2014年10月、極東ロシアの沿海地方でシベリアトラの違法取引が発覚。犯人が逮捕されました。この違法取引で押収されたトラの骨などの量は、ここ数年で最大の規模であり、シベリアトラの個体数回復に大きな損失をもたらしたものであることが明らかになりました。ロシアでは2013年には希少な野生生物の違法取引に対する厳罰化が決定されており、今回の違法取引に対してもその適用が期待されます。
明らかになった大規模な違法取引
極東ロシアの森に生息するトラ亜種シベリアトラ(アムールトラ)は、その個体数が500頭前後と推定されており、絶滅の危機に瀕しています。
減少の主因の1つが後を絶たない密猟。そして、それを助長する違法な取引です。
こうした問題を根絶するため、WWFロシア・アムール支部では、ロシア政府の捜査当局より求められる協力要請に基づき、密猟防止のためのパトロールの支援や、押収物の鑑定を行なっています。
2014年の終わりにも、そうした協力の要請がありました。 ロシア内務省の特別機関が、トラの身体の一部を違法に取引した罪で容疑者を拘束。所持していた骨などの鑑定が依頼されたのです。
ロシア内務省沿海地方局の記者発表資料によると、2014年10月、沿海地方ミハイロフスキー地域で、警察がハバロフスクとウラジオストクを結ぶ高速道路上に停車していたミニバンを強制捜査した際、車内で一頭の動物の死骸を見つけました。
さらに、形も大きさも異なる動物の骨が入ったバッグ3点を発見。すべて押収し、WWFロシア・アムール支部とアムールトラセンターに送りました。
そして、専門家らによる鑑定の結果、大量の骨はシベリアトラのものであることが分かりました。
また、今回発見されたトラの骨の量は、ここ数年の間に沿海地方で押収された中でも、最大の規模であることが判明。同時に、大掛かりな密猟が今も続いていることを裏付ける結果となりました。
WWFロシアのアムール支部で生物多様性保全プログラムのコーディネーターを務めるパベル・フォメンコは、「この密猟がもたらした結果は、ロシアの野生保護にとって取り返しのつかない損失である」というコメントを発表しています。
違法取引の根絶に向けて
こうした密猟を根絶するため、WWFは捜査への協力だけでなく、ロシア連邦政府に対し、密猟や違法取引といった野生生物をめぐる犯罪の厳罰化を求めてきました。
ロシアだけにとどまらず、こうした法規制の強化と厳罰の適用は、違法取引を抑える上で、最も有効な手立ての一つです。
その結果、ロシア政府は2013年、密猟と希少な野生生物の違法取引に対する厳罰化を決定。ロシア連邦刑法典に258条の1が加えられました。
この条項により、ロシア連邦の法律および加盟する国際協定(ワシントン条約など)で保護されている価値の高い野生動物や海洋生物資源の狩猟規制が強化されただけでなく、その一部を購入・保管・輸送・移動・売却することも禁じられ、違反者には7年以下の懲役と200万ルーブル(約400万円)以下の罰金が科されることになったのです。
そして、258条の1が施行されてから1年後の2014年8月、ウラジオストクでアムールヒョウの毛皮を所有・売買した犯罪行為に対し、最初の有罪判決が出されました。
今回のトラの不法取引に関する捜査でも同様の厳しい判決が待たれます。
パベル・フォメンコは、密猟の根絶に向けて、次のように述べています。
「(個体数の少ない)シベリアトラとアムールヒョウの死は、ひとつひとつ捜査し原因を探る必要があります。そして、罰を逃れることはできないという事例を積み上げていく他に、密猟から希少な野生動物を守る方法はありません」
違法取引と並ぶもう一つの脅威
シベリアトラが絶滅の危機に瀕している要因は、密猟の他にも、森林伐採による生息地の破壊があります。
そして、極東ロシアの森林伐採には日本も消費国として深く関わっています。
極東ロシアでは、違法伐採や過剰な商業伐採が今も続いており、こうして伐採された木材は建材等として日本に直接輸出されるか、あるいはいったん中国に輸出された後、家具等に加工されて日本へと輸出されています。
こうした持続可能でない方法で生産された木材を買わないために、日本の消費者にもできることがあります。
たとえば、FSC認証の森林認証制度は、持続可能な方法で生産された木材の認証とラベルの付与を行なっており、こうした認証ラベルが付いた木材を選ぶことがシベリアトラのすむ森を守ることにつながります。
WWFでは、極東ロシアにおける生物資源の保護と違法取引の抑制に取り組むと共に、日本国内において企業や消費者に対し、木材の持続可能な調達・購買を働きかけていきます。
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