SMAPのジャニーズ脱退とそれに伴うSMAP解散の騒動を見て、身につまされる思いをしている方も多いのではないでしょうか。
SMAPほどの「国民的アイドル」になっても、生殺与奪は事務所が握っていることが明らかになりました。
いや、これは最近人気が落ちて落ち目のSMAPの人気を挽回するための、筋書きがある出来レース、炎上マーケティングだ、という声もあります。
いずれにせよ、夢を与えるはずの芸能界が、閉鎖的で外部からの参入障壁の高い、保守的な世界であることを改めて見せつけられた気がします。
どんな職業、組織にも派閥争いや人間関係のトラブルはつきものです。
トラブルがあって、組織を移りたいと思った時に、逃げ場がないのはキツイですね。
「夢のある職業」とは主観的なことなので一般化はできませんが、そんな閉鎖的な世界に、自分の子供を行かせたいと思う親が居るのでしょうか。
ちなみに私がSMAPを知っているのはロングバケーション(1996年)くらいまで。
そんな芸能界に疎い私までもが関心を持ってしまうのは、「国民的アイドル」でさえも組織の呪縛から逃げられないことが明らかになったから。
なんだSMAPも自分と同じじゃないか、という共感。
もし、この騒動が意識的に狙って行われているとすると、ターゲットはまさに、「組織の中で苦しむサラリーマン」「私のようにかつてSMAPを見ていたけど、最近はテレビも見なくなったおじさん・おばさん」ではないでしょうか。炎上マーケティングならば、既に大成功です。私も久しぶりに、「オリジナル・スマイル」とか聞いてしまいました。
広く職業を考えると、ITの進化で多くの分野で既得権が崩されています。
しかし芸能界は参入障壁が高く、昔ながらの仕組みが残っているということなのでしょう。
電機メーカーやITとのアナロジーで考えると、SMAPがジャニーズを脱退して干されてから、NetflixやAmazonが製作したドラマに抜擢される。
世界デビューして大成功、などという逆転劇があると面白いのですが。
その結果、芸能界が開放的に変わるとか。そうなりそうにないのが日本の芸能界という特殊で難しい世界です。
さて、エンジニアも個人の手に職があるプロの職業です。
芸能人ほどではないですが、自分の名前で仕事ができます。
かつてはエンジニアの世界も転職は厳禁でした(ソニーなど一部の企業は除き)。
真偽は不明ですが、電機連合に属する電機メーカーでは企業間で人事部がグルになって、転職できないようにしていた、という噂さえありました。
それが電機メーカーの経営状態が苦しくなり、終身雇用が崩れていくにつれ、また海外企業が日本人のエンジニアを積極的に採用するにつれ、いつしか「転職厳禁」といった暗黙の掟も無くなりました。
アップルが横浜に研究所を作るのは、明らかに日本企業から優秀なエンジニアを引き抜くためでしょう。
それを日本の首相がアピールするとは、時代が随分変わったものです。
何を「夢のある職業」と感じるかは人それぞれですが、エンジニアの世界でも少しずつですが、個人の意思で仕事を選べるようになってきたのは良いことです。
そのような日本企業を脱藩し、外資系企業に移ったエンジニアたちの素晴らしい成果が1/31から2/4にサンフランシスコで開催されるISSCC(International Solid-State Circuits Conference)で発表されます。
私が東芝でフラッシュメモリを開発していた時の先輩、同僚、部下がたくさん著者として名を連ねている、米国マイクロン・テクノロジーによる世界最大容量 768ギガビット 3次元NANDフラッシュメモリの発表「A 768Gb 3b/cell 3D-Floating-Gate NAND Flash Memory」です。
筆頭著者の田中さんは東芝のフラッシュメモリ立ち上げの立役者でもあり、上司として私を指導して下さった恩師のような存在です。
彼らは10年くらい前に東芝を辞め、マイクロンに移りました。
古巣である東芝からの訴訟リスクも気にしたのでしょうか。
今まで彼らはISSCCなどのトップ学会での論文発表は避けていたような印象でした。
ところが、10年以上たって、ほとぼりが冷めてきたので(?)表舞台に出てきたというところでしょうか。
外資系企業の厳しい競争の中で、よくぞ10年以上も研究開発の第一線で生き残ってきた、さすがだな、と思いました。
偶然でしょうが、古巣の東芝が会計問題で経営危機に陥ったまさにこの時に、表舞台に復帰とは。
彼らが東芝を辞めてマイクロンに移った時、私もまだ東芝に在籍していました。
私がリーダーをつとめる開発チームでも、キーメンバーを引き抜かれもしました。
かつての仲間とは言えども、ライバル企業に部下を引き抜かれると、さすがに私だって頭にもきます。
ジャニーズ事務所のように、ではないですが、心穏やかではなかったのは事実です。
ただ、大きな視点で考えると、こうして日本人エンジニアが日本企業だけに留まらず、世界中で活躍することは、若い世代にとっては夢があることでしょう。
色々あるけれど、これで良かったのだと思います。
恩讐の彼方に未来があるのですから。
芸能界もそうなるといいですね。
(2016年1月18日 竹内研究室の日記「SMAP解散騒動に見る、夢のある職業とは」より転載)