東京オリンピックで複数の体操競技の出場を辞退したアメリカのシモーン・バイルス選手が、8月3日に行われた平均台の決勝に出場し、銅メダルに輝いた。
これまで多くの金メダルを手にしてきたバイルス選手だったが、この銅メダルは他のどのメダルよりも大きな意味を持つものになったという。
試合後に「競技に参加したことを誇りに思います」「このメダルはこれまでのどのメダルよりも素晴らしい。他のメダルより大切にします」と語った。
試合直前で起きた、予想外の事態
バイルス選手は「今日はメダルを期待していませんでした。ただ自分のために出場したかった」「このメダルを、私を助けてくれたアメリカチームに捧げたい、私にとって何よりも大切なものだった」と、チームへの感謝も口にした。
「史上最高のアスリート」とも呼ばれ、注目され続けてきたバイルス選手。2016年のリオ大会で金メダル4つと銅メダル1つを獲得し、東京大会でも多くのメダルが期待されていた。
しかしバイルス選手は、7月27日に開かれた体操女子団体決勝で、跳馬の後に途中棄権し、さらにその後予定されていた個人総合、跳馬、段違い平行棒、ゆかなど個人種目の出場を辞退した。
団体決勝で棄権した後、バイルス選手は「自分の体と心を守るためだった」と、メンタルヘルスを優先した決断だったと説明した。
バイルス選手は試合前に、Instagramでオリンピックで重圧を感じているとつづっており、期待や重圧が一因ではないかと見られている。
さらに出場を辞退した後の7月30日には、Instagramストーリーで「ツイスティ」という症状を発症したと明かした。
AP通信によると、ツイスティとは、体操選手が特定の体操の動きをする時に、思っているように体を動かせなくなる精神的状態だ。
ツイスティは団体決勝前日の7月26日まで起きなかったという。
バイルス選手は練習中に失敗する動画を投稿して「正直、どうしていいかわからない」「頭で考えていることと、体が一致しない」とコメントした。
金メダルより大切なもの
思うように体が動かせない中で競技すれば、怪我をする危険も伴う。出場辞退はバイルス選手にとって正しい決断だったと言えるだろう。
またAP通信によると、平均台の競技はコーチと相談して内容をシンプルにした上で臨んだという。
それでも、オリンピックを目指してきたバイルス選手にとって、出場辞退は苦渋の決断だったという。
バイルス選手はNBCの番組で「簡単な決定ではありませんでした。周りの人から『彼女は途中で放り出した』と言われるのは傷つきます。私は5年間このために練習を続けてきたのですから」と述べた。
それでも、「私たちは、単なるアスリートやエンターテインメントではありません。人間でもあるんです。私たちには感情もあります。試合に出るときには、競技以外の人生で色々起きているということに気付いてもらえない時もある」と述べ、心と体を優先することの大切さを強調した。
金より価値のある銅メダルを手にして、オリンピックを終えたバイルス選手。バイルス選手本人だけでなく、多くの人にとって忘れられない大会となった。