シンガポールの大学生の就職人気企業100社のデータがあります。ドイツ本社のtrendence社による調査で、5400人の大学生が対象。
本社所在地で分けてみました。ランク入りしているアジア系は3社のみ。マレーシアの2社と、ご存知韓国のサムスン。日系企業は一社も入っていません。シンガポールは親日国なのにこの惨状です。
■ 日本はシンガポール第二位の投資国
外資の海外での雇用は投資金額と関連性を持つと考えて良いでしょう。シンガポールに最大の直接投資(FDI)をしているのは米国で31社、投資額が三位の英国でも11社もランクインしています。第二位は我らが日本ですが選外です。
■ シンガポールの大学生の1/3は日系企業を無条件で就職先から除外
日系企業不人気を示すデータは他にもあります。
「シンガポール系、外資系で働きたいですか?」との質問に、シンガポール系と米系企業に86%、日系企業に68%が働きたいと回答。これを「三人に二人が日系企業志望とは善戦しているな」と読むのは間違いでしょう。理由は総和が100%超えることから分かるように複数回答可であり、実質は「働いてもいい企業」「就職活動にあたって選択肢から除外しない企業」と読むのが適切でしょう。つまり、差し引き32%は無条件で日系企業を就職希望先から除外しているのです。
■ なぜ日系企業は就職先として避けられるのか
日系企業が就職先として人気がない理由を三つあげます。
1. 給料が欧米系・地元大企業と比べて安いこと
日系企業が雇用先として人気があるのは、その国が発展途上国で工場として進出する際です。
問題は求人がブルーカラーからホワイトカラーに比重が移る先進国での場合です。つまり今回のような大学生就職人気企業ランキングに直結する場合です。
他の先進国と比べた際に日本のホワイトカラーの特徴は労働生産性の低さです。
しかもこの値は、日本所在の企業です。日本ではOJTやすり合わせやサビ残といったハイコンテクスト環境で、仕事を習熟しアウトプットを作っていきます。日本の外に出ると、言語に苦労する駐在員が、現地社員に仕事を教え、権限移譲するのは困難です。
労働生産性の低い職場が競争力のある給料を出せるわけがありません。これが給与水準が低い答えです。
シンガポール特有の事情もあります。シンガポール日本商工会議所が登録団体に賃金調査を行っています。これを給与水準として参考にする日系企業があり、日系企業間でしか通じない市場競争力を欠いた給与水準になりがちです。
2. 無意味な長時間労働を強いられること
日本人の長時間労働は有名です。韓国企業よりかはマシに思われている程度です。しかも、付き合い残業のような「チームで仕事が終わっていないと全員が帰られない」という日本人以外には理解不能な"チームプレー"を海外でも強いる日系企業があることが、悪評に輪をかけます。これは各個人の業務対象が明確で無いことからきています。
3. 独特な企業文化への同質圧力があること、日本語を強く求められること
例えば朝礼は日本の小学校以来の特異文化によるアプローチであって、他国では通じません。工場勤務ではないホワイトカラーにも朝に強制的に集合させると、アウトプット評価でなくプロセスでのマイクロマネージメントをやってると思われるのがオチです。同様に会社のイベントを土日にやるのも理解されません。強制なら業務時間帯にやるべきですし、業務時間外なら自由参加でやってくれ、と思われています。
加えて、出世するのに日本語が強く求められます。日本語は日系企業でしか評価されない特殊スキルのため、そこまでして日本語を学習する意欲は大半の従業員にはありません。日本語学習意欲が高いのは、アニメ・漫画など日本文化に興味がある人間のため、ビジネスと重複しないのもまた残念なところです。
■ 日系企業の対策: 駐在員比率を高めた
日系企業の各国の経営は、日本から選抜された駐在員が送り込まれることで、現場に優秀なホワイトカラー現地人がいなくても業務がまわるトップダウン組織を志向します。欧米系企業より、駐在員比率も人数も現地採用日本人も多い組織になっています。しかも組織構造としては駐在員主導のトップダウンなのに、日本本社にお伺いを立てないと意思決定できない企業が多く、混乱が拡大します。
各国の経営層や管理職を日本人が占めることで、現地の優秀層はキャリアパスがないとみなし、ますます日系企業を避けます。悪循環です。
参考記事: 海外現地採用者は日本本社駐在員の下僕なのか?
■ 日系企業への処方箋
日系企業は負のスパイラルに陥ってることが分かります。対策は下記が考えられます。
1. 労働生産性を高め、給料を上げる。
2. 労働時間でのプロセスへの評価でなくアウトプットでの評価に移行する
3. 特異文化を排除する、そのためにも現地人に権限移譲する
1.2.3.の全てが密接に絡み合っています。複雑な問題のため、駐在員に依存して対応してきましたが、それでは地元で憧れとなる企業にならないことが今回のランキングから分かります。