大雪による「塩カル」不足で各地の自治体が悲鳴 原因は「ガラス」との見方も

2月14日から関東広域で降りはじめた雪は、記録的な積雪となった。前週に続いて週末が連続して雪になったことで、悲鳴を上げる自治体が増えているという。雪を溶かすために必要な「塩カル」と呼ばれる「融雪剤」が、手に入りにくくなっているためだ。
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国土交通省近畿地方整備局

2月14日から関東広域で降りはじめた雪は、記録的な積雪となった。前週に続いて週末が連続して雪になったことで、悲鳴を上げる自治体が増えているという。雪を溶かすために必要な、「塩カル」と呼ばれる「融雪剤」が手に入りにくくなっているためだ。この背景には何があるのか。

■「融雪剤」不足で悲鳴を上げる自治体

道路などの雪を溶かすために散布する「融雪剤」は、成分が塩化カルシウムなどでできているため「塩カル」とも呼ばれている。雪が降る地域の自治体であれば、融雪剤は必須アイテムであり、当然のように備蓄している。

しかし、大雪がめったに降らない自治体は備蓄が弱い。突然の大雪によって、融雪剤の量が足りなくなることもある。国道・都道・町道など、道路の所有者によって融雪剤の散布を担当する自治体も、県であったり市区町村であったりと異なり、それぞれの備蓄計画にも差がある。FNNニュースは東京・渋谷区の状況を次のように報じている。

先週の大雪の影響で、雪を溶かす融雪剤が不足しているという。凍結防止剤も在庫は少なく、ようやく届いた融雪剤をどう効果的に使うかが話し合われていた。渋谷区土木清掃部の齊藤和夫道路課長は「まず大切なのは通学路。特に危険なのが歩道橋。こちらに優先的に、除雪・凍結防止を施したい」と語った。

(FNNニュース「大雪警戒 関東地方は...」より 2014/02/13 18:35)

なお、先週の大雪で融雪剤を使い切り、急遽追加で発注した自治体も出ている。しかし、注文してもすぐには届かず、1週間待ちという自治体もある。

■「融雪剤」が不足する理由は?

注文してから1週間待ちでは間に合わない。このような状況は起こるのは、国内メーカーが少ないことや、融雪剤の作られ方が特殊であることが指摘されている。除雪剤はガラスなどを作る際にできる副産物であり、主産物のガラスの需用が低迷していることが、除雪剤の供給を増やせない状態を引き起こしているという。

雪を溶かす融雪剤が不足している。その理由について、国内に2社しかないメーカーの1社、東京・千代田区のトクヤマの有吉毅彦化成品部長は、「塩化カルシウム(融雪剤)は、ソーダ灰と申しまして、基礎的なアルカリの原料でございますが、これと併産されるものでありまして、雪が多いからといって、急に増産をかけたりですね、そういうことができない製品でございますので」と話した。

 

ガラスや粉末洗剤の原料となるソーダ灰。それを作るときにできる副産物が、融雪剤となる塩化カルシウム。しかし、ガラスや粉末洗剤の需要が低迷しているため、塩化カルシウムだけ増産することができないという。

 

(FNNニュース「西日本から東日本の広...」より 2014/02/13 18:35)

融雪剤を作るときの主産物となる「ソーダ灰」は、国内需要が大幅に縮小し、回復が見込めない状況となっている。そのため国内にある2社も事業提携することが決まり、2015年6月からは生産を1社に集中させることが決まっている。

■輸入品でクレームを付ける自治体も

国内の製品が不足したことや、海外製品が安いこともあり、融雪剤の輸入も行われている。しかし、輸入品では十分な効果が得られずクレームが付いたり、輸出国内での流通事情もあって、輸入が間に合わない状態もあったという。

輸入品を巡るトラブルも発生している。今冬、寒冷地の自治体に納入した中国品でクレームが出て、該当自治体で再入札を行うケースが散見される。しかし、絶対的な物不足のなか、応札できる業者はいないようだ。クレームが発生したのは塩カルの形状が原因。通常、融雪剤用途には球状タイプが用いられるが、問題となった案件では若干割安なグラニュータイプが納入された。グラニュータイプは防塵用途などには十分使用できるが、融雪関連では散布機を詰まらせることがあるため散布業者からクレームが出た。

 

凍結防止用の工業塩も不足している。中国の乾燥塩を同用途に展開している企業によると、「在庫はほぼない状況。新たに中国から入れるしても、山東省の主要輸出港が混み合って、もうシーズンには間に合わない」という。

(化学工業日報「塩カル 極度の品不足 融雪剤需要に間に合わず」より 2013/02/08)

さらに、日本だけでなく世界各地で発生する大雪も、品不足に拍車をかけている。大寒波に襲われたアメリカでも融雪剤が不足し価格が上昇。通常の4倍近くまで上昇する可能性もあるという。

国内のアベノミクスで円安になったことも、日本にとってはコスト高となる。国内の製品と値段に差がなくなったことや、需要が大きくなっていることもあり、国内製品の価格も上昇した

■「融雪剤」の代替え品はないのか

「融雪剤」の代わりになるものはないのか。参考になるのがカナダのトロントが行っている、赤い蕪のテーブルビートが原材料の「ビーツジュース」を使った取り組みだ。

トロントでは雪による凍結を防ぐため、融雪剤と似た役割の凍結防止剤を道路に散布している。凍結防止剤を散布した上から、今度はビーツジュースをスプレーすることで、道路の凍結温度を下げる効果があるのだという。

凍結防止剤も融雪剤と同様の材料であるため、融雪剤同様、世界各地で不足・価格高騰が起こっている。ビーツジュースを使うことで入手しにくい凍結防止剤の量を少なくすることができる。

また、ビーツジュースを利用することで、新たな問題を防ぐことにもなる。融雪剤や凍結防止剤に含まれる塩分は、環境を破壊するだけでなく、道路や自動車にとっても問題となっているのだ。

例えば2013年11月に起きた、高速バスが中央分離帯を超えて対向車線に出るという事故の原因は、車軸の一部が錆びて破損したことで生じたものだ。このバスは豪雪地帯を走る事が多かったため、破損は融雪剤によって劣化した可能性もあるという。

また、中国では融雪剤によって植物が枯れたりコンクリート建物が錆びたりする「塩害」が深刻化。海外向けには植物由来の非塩素融雪剤の輸出を始めた企業もある。

ビーツジュースの利用はこうした塩害への対策に効果がある。また、ビーツでなくてもビール醸造の廃液などにも、同様の効果があるとされる。

融雪剤や道路凍結防止剤の不足も問題だが、使いすぎると環境破壊や自動車の劣化に繋がる。コストの増加も避けたい。これをどのように解決するのか。気象庁によると、大雪は今後も続く恐れがあるという。雪をめぐる防災対策は、自治体の新たな課題でもある。