンピュータシステムに侵入したハッカーは、事後にFBI(米連邦捜査局)が全米企業に警告を発するほど高度な手口。「外部からの侵入を100%防ぐのは難しい」(ソニー関係者)が、侵入検知やモニタリングの体制を強化する。

社内システムの警備はソニーグループを挙げた対応で、ソニー米国本社(ソニー・コーポレーション・オブ・アメリカ)のニコール・セリグマン社長が統括し、ワシントンのジョン・シモーネ最高情報セキュリティ責任者(CISO)が、SPEをはじめ、全世界の情報セキュリティチームとの連携を強化。米ホワイトハウスに人脈を持つセリグマン社長は、平井社長への報告の頻度を上げている。

一方で、ハッカー集団は、映画を上映する劇場も脅迫した。「ここでにソニーができることは限られる」(同)のが実情だが、劇場の安全確保はすでに米国全体の問題に発展している。米国内では200館以上の劇場が上映を決定し、チケット売り切れが続出。劇場オーナーは、警備体制を強化しており、FBIは各劇場との連絡体制を構築したことを明らかにしている。

<独立経営とリスク管理>

「万が一劇場に危害が加えられたらどうするのか」――。日本国内では、SPEの上映による経営リスクを指摘する声もあるが「もはや米国世論はテロの脅迫に屈するか、屈しないかの問題に発展している」(ソニー幹部)ことで、SPEは1企業のビジネス判断を超えて、米政府と連携する道をとる。

あるソニー本社の幹部は「脅迫行為に接したときの日米の国民性の違いが出た。人質救出を優先する日本に対し、米国は脅迫に屈しない姿勢を重視する。米国の判断は米国で行うことが望ましい」と述べ、リントンCEOの現地判断を尊重する姿勢をにじませた。

日本の本社では米国世論を読み切るのは難しく、米国の映画子会社の独立経営は利点でもある。一方で、ソニーは米国のリスクの広がりを警戒しており、本社の経営問題には広げたくない考えだ。米国のエンターテインメント事業の独立経営とリスク管理のバランスをいかにとるかが改めて問われている。

(村井令二 安藤律子  Mary Milliken 編集:田巻一彦)

[東京/ロサンゼルス 25日 ロイター]

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