ソーシャルテレビは、ビジネスをめざす段階に来た?〜ソーシャルテレビアワード2014レポート〜

先週、7月23日〜25日に開催された日経BP主催のモバイル&ソーシャルWEEKと銘打たれたイベントで、ソーシャルテレビアワードが発表された。
|
Open Image Modal
Toshio Kuramata

先週、7月23日〜25日に開催された日経BP主催のモバイル&ソーシャルWEEKと銘打たれたイベントで、ソーシャルテレビアワードが発表された。このアワードは今回で三回目。ずっと気になっていて、今年はようやく見に行けたので、レポートしておこう。

モバイル&ソーシャルWEEKというイベント自体は、いわゆるデジタルマーケティング全般をテーマにしたもので、ちょっと小難しいムードがある。そんな中で、ソーシャルテレビアワードは異彩を放っていた。なにしろ、華やかなのだ。取材も多く、23日の贈賞式翌日にはいろんなメディアでニュースになっていた。

ここでは、まず各賞を紹介しよう。

【大賞】...『THE MUSIC DAY 音楽のちから』(日本テレビ)

【日経デジタルマーケティング賞】 ...『王様のブランチ』(TBSテレビ)

【日経エンタテインメント!賞】 ...『テラスハウス』(フジテレビ)

【特別賞】... 『おやすみ日本 眠いいね!』(NHK)

【特別賞】... 『トーキョーライブ24時 ~ジャニーズが生で悩み解決できるの!?~』(テレビ東京)

この賞の対象期間は、2013年6月~2014年5月に在京キー局で放送された番組。大賞の「音楽のちから」は2013年7月の放送に対しての授賞だ。

『音楽のちから』については去年このブログでも「テレビはすでにインタラクティブメディアなのだ」と題した記事で書いている。年に一度のイベント的な音楽番組のクライマックスで嵐が歌を披露した際に、スマートフォンなどで曲に合わせてゲームを楽しめるインタラクティブな仕掛けが行われた。参加者は130万人を超えるなど、大きな話題を呼んだことに対して大賞が贈られた。

『テラスハウス』はこの一年ですっかりソーシャル型テレビ番組として成長した。無名の出演者がシェアハウスで暮らす中での出来事を追っていき、放送中に出演者達がtwitterでつぶやく。視聴者は出演者にからんでつぶやけるので、強い参加感が得られる番組だ。

この番組から巣立って人気タレントになった出演者も多く、いまでこそ人気番組だが、ソーシャルの活用は最初から考えられていたわけではない。最初視聴率で苦戦する中、若者への興味喚起手段としてtwitterを使ってみたら見事に功を奏したのだ。即視聴率につながったわけではなく、その効果を信じて地道に使っているうちに徐々に視聴率につながった。もちろん番組そのものを楽しくする努力との相乗効果だろう。

その努力が結果的に新しい視聴スタイルの番組として育ち、今回の受賞となった。ソーシャル活用には根気強い努力が必要だという好例だ。

『おやすみ日本 眠いいね!」は、このブログの2012年1月の記事「NHKがどんどんソーシャル化している件について」でとりあげている。数カ月おきに思い出したように放送されるゆるい番組で、終了時間が放送中に決まるという無茶苦茶さ。放送中にリモコンの青いボタンを押すと「眠いいね!」という声が出る。テレビからリモコンで声を出せるという、よく考えたら画期的な仕組みだが、番組のゆるさに紛れてその革命性に気づかないまま過ごしてしまう。ぼくは大好きなので、自分のイベントにプロデューサーの河瀬氏を呼んだこともある。

『トーキョーライブ24時』はこの春に一週間だけ放送された特番。深夜12時から日替わりでジャニーズのタレントが登場し、生放送で視聴者の悩みに答える。ぼくも何夜か観たが、生で何が起こるかわからないまま、なんというかもうハラハラしてしまった。意図的に段取りを決め込んでおらず、「じゃあ、次どうするの?」と聞きながら進行していく。そこにLINEを使ったのが受賞理由だが、それも含めて全体的にニコ生をテレビで放送しているようなソーシャル感に満ち溢れていた。

さてひとつ受賞番組を跳ばしていた。日経デジタルマーケティング賞に輝いた『王様のブランチ』の受賞について紹介したい。

この番組の受賞理由は、アプリ「TBSぶぶたす」の活用による。これはセカンドスクリーン用のアプリとして画期的なものだ。

『王様のブランチ』は19年続く、土曜午前の情報番組だ。谷原章介と本仮屋ユイカの司会で、週末のための様々なエンタテイメント情報が紹介される。

こういう情報番組を見ていると、紹介された事柄についてもっと知りたくなることがある。スマホを持っていると検索したりする人も多いだろう。でも番組を見ながらだとなかなか大変な作業だ。「ぶぶたす」はそれを解決してくれる。

放送中にアプリを立ち上げるとこんな画面になる。

Open Image Modal

番組の中に出てきた書籍や映画、お店などがタイムライン的に並ぶ。放送画面に出てきたらリアルタイムで各情報が出てくる。

それぞれをもっと詳しく知りたいなと思ったら、それぞれのバナーを押すと、詳細な情報ページに跳ぶのだ。

例えば映画コーナーの進行役であるLiLiCoが履いている靴が気になったら、そのバナーを押すと、その写真が出てくるのだ。もし欲しいと思ったらその商品のECサイトにもつながって、その場で購入できる。

Open Image Modal

同様の仕組みは広告にも応用でき、CM放送に連動させてアプリ上でバナーを出すことも可能だ。うまくいけば、テレビ局にとって広告収入がプラスになるかもしれない。

このアプリで重要なのは、その存在をきちんと告知していることだ。毎週、番組中に「ぶぶたす」の楽しみ方と入手方法を、きちんと時間をとって告知している。

番組のためのアプリをせっかくつくっても、放送で紹介しないと意味がない。スマホ用のゲームソフトは、テレビCMで告知される。それがいちばん効率的だからだ。そのためにゲーム会社は何億円も払ってCMの時間を買う。

テレビ局のアプリは、コストをかけずに告知できる。だからその番組で告知するのがいちばんだ。

ところがせっかくのアプリを番組で告知しないことが多い。制作スタッフと、アプリのスタッフの意志疎通が薄いからだ。何のためにそのアプリを世に出して、それが番組にとってどんな効用があるのか、ディスカッションできてないと、告知も薄くなる。

「ぶぶたす」はそこをしっかり意志疎通できているようだ。きちんと告知しているので、ダウンロード数は30万を超えたそうだ。それだけの数があると、放送に付随した様々な付加価値をもたらすかもしれない。

英国発のテレビサービスでzeeboxというものがあり、米国と豪州にも広がっている。最近その名称をBeamlyに変えた。そのBeamlyはこの「ぶぶたす」に非常に近いサービスで、ちがうのはソーシャル機能があるのと、特定の局ではなく全番組横断のサービスであることだ。

そしてこのBeamlyでは、CMに連動した広告サービスで付加的な収入を得ている。去年、BeamlyのCTOであるアンソニー・ローズ氏を、カンファレンスで日本に来てもらったのだが、その時にCM連動サービスについて聞いてみた。ひとつの番組で連動広告を出すといくらになるのかを聞いたら「3million dollars!」と言っていた。ざっと計算して3億円だ。それが月々なのか、放送ごとになのか、詳しく聞かなかったが、とにかく3億円。

だったら、同規模の収入になる可能性が「ぶぶたす」にもある、と言えるのか?それはともかく、Beamlyでよくわかったのは、テレビというマスレベルで人びとを集める装置は、大いなる可能性を持っているということだ。その可能性が、ネットの活用でふくらむ、はずなのだ。

ソーシャルテレビは、これまで「放送とネットの融合で何ができるだろう」を試してきた。これからは、その先にあるビジネスの可能性を本格的に探る時期だろう。それは、テレビというメディアが、テレビの枠を超えた存在価値を示せるかもしれない、ということなのだとぼくは考えている。

さて、この記事では久々に"ソーシャルテレビ"を題材にしたが、そもそもぼくはこのブログでメインに扱ってきたのがソーシャルテレビであり、その勉強会も二年続けてきた。

半年に一回くらいのペースでオープンなセミナーを開催してきたのだが、8月28日に久しぶりにやることにした。詳しい告知や応募方法などは近いうちにこのブログで発表するので、期待して待っててくださいね!

コピーライター/メディアコンサルタント

境 治

sakaiosamu62@gmail.com