=====SLBM成功しても北朝鮮が得られるものはない
北朝鮮は、核兵器さえ手にすれば強い国になれ、米国・中国・日本・韓国などの周辺国が自分たちの要求を素直に聞いてくれると考えているようだ。残念ながら、国際社会は今回のミサイル発射にも団結して国連安保理糾弾声明を発表した。
北朝鮮への制裁に多少ぬるま湯的だった中国も、いつも北朝鮮の味方に立つわけではないことを今回の声明で見せてくれた。中国が北朝鮮を贔屓するのは、北朝鮮を支持するからじゃなく、北朝鮮核問題を自国の利益に戦略的に利用するためであり、中国の外交的状況によっていつでも北朝鮮を圧迫しうる。
米国・日本・韓国も軍事同盟を基にしっかりとした防御システムを動かせ、北朝鮮の核ミサイルを無力化するだろう。世界は、北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止するために弛まず制裁を強めていき、もし北朝鮮の核とミサイル水準が一定レベルになるとしても、断固たる態度て対抗し、彼らの要求に屈服しないはずだ。
結論を言えば、北朝鮮が得るものはない。むしろ、ミサイル開発に尋常ではない財源を蕩尽してマイナスになるだけである。
=====核より団子
韓国に「スズメが鶴を追いかけると股が裂ける」ということわざがある。自分のレベルを知らずに人の真似をすると酷い目にあうという意味である。最近の金正恩の言動を見るとこのことわざを思い出してしまう。
北朝鮮の経済力と言えば、現在「経済」という言葉がふさわしくないほど疲弊している。
【『エコノミスト』韓国語版1319号(2016年1月25日)の資料を日本語訳】
上の図が表しているように、韓国の国民総生産額(2016年1月現在)は157兆円で、日本は480兆円であるが、北朝鮮はわずか3兆5千億円に過ぎない。1人当り国民所得を見ても、韓国の2万6817ドル、日本の4万68ドルに比べ、北朝鮮は1200ドルで何十分の一程度である。
また、韓国銀行(中央銀行)が今年7月に発表した推計値によれば、北朝鮮の2015年の実質GDP成長率はマイナス1.1%だった。金正恩が政権トップになって以来、北朝鮮の経済は弱い成長基調にあったが、2015年には干ばつなどの影響でマイナスに転じたそうだ。ただでさえ弱い経済力がさらに鈍化している中、核とミサイルに夢中になっていいかという質問はごく自然である。(関連記事「北朝鮮、昨年GDP1.1%減 韓国中銀推計 1人当たり所得13万円」)
面白いことに(いや、腹立つことに)北朝鮮は経済力に比べて最も高い割合で軍事費を使っているところである。米国防省は、2015年12月31日に「2015年世界軍備支出武器移転報告書」を発表し、2002年から2011年までの11年間、北朝鮮が年平均で国内総生産(GDP)の23.8%を軍事費に費やして世界1位であることを明らかにした。世界どこにも国民が働いで得た所得の5分の一を軍事費に投じる国は、北朝鮮以外にない。世界一の軍事力を誇るアメリカも軍事費はGDPの4.3%で、中国は2.1%、韓国も2.5%である。(関連記事「北朝鮮の軍事費はGDP比で世界一」)
経済規模が韓国の50分の一しかない国(「国」と表現したくないが)が、ものすごい格差にもかかわらず、しかも住民の多くが絶対的な飢餓状態に直面しているにもかかわらず、ミサイルを種類別に開発して試験発射し、核実験に熱心だとは、正常な国とは見られない。1人当り国民所得がわずか1200ドルの北朝鮮で、金正恩が自らの劣等感と虚栄心に押されて、経済規模世界一・国民所得5万ドル以上のアメリカと「肩を並べてみせる」と日々軍事ごっこをしているように見えるのは、私だけか。
北朝鮮機関紙「労働新聞」は28日、「今回の試験発射の大成功で我々の海軍の水中作戦能力が非常に強化した」「この上なく強い軍事力を百倍千倍固めた我が祖国の神聖な領海、領土、領空を狙う仇がいれば、誰でも無慈悲な火の雷を避けられない」と脅した。百歩譲ってこれが事実だとしよう。それで、北朝鮮の住民の暮らしは良くなるのか。
実際には住民の70%が栄養失調で、人間の生命維持に欠かせない水と食糧もなく、基礎的な薬品や靴、衣服、石鹸、歯磨き粉のような生活必需品も作れず真冬にも素足の子供がいて数千人が伝染病にかかって虚しく死んでいく状況で、存在もしない「仇」から領海と領土、領空を守ると大声を立てたって意味があるだろうか。とても強くて輝く鎧だってそれを着ている人がご飯をろくに食べていなくてふらつく状態なら全く無駄ではないか。このような数々の問いに対して、最近相次ぐ北朝鮮エリートの脱北ラッシュが答えを語っていると思える。
=====周辺国の安全にいかなるネガティブな影響を与えず??
北朝鮮の「朝鮮中央通信」は26日、外務省談話を通じて「周辺国の安全にいかなるネガティブな影響を与えずに成功を遂げた戦略潜水艦弾道弾水中試験発射は、主体朝鮮の強い国力の示威」だと主張した。
これは、明らかに強弁である。弾道ミサイル試験発射が与える被害と言えば、脅威と緊張感を高めることは言うまでもなく、繰り返される北朝鮮の挑発に備えるために周辺国は必要以上の軍事費を使わなければならない。また、次から次へとミサイルを飛ばして全世界につながっている海に軍事廃棄物を増やしている。核実験のことまで考えると、実験で発生する放射性物質は土壌と空気、海を汚染させて結局周辺国にまで被害をもたらすに違いない。
現在、北朝鮮の豊渓里(プンゲリ)核実験場周辺の住民たちは、すでに頭痛、呼吸困難、体重減少などの健康異常症状を示しており、核実験の健康への悪影響について何も知らない住民の間には「鬼病」(=神憑り)が流行っていると噂されているらしい。(関連記事「5回目の核実験?核実験場周辺の健康異常を無視してはいけない」)
=====SLBMの自賛?「ならず者国家」になるだけ
金正恩の核兵器への執着は、結論として金正恩の手には何も得られず、周辺国と北朝鮮住民に被害だけをもたらして国際社会での北朝鮮の孤立を深めるだけである。
それでも引き続き核にしがみついて世界の頭を抱えさせる「ならず者国家」になるか、核とはさようならして住民の健康と幸せを重視し国際社会の責任ある一員として隣国と対話・協力する「普通国家」になるか、冷静に考えれば答えはとても簡単である。
イ・エラン 韓国・自由統一文化院 院長、1997年脱北