「連れ去り、監禁、脱走」...。ひきこもりの支援と称し、テレビ番組にも出演していた団体の実態とは?

ひきこもりや家庭内暴力の「支援」を掲げる団体のトラブルが後を絶たない。力づくで自宅から連れ出され、施設に監禁されたなどして、元入所者やその家族による提訴が相次ぐ。
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写真はイメージです
Tzido via Getty Images

ひきこもりや家庭内暴力の「支援」を掲げる団体のトラブルが後を絶たない。

元入所者が、力づくで自宅から連れ出され、施設に監禁されたなどとして運営企業を提訴するなどのケースが相次ぐ。

中には施設から強制的に精神病院へ送られ、隔離病棟で身体拘束を受けたとの訴えもある。 

「突然拉致・監禁された傷は一生消えない」。原告の1人はそう心境を明かす。

羽交い締めで連れ出す

提訴されたのは、東京都新宿区で「あけぼのばし自立研修センター」を運営するクリアアンサー社。

千葉県内に住む30代の女性が8月、同社職員に拉致・監禁されたとして、慰謝料など550万円を求める訴えを起こした。

訴状によると2017年10月、同社職員4、5人が突然女性の自室に入ってきた。職員は、母親が同社と契約を結んだと説明し、8時間にわたり入所するよう女性を説得。拒否し続けたところ、羽交い絞めにされて無理やり部屋から連れ出され、車で施設に送られた。

施設ではカギ付きの部屋に閉じ込められ、24時間監視役の職員がついた。女性は翌日も、恐怖のあまり食事も水も摂れなかったが「こんなこと(絶食)をして帰れると思うな」とかえって脅されたという。

女性は入所3日目、衰弱のため大学病院へ救急搬送され、集中治療室に送られた。

女性は当時の様子を、以下のように語る。

「同意もなく勝手に体に触られ、車で拉致された恐怖で全身が震え、ずっと泣いていた。3日目には体の感覚がなくなってきたが、職員は様子を見に訪れた母親と『顔色もいいし、大丈夫じゃない』と笑って話していた」

また、同センターの職員は入院中も病室に押しかけ、枕元で施設に戻るよう説得を始めたという。当時、付き添っていた女性の父親は「まさか病院まで来るとは思わず、驚いた」と話す。

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あけぼのばし自立研修センターが入るビル=東京・新宿
Tomoko Arima

地下室に監禁

クリアアンサー社は、この女性以外に少なくとも2件の訴訟を起こされている。

1件は人権を無視した契約を結ばされたとして、入所者の父親が契約無効と料金685万円の返還を要求。もう1件は元入所者の30代男性が、拉致・監禁された上に精神病院へ入院させられたとして、慰謝料など550万円を求めている。

この男性は「突然拉致・監禁された傷は、一生消えない。自分に収入がないのは認めるが、これほどまでに人としての尊厳を踏みにじることが許されるのか」と憤る。

訴状によると、男性は昨年5月初旬、突然自宅を訪れた同社職員に「あなたのような『未成熟子』には何も言う資格はない」などと言われ、腕をつかまれ車で同センターへ連れて行かれた。

男性は地下室で外側から施錠され、8日間監禁。それでもセンターへの入所を拒否し続けると、精神病院へ50日間、強制的に入院させた。

入院直後、看護師に裸の写真を撮影された上におむつをつけられ、3日にわたって拘束帯で体を縛られるなどの「屈辱的な仕打ち」も受けたという。

退院後は再び、同センターに入所させられたが、同年8月上旬、支援者を頼って脱走した。

男性が拉致される時は、警察官も同席していたが、ただ傍観していただけだった。

さらに男性は入所中も、職員の隙をついて法律の無料相談窓口、法務省の人権擁護局などに相談したが、「証拠がない」などと言われ、救助の手は差し伸べられなかった。

「警察すら助けてくれず、一時は、国にも見捨てられたと落ち込んだ。今も『部屋に武器の一つも備え、自分の身は自分で守るしかない』という思いだ」と、社会への不信感を口にした。

クリアアンサーに、一連の訴訟について取材を申し込んだところ「裁判にて明らかにしていくべき内容だと考えており、ご質問の回答は差し控えさせていただきたいと思います」との回答があった。

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あけぼのばし自立研修センターが入るビルの表札=東京・新宿
Tomoko Arima

「ひきこもりは甘え」は誤り

男性の弁護人を務める林治弁護士は、「同センターの手口は、悪徳商法と同じだ」と批判する。

「親に『お子さんの症状は重い。このままだとあっという間に5年10年たちますよ』『エスカレートして取り返しのつかないことになる』と不安をあおる言葉を畳みかけた上で『私たちに任せれば半年で自立させます』などと説き伏せ、高額な報酬を請求する」

また被告側は、センターへの拉致・監禁などについて「必要性・相当性が認められるので、社会通念上違法とは評価されない」と主張しているという。

原告の男性は、「稼ぎのない『未成熟子』など誰からも相手にされない、だから多少乱暴なことをしても、“社会”は自分たちに味方してくれるいう考えが、連れ去りを助長しているのではないか」と推測する。

男性は以前、ある民放大手の取材を受けた時、「今は親元を離れて暮らしている」と言うと、ディレクターから「結果として自立できたら、それでいいんじゃないの?」という言葉を投げかけられた。

「どんな手段であれ、自立さえできればいい。それが社会の見方か、厳しいなとつくづく思った」

林弁護士は「ひきこもりの当事者の多くは、成功体験に乏しく生きづらさを抱えているのに、世間には『親に甘えて養ってもらっている』という誤った批判が多い。こうした偏見が、拉致、監禁など人権を無視した不法行為を覆い隠してしまうことは、あってはならない」と訴える。

10人が脱走、相次ぐトラブル

ことし5月~6月、川崎殺傷事件、元農林水産事務次官の長男殺害事件が相次いで発生し、「ひきこもり」が大きな注目を集めた。

あけぼのばし自立研修センターは、この時期にたびたび「当事者を社会復帰させた優良事例」としてテレビ番組などに取り上げられた。

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川崎市の児童ら殺傷事件で、容疑者の自宅に家宅捜索に入る神奈川県警の捜査員=5月29日、川崎市麻生区
時事通信社

8月にクリアアンサーを提訴した女性原告は、拉致・監禁後に悪夢などのPTSDを発症し、今も治療を受けている。

両事件後、同センターや同種の”支援”団体がメディアに好意的に取り上げられたことで、症状が悪化し「薬の量が増えてしまった」という。

また女性は、施設へ自分を引き渡した母親も、訴訟の被告に加えている。このように「連れ去り」の被害者が、契約した親に対する不信感を募らせ、関係が悪化してしまうケースも多い。

被害を訴えているのは、同センターの入所者だけではない。都内や神奈川県に拠点を置く別の施設では2018年、男女10人が脱走した。このうちの1人は「突然自宅のカギを開けられ、連れ出された。施設では現金を持つことも外部と連絡を取ることも厳しく制限され、軟禁状態に置かれた」と訴える。

2017年には、だまされて施設に連れていかれたとして、当時20代の女性が同種の施設(現在は閉鎖)を提訴している。

ひきこもりの当事者・家族がつくる「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」も、「暴力的な引き出し手法を使って問題解決を図ろうとする『自立支援』団体によるトラブルや、中身のない『自立支援』で高額な契約をさせる消費者トラブルが急増している」として、ウェブサイト内に関連報道のリンクを集めたページを設置した。

同連合会は、ひきこもりの子どもを持つ親に対して、安易にこうした団体を頼らず、地域の「ひきこもり地域支援センター」や全国にある家族会の支部に相談するよう呼びかけている。

(取材・執筆=フリージャーナリスト・有馬知子)