谷川俊太郎さん「若い頃は詩を書くのが好きじゃなかった」

詩人の谷川俊太郎さんが「あさイチ」に出演し、これまでの生活や、詩に対する思いなどを語った。
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詩人の谷川俊太郎さん(83)が6月19日、NHK総合で放送された「あさイチ」に出演し、これまでの生活や、詩に対する思いなどを語った。谷川さんは、「妻子を養うために書いていたころは、詩を書くのがおもしろくなかった」などと発言。自身の若いころについても振り返った。

■「妻子を養うことを考えていた」

この日、番組では谷川さんの3回目の結婚相手で絵本作家の佐野洋子さん(故人)のことが取り上げられた。佐野さんは谷川さんとの対談集「ほんとのこと言えば?」(河出書房新社)のなかで谷川さんについて、「お育ちもよろしいし、お行儀もよろしいし、揉み手もちゃんとなさるし、お作品はあのとおり素晴らしいし。ですけれども、よく見ると実に変な人です。言ってみれば、地球の上で生きていてはいけない、とんでもない野郎だと思います」などと指摘。モラルがないなどと批評した。

これに対し谷川さんは、「自分でもそうかもしれないと思うことがある」などと納得しながらも、「だけど僕は、すごく生活を大事にする人間なんですよ」と反論。「詩人て、なんかもう、『実生活よりも、良い詩を書くこと』という人が結構多かったんだけれども、僕は、まず生活。『まず、ちゃんと稼いで、妻子を養う』というのは基本的にずっと変わっていない」と述べ、佐野さんの指摘は「偏見だ」と笑った。

そして、谷川さんは自身と詩の距離について、「僕は、『詩が好きで、詩が必要で、詩人になった』というわけではない」と述べ、「若い頃は詩を書くのが好きじゃなかった」と告白した。特に、「妻子を養うために書いていたころは、詩を書くのがおもしろくなかった」のだという。

その理由について、谷川さんは、「いいかげんじゃない、言葉って。どうしようもない。国会を見てたって、そうでしょう?」と述べ、言葉を信用しておらず、疑いを持っていると明らかにした。しかし、だからこそ、「言葉を超えたい」として、「詩を書かなきゃ」と思っていたと話した。

■「最近は好きになった」

佐野さんと別れた時は、詩を書くことを止めようとも思ったと、谷川さんは話す。その理由について、次のように述べた。

「書いちゃいけないと思ったのね。詩に侵されているというか。

詩というのは日常の暮らしとちょっと違うところがあって、詩の世界に行っちゃうと人間関係に頭がいかなくなったりすることがあると思うんですね。自分が何十年も詩を書いてきて、何十年もどっぷりつかりすぎているから、ちょっとやめようかな、と思ったんだけど、でも書いちゃってました」。

書いてしまったという理由について、谷川さんは「詩を書くことで安定する」という点をあげ、「詩を書くことが習慣のようになっているので、詩を書くことで安心するんです」と話した。

そして、生活にゆとりが出てきたこともあり、「詩を書くのがおもしろくなった」と谷川さんは近況について報告。作品は、「さあ、詩を書こうとマックの前に座って待っていると、湧いてくる」のだという。「日本の豊かな土壌に根を下ろして、その土壌から吸い上げてくる」というイメージだと説明した。

そうして生まれた作品について、電子書籍ではなく、紙の書籍でないと感じられないものもあるのではないか指摘した。

「ただ文字データがあればいいだけじゃないんですよ。僕も電子メディアで詩を読むことがあるんですが、味気ないんですよね。意味しか通じないというか。詩っていうのは、(言葉の)意味以外のものがいっぱいあるわけなんですよ。言葉の音とか。そこから湧いてくるイメージとか。だけど、ディスプレイで読むと、他の情報と全く同じように詩が見えてしまう。詩がたってこない。それが、本になると、本の個性みたいなものが、詩を応援してくれている」

それでも、詩の解釈については、人それぞれで、いろいろな感じ方があっていいと、谷川さんは言う。「教科書で一つの解釈があるというのではなく、読んだ人が感じたとおりに、感じてもらうのも嬉しい。自分の思いつかないような解釈があると、嬉しいです」と、谷川さんは話した。