格下と言われるチームが格上を下す。この痛快な組み合わせは「ジャイアントキリング」として、スポーツファンを熱狂させます。
現在、開催中のサッカー天皇杯は、トーナメント方式の一発勝負。このジャイアントキリングが起こりやすい大会として注目を集めています。
今年度でも、福島県代表として登場したいわきFC(県一部)が、今季J1を主戦場としているコンサドーレ札幌を延長の末、5-2に破りニュースとなりました。
2-2で延長戦に突入した試合でしたが、そこから3得点といわきFCがコンサドーレ札幌を圧倒。地域代表が勢いを見せる結果となりました。
続く3回戦で、主力組を先発させたJ1・清水エスパルスに0-2で敗戦し、大会から姿を消しましたが、その戦いぶりに称賛の声が集まりました。
また、注目すべきチームはいわきFCだけではありません。茨城県の代表として大会に参加している筑波大学も躍進中。
1回戦から登場した筑波大学は、神奈川県代表のY.S.C.C.横浜を下すと、今度は、2回戦でJ1のベガルタ仙台(J1)を撃破。
そして、進んだ3回戦ではJ2のアビスパ福岡に対して堂々とした戦いっぷりで2-1の勝利。見事、4回戦に進出したのです。
今年の天皇杯ポスターは、ETU吉田くん pic.twitter.com/eGrb4soxmM
— filippo_1973 (@filippo_1973) 2017年4月15日
今大会で使用されているポスターには、「これはお前達のジャイアントキリングの始まりだぜ」がコピーとして採用されています。人気サッカー漫画『GIANT KILLING』で登場した名ゼリフでもあります。
まさにそれと同じことが起こっている今回の筑波大学。どこまで躍進するのか、気になるところ。
9月20日の4回戦ではJ1の大宮アルディージャと対戦。優勝まで残り4試合。
さすがに、これら全てを勝ちきることとなれば、それこそ日本のサッカー界に驚きを与える大事件と言えるでしょう。カテゴリが下のチームが勝ち上がっていく姿に、私たちは狂喜乱舞します。
さて、そんなジャイアントキリングですが、時にありえないような展開を見せることがあります。それは2009年のフットサル全日本選手権でのこと。
同大会は天皇杯と同じような仕組みで各地域の代表チームとFリーグのチームが参加。4チームによるグループリーグの後に、準々決勝、準決勝、決勝の3試合が行われます。
ここでドラマを起こしたのが、関東代表のチーム・FUGA MEGURO(現・フウガドールすみだ)。
東京都立駒場高等学校サッカー部OBと暁星高校のメンバーが軸になってできたチームです。東京都の地域リーグから勝ち上がり、当時、関東リーグに所属。
Fリーガーのように主戦場をTOPリーグだけに制限させていなかったので、一般人が参加する大会に彼らもよく出場していました。
筆者も2002年と2007年に対戦したほど近い存在。全国選手権に挑む彼らは、地元の代表のようなチームです。
そんなFUGA MEGUROは、グループリーグを辛くも2位通過で突破すると、Fリーグの強豪チームの一つで、同大会でも優勝経験のあるバルドラール浦安戦を準々決勝で3-0で破ると、準決勝でもデウソン神戸を5-1で退けたのです。この両チームは当時、Fリーグで2位・3位のチーム。
続く決勝戦は、Fリーグの絶対王者である名古屋オーシャンズ。日本代表選手を多く抱える紛れもない優勝候補筆頭。
そんな相手に、先制点を奪われたFUGA MEGUROでしたが、すぐに同点に追いつくと、その勢いのまま4-1まで点差をつける。
その後、ゴレイロ(キーパー)をフィールド扱いにしたパワープレーで名古屋が猛追。あっという間に3点を奪い返し同点に。
盛り上がる会場に筆者もいたのですが、ジャイアントキリングを期待する空気は名古屋の選手に伝わるくらいのものでした。
気持ちを出して体を張って守備をするFUGA MEGUROの選手たちの一つひとつのプレーに歓声が上がります。
そして、荒牧(現・バルドラール浦安)がフリーキックで再びリードを奪うことに成功。最後はカウンターアタックから残り数秒で金川が決め、6-4でこのゲームを制したのです。
地域の代表チームが、Fリーグの1、2、3位のチームを破って優勝。ありえない展開を目の当たりにして、筆者も興奮を抑えることができませんでした。
比較するのは難しいのですが、現在Jリーグの鹿島アントラーズ、川崎フロンターレ、柏レイソルといった上位チームを筑波大学が破って天皇杯を優勝するようなもの。
スポーツの世界でのジャイアントキリングは、こういったドラマチックな展開があり得るのです。
当時、FUGA MEGUROの一員としてピッチに立ち、このジャイアントキリングに大きく貢献した星翔太が語ってくれました。
そんな彼は、「本人たちは、ジャイアントキリングをやっている意識はなかった」と語ります。
目の前の試合に対して、フィジカル面・メンタル面で十分な準備をする。そして、自分たちの力を試合で存分に発揮する。
当たり前のことではありますが、この当たり前がなかなか難しいのがスポーツの世界。
"ジャイアントキリングの当事者"であるという自意識が少しでもあると、ゲームの中にスキができます。
自分が担当する相手選手のマークを30cm離してしまったり、シュートブロックに5cm足が届かなかったり、パスのだし先を探す味方選手の選択肢を増やすような動きができなかったり......
直接ゴールに関係しなくても、その積み重ねが敗戦に繋がります。
「筑波大学の選手たちも自分たちがジャイアントキリングをしているという気持ちはないのでは」とは星の言葉。
星は、あのジャイアントキリングを起こした翌年にFリーグのバルドラール浦安に移籍。現在も同チームに所属し、過去にはスペインリーグにも所属、日本代表選手としても活躍中です。
また、現役選手の今、株式会社アスラボを立ち上げ、代表取締役を務めています。プロアスリートらが、自らの手で「デュアルキャリア」を考え、いまでにない"新たなスポーツビジネス"を創り出すための支援を行うのです。
あのジャイアントキリングをきっかけに、活躍の場を移し、現在は会社を動かすまでになりました。同様に筑波大学の学生たちの未来も明るい。
決して、ジャイアントキリングに酔わないこと。そうすれば、ドラマチックな展開が待っているはず。
試合は9月20日のカシマスタジアムで19時キックオフ。相手はJ2降格圏内と調子が上がっていない大宮アルディージャです。