2015年2月に極東ロシアで、シベリアトラの個体数調査が実施されます。この調査は、10年に1度、シベリアトラの生息域全域にわたって実施され、約2,000人の調査員が雪原上に残された足跡を数えます。前回の調査では、約500頭のシベリアトラが生息していることが確認されましたが、今回の調査ではその数がどう変化するか注目されます。
2005年の前回調査
極東ロシアの森に生息するシベリアトラ(アムールトラ)は、世界に分布するトラの亜種の中で最も北方に生息しており、その個体数は、推定で500頭前後。生息地の森林破壊や密猟により、絶滅の危機に瀕しています。
ロシア連邦政府は、このシベリアトラの保護に取り組んでおり、生息域全域にわたる大規模な個体数調査を10年に1度実施してきました。
1995年から96年の冬にかけて実施された調査で、確認されたトラの頭数は400~500頭。1991年のソビエト連邦崩壊後、社会的な混乱につけこみ、密猟が急増していたにもかかわらず、これだけのトラが生き延びていることが明らかになりました。
さらに10年後、2005年の調査結果からは、沿海地方とハバロフスク地方南部に423~502頭のシベリアトラが生息しているという結果が得られ、10年間にわたる保護活動が、何とかトラの減少をくいとめてきた成果が示されました。
これは地球上のトラの個体数の15%に相当する数字です。
こうした調査結果は現在も、保護政策の基礎データとして活用されると共に、密猟の防止から森林保全にまで至る、さまざまな活動の成果を測る指標としても用いられています。
いよいよ開始される10年ぶりの調査
そして、2015年2月には、10年ぶりの個体数調査が実施されます。
前回2005年の調査では、計画から資金調達に至るまで、WWFをはじめとする環境NGOが主体的な役割を果たしましたが、今回の中心はロシア連邦の天然資源省。
つまり、政府組織が調査の全責任を担い、WWFロシアとアムールトラセンター、ロシア科学アカデミーがサポートを行なう形で実施されます。
調査地域には、極東ロシアの沿海地方とハバロフスク地方に加えて、今回初めて、アムール州とユダヤ自治州が初めて含まれることになりました。
前回の調査では生息が確認されていなかったこの2つの州でも、近年はシベリアトラの姿が見られるようになってきたためです。
その結果、これら2州のレンジャーや生物学者たちが、シベリアトラの個体数調査に初めて参加することになったのです。
2015年2月1~15日に一斉に行なわれる個体数調査に参加するのは、連邦政府や地方政府の保護区当局者、政府監督機関の代表者、生物学者、経験豊富なハンターなど約2,000人の調査員。
彼らは、トラの生息域およそ15万平方キロメートル内に設置された、約1,500カ所の調査地点に散らばり、そのエリア内に残されたトラの足跡を測定し、カウントします。
こうして得られた調査データは、自動撮影カメラの調査やDNA解析によって補完され、より確度の高い推定個体数となって、専門家がシベリアトラの個体数の推移を把握したり、保護に必要な対策を立てるのに役立てられます。
1994年から、極東ロシアでシベリアトラの保護に取り組んできたWWFにとっても、重要な活動の一つとなることは間違いありません。
今後の調査結果の活用
ロシア連邦天然資源開発監督局(Rosprirodnadzor)の副局長で、今回の調査の準備・実施作業部会の会長を務めるアミルハン・アミルハノフ氏は、この調査の意義について、次のように述べています。
「個体数の現状評価には、単に500頭といった定量的指標だけでなく、トラの食物となる草食動物や生息地の状態といった情報も含まれます。
保護活動を実施するには、トラが棲み続けてきた森林の現状を把握し、過去10年間で人の手により森がどのように変化したかを理解することが必要なのです。
これは容易な仕事ではありませんが、この調査結果は、今後の森林管理や狩猟管理、地域のインフラ開発に影響を与えるものとなるはずです」
この10年間でトラの棲む森が劣化・減少したことは、日本とも決して無関係ではありません。
極東ロシアの森において持続可能でない方法で伐採された木材は、直接建材として、また中国で家具として加工されて、日本に輸出されている可能性があるためです。
日本の消費者が、FSC認証材といった持続可能な方法で生産された木材を選び、購入することが、トラの棲む森を守ることにつながります。
WWFはこれからも、トラが生息する現地の自然保護を支援するとともに、日本の企業や消費者に対して、持続可能な方法で生産された木材の調達・購入を働きかけていきます。
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