来春就職予定の大学生を対象にした企業説明会が3月1日に解禁され、就活が本格化している。空前の「売り手市場」の中、ベンチャー、起業など進路の選び方は多様化している。
「AIの進化でなくなる仕事」と、「働き方改革」が同時に議論される今、大学生は働くことにどんな思いを抱いているのか。今春卒業予定の4人に、就活体験を振り返ってもらった。
それぞれの「未来予想図」は――。【聞き手:朝日新聞社会部・吉野太一郎】
■参加者(写真左から)
原貫太(23)早大5年 国際協力NGO設立
今井淳貴(22)早大4年 大手銀行
田嶋嶺子(22)慶大4年 大手広告会社
武藤愛菜(23)中大4年 グルメサービス運営会社
■春からの進路と、いちばん重視したこと
――みなさんはこの春で社会に出るわけですけど、進路を決める上でいちばん重視したことは何でしたか?
今井:当初から明確な目標があったわけではないんですけど、サッカーサークルの副キャプテンとして、周りから信頼を得るためにどうしようと考えながらやっていた。「信頼してもらえることに喜びを感じる」と自己分析しました。学内説明会では、金融は勉強することがものすごく多いと言われたけど、自分で努力してそれが他人の役に立つところに小さい頃から喜びを感じてたので、早いうちから金融に絞りました。
ES(エントリーシート)を出したのが20社弱。リクルーター面談を10社と、面接の日程が重複したりしたので、6月1日以降に5社ぐらい面接を受けましたが、少ない方だと思いますよ。50社ぐらいES出す人なんてざらにいましたし。
田嶋:大学4年間ずっと、いろんなメディアの編集部でアルバイトしてきたんですけど、自分の強みを増やしたいので、あえて編集職じゃないところに行こうと思った。コンテンツは世の中にたくさんあるのに、うまく回っていかないのが歯がゆくて。情報の流通システムやお金の問題もあるし、ウェブの時代になってから、どんどんお金の稼ぎ方が難しくなっている。
記者とか編集の人たちには未だに、お金を稼ぐのは汚いことだと思ってる人もいっぱいいる。私はWeb 育ち世代なので、例えばブログでアフィリエイトするとか、経営と編集がくっついているのも違和感ないんですよ。今までの人と感覚が違うなと思ったの。きっと大きく変わっていく、このタイミングで行ったら面白いかなと思って広告に行くことにしました。
武藤:グルメサービスを運営するスタートアップ企業に就職します。半年以上インターンをして会社全体や社員の雰囲気を肌で感じ、この会社がとても好きだと心から思っていました。これだけ働いた上で自分を「おいで」って言ってくれるなら嬉しいと思って就職を決めました。
もともと実家が飲食店で、アルバイト先も飲食店。家の周りも商店街で個人飲食店が多いんですけど、本当にすぐ潰れちゃう。見つけてもらえてなかったり、資本がないから広告打てなかったり、もったいない。個人飲食店の売り上げが上がる仕組みを作りたい。この会社であれば、そんな新たな仕組みが作っていけると思ったんです。個人で行動するよりも、会社組織で挑戦していった方が早くそんな世界を実現できると思い、就職を選択しました。
原:去年の2月から3月にかけて国際支援のNGOでインターンをして、アフリカのウガンダで元子ども兵士の社会復帰や、南スーダン難民の支援を手伝ってました。特に南スーダンは難民キャンプに5回ぐらい足を運んで、目の前で両親を銃殺されて5~10歳の妹と弟の手をつかんで逃げてきた女の子とか、政府軍に夫を誘拐された年下の女性とか、病気で体中汚物まみれで全身にハエがたかってる男の子とか、そういう人たちと出会ったんですね。
卒業まで残り1年というとき、世界の不条理と向き合い続けてきたからこそ、自分が思い描く理想の世界とは何か、真剣に考えさせられた。そして、企業や大学院で経験や専門性を身に着けようと準備してる間にも、世界のどこかで誰かが苦しんでいる。それを知っているにも関わらず、無視してしまっていいのかっていう葛藤が芽生えて、今行動を起こせる人間になろうと、「特定非営利活動法人コンフロントワールド」を自分で起業することに決めました。
――みなさんが就職を意識し始めたのはいつごろでした?
武藤:私は3年の夏前、意識高い友達に合説(合同説明会)に連れていかれ、ベンチャー企業のお話を聞いてみたら「何だか楽しそう!」と思い長期インターンの世界に飛び込みました。それが私の就活の始まりだと思う。結局、一般的なエントリーシート、面接の就活をせずに、アルバイトとインターンを続けてたらそのまま就活が始まって終わっちゃった。
田嶋:大学1年生の時からずっとアルバイトをしていたので、就活との切り替えがあまりなくて。でもさすがにどこか就職先を決めないといけないって意識し始めたのは3年生の夏くらいから。周りの人に話を聞いたり、朝日新聞のビジネスのインターンをしてました。その頃から、普通に大学生やってた子も「インターンとかあるらしいぞ」とだんだん焦り始めた感じがあります。
今井:僕はサークルが3年生の11月末までリーグ戦があって、12月半ばに日本一決定戦。そこで引退して、切り替えて就活を初めた感じです。
田嶋:ガラッと?
今井:ガラッとですね。インターン行ってる子が回りにいなかったというのもあるんですが、ちゃんとした目標を持って活動しているサークルだったので、遅刻したら練習参加できないとか、休むなら練習2時間前に連絡することとか、ルールも厳しかった。先輩も「今、思いっきり活動に専念して頑張ってれば大丈夫だよ」って話してたし、副キャプテンとして責任もあるし、チームが日本一を取るというのだけを考えていた。
田嶋:それだけしっかりサッカーやり続けて、就活の邪魔にはならなかった?
今井:ならないですね。
原:僕はなかったな。最初、文学部の英文科に進んで、英語の教員になろうと思ってたんです。それがちょっとずつ疑問が芽生えちゃって、就活で使える話題作りにと思って、大学1年生の2月に、フィリピンのスタディーツアーに参加したんですよ。 そこが転機でしたね。
田嶋:「就活あるある」だよねー。
原:ストリートチルドレンや孤児院を支援して、現地で写真を撮ってFacebookに上げたりして楽しかったんですけど、最終日にマニラ空港に向かう車の中で、ふと窓の外を見たら、3車線の道路の車と車の間で、7歳ぐらいの女の子が裸の赤ちゃんを抱えて物乞いをしているのが見えて、その瞬間、雷に打たれたように衝撃を受けた。
大学の授業後にお菓子をすぐ食べられるような僕みたいな人間がいる一方で、生きるために危険を感じながら物乞いをする子がいる。その世界の不条理に立ち向かいたいっていう思いが芽生えたのが一番最初のきっかけでしたね。大学3年の冬も一人でアフリカに足を運んで、元子ども兵から話を聞いていた。周りの大学生とものすごい温度差があって自分がつらくなるだろうから、企業で就活は無理だなと決めました。
武藤:なんで大学3年から就活なのかな。
原:就職とか起業とかフリーランスか、手段にすぎない。その先にある自分のビジョンとか、ちゃんと突き詰めて考えるの、大学3年の12月からの数カ月で絶対無理だと思うんですよね。大教室の授業で電話が来て取るために部屋を出て、教授に怒られたりとかしている。学費を払っているのに、在学中に大学休んで就活しなきゃいけないのか理解できない。
卒業してからやればいい。海外ではギャップイヤー取る人も多いし、アメリカとかは卒業と同時に始める人も多い。
武藤:学生の長期休暇中や、卒業後に行えばいいのにな、とは思います。
原:そこら辺の、かっこ付きの「常識」みたいなのは、なんかもう日本やばいと、外国から見てて思いました。
■スーツ、時期...就活の理不尽
――就活で理不尽と感じたことはありました?
田嶋:やっぱりスーツ。服装や髪の色を押しつけられているという印象はありました。行きたくなければ行かなければいいだけの話なんだけど、なんでそれがデフォルトなんだろうって。
――どれだけ着たんですか?
田嶋:2回だけ。受けたのが2社だけで、もう1社はネット企業で面接は私服OKだったので。
――2回だけ?
内定先の面接は1回目と3回目はスーツ着用と言われたので、そこだけ着ましたけど、説明会も行ったことがない。逆に2回目は「私服でいい」と言われたので、合わせましたけど、髪の毛は茶色かったです。
原:僕は着たことないですね。入学式は普通のスーツ着てましたけど、リクルートスーツとの違いが分からない。
今井:今日、リクルートスーツを着てきました。 ストライプもまったく何も入ってない、色も黒とかです。
原:なんかすごい違和感あるんですよ。気持ち悪いですし。
田嶋: 違和感ある、違和感ある!
武藤:同じ見た目にしてどういう見分け方をするつもりなんだろう。その人の中の常識とか、人間性って服装とか髪形とか、見た目にも出ると思うんですよ。服装自由なほうが、判断基準が増えて選考しやすくない?とは思いますね。
今井:服が汚れている人はいますよ。ホコリついてたりとか。そういうところには性格が出ますね。
原:そこで何か分かるんですかねえ。
田嶋:髪の毛の色も黒じゃないとダメというのが、やっぱり本当に分からなかった。
今井:僕は全然意識しませんでしたね。ずっとサッカーやってきたので話せることはあるし、他の人との違いなんていくらでも出せるとも思っていた。そこまで身なりとかで個性を出す必要もないと思ってたし。
田嶋:武藤さん、リクスーは?
武藤:私は喪服を使いました。
(一同笑)
■大手か?ベンチャーか?起業か?
――大手とベンチャーと起業、それぞれのメリット、デメリットがありますよね。
今井:大企業はやっぱり優秀な人が多いイメージはあるんですね。競いがあって、自分の能力を上げていけるのがよい部分。同じ会社でも部署によって全く違う仕事をしてるし、いろんな場所で違うことをやって興味が出てくるかもしれない。いわゆる「安定」みたいな企業ですけど、安定してるから、という意識は特にないです。
田嶋:自分の今できることが限られてるので、広げていこうと考えて、新卒で就職することにしました。大きい規模のプロジェクトに関わるって、自分一人だったらなかなか難しい。自分ができる仕事の大きさや幅は大して変わらないかもしれないけど、大きいプロジェクトに携わる経験ができるのは一つのメリットかな。
武藤:私はベンチャーに絞ったのは早かった。大手の会社でも長期インターンしてたんですけど、意思決定のスピードがベンチャー企業に比べるとやはり遅い。。ベンチャー企業の方が仕事の進行も早いし、機会も回ってくる可能性が高いかなと思いました。
社会人のいろんな方に言われたのが「1年目に入った会社でどんな人を模範とするかで自分の今後の人生が決まってくる。どれだけ優秀な人のそばで働けるかが大事だ」。規模が小さい分、優秀な人がすぐ上のメンターでいてくれる。大きな会社なら2、3ステップ上げなきゃ一緒に仕事できないだろうし。社長にもすぐ話ができる環境の方がいい。
原:インターン先のNGOからもオファーはもらったんですけど、僕は自分の中で作りたい世界像が明確になったので、じゃあ自分でやりたいという思い。あとは挑戦する姿をいろんな人に見せたかった。今の日本社会って若者の失敗を許さないというか、そもそも失敗を許さない風潮がある。新卒でNPO法人、しかも国際協力系を作るってなかなかないので、自分を実験台にしてやりたいという思いで起業を選んだという感じです。
武藤:私たちより親世代が大変ですよね。
原:それはもうマジですね。
武藤:親が「絶対大手に行きなさい」と。私も言われたけど説得した。でも一緒に就活してベンチャー内定してた友達が、親に懇願されて大手に行った。
田嶋:親ブロック?
武藤:子どもが心配なのはわかるけれど、その子の人生なわけだし、やりたい選択をさせてあげてほしい。親の理解がなさすぎて、というのがなんかもったいない。
原:リアクションすごく分かれるんですよね。僕らの親世代は逃げ切れる世代。40代ぐらいの考えがどう変わっていくかで多分、今後の日本の流れが変わると思う。
――大手企業は年功序列で終身雇用と言われてきましたが、これからはもう定年まで雇ってくれないかもしれない。
田嶋:いやー、そりゃそうですよね。
武藤:大手だったら絶対つぶれないで終身雇用してくれるというのは、ただの神話。それに40年も50年も同じ会社にいるのは飽きてしまいそう。
田嶋:そこは変わっていくと思う。
武藤:自分が今やりたいこと、作りたい世界、を実現できる企業を選択できる自分でありたいよね。
原:自分が作りたい世界を作れる組織がなかったから自分で作ったけど、起業してみて、もっとビジネスマインドを身に着けたいと思うようになった。いったん修行したいという気持ちも芽生えたので、4月からNGOで専従スタッフやりながら、ベンチャーに行って新規事業立ち上げのような仕事に関わりたいという気持ちもちょっとある。
田嶋:今やりたいことは、どんどん変わっていくと思う。安定してるから大企業に入るわけじゃない。常に外の世界に目を開いて、何をやりたいか自分にも問いかけて、その時その時で決断していけるようになりたい。キャリアに関しては柔軟に考えていけばいいと思います。
■AI、なくなる仕事
――これからは仕事の内容もどんどん変わっていきます。AIの発達で、自分たちの仕事が本当にあるかどうかもわからないみたいな世の中になっていきますよね。
原:皆さん、仕事はなくなると思いますか?
田嶋:いや、私は何とかなると思ってる(笑)
今井:減るのは間違いない。その中で残る仕事は必ずあるというくらいのイメージしかないですね。
武藤:私は仕事を作る方だと思う。
原:AIの時代。画一的な人はどんどん切られていくと思うんで。
田嶋:分かる。ロボットじゃできないことを、これからやっていかないといけないわけだから。
武藤:その世界が来るのが楽しみで仕方がない。中国とか小さな店でもスマホで全て買い物が終わるから現金がいらない。なんでその世界が日本に来ないのか。飲食店でタッチパネルで頼んだら自動的にカード決済されれば、食い逃げも起こらないし、レジの人もいらない。どんどんシンプルになっていく。
原:Amazonがスマホで自動決済するスーパーの実験を始めましたよね。
武藤:スーパーのレジもいらなくなる。
原:AIに移行すると今はまだコストがかかるので人間がやってるだけ。コンピューターの製造にかかるコストがどんどん減っていくと、どこかのタイミングで人件費よりAIの方が安くなる。そのタイミングがたぶん2025年ぐらいなんですよ。
田嶋:遅いな。もうちょっと早く来そうな気もするけど。
今井:事務作業はこの先減っていくかもしれないけど、人と会う仕事はなくなりはしないと考えています。
原:人の温度感が出る方の仕事につけば大丈夫という考えですか?
今井:人の話を聞いてどんなニーズや悩みがあるのかを聞き出すのが、一番難しいと思うんですね。それはやっぱり人と人の繋がり。自分の熱量が一番大事。人とのつながりやコミュニケーションは人ならでは。それこそ話をどれだけうまく引き出せるか。その能力は確実に高めていかないといけないと思います。
田嶋:そうなると1個の仕事をずっと続けていくのはリスクだなと思う。できることがたくさんあって複合的に組み合わせていく方がいい。人間からしか生まれない仕事ってそういうことだと思う。
原:副業は絶対した方がいい。僕は自分で本を出版したり、有料のメールマガジン書いたり、講演したり、ブログのアフィリエイトとかでいくつか収入源があるので、長い目で見たら多分そっちの方が、大企業のサラリーだけでやってる人よりは安定してる。
株式投資も1銘柄に全財産を投入することはないじゃないですか。1つ1つは小さくても5つ6つあると、1つなくなったときになんとかなるし、その人の価値で生み出されるものなら他の収入も上がっていく。不安定な時代に回復力を高める生き方かなと思う。
田嶋:会社にいても自分の単価をどれだけ上げていけるかは考えていかないといけないと思いますね。
原:ツイッターのフォロワーが4000人ぐらいいるので最悪、「食べる物がありません」ってつぶやけば誰かが助けてくれるかも。自分をそういう実験台にしていけばいいかな。
■10年後の自分
――最後に、後ろのホワイトボードに「10年後の自分」を書いてもらいました。それぞれ解説してもらえますか?
原:アフリカにコンゴという、子どもの餓死や女性への性暴力が日常化してる国がある。そこで採れるレアメタルはスマートフォンにも使われているので、日本の生活にも無関係じゃない。まさに世界の不条理が収斂してるような紛争地で3年後ぐらいから支援活動したい。それから、国際協力という生き方をもっとスタンダードにしていきたいですね。
今井:今は法人営業が規模も大きく関わる人も多いので、面白そうかなと思って書いたんですけど、就職活動してみた中で思っただけで、入ってからどう変わるかわからない。自分の能力を高めて、人からも吸収した上で、いろんな目標を見つけて、実行できるような能力を持っておきたい。
田嶋:これから10年も働いたらまた全然違う世界をいろいろ見ることになると思うし、興味もきっと移り変わっていく。そのときにいつでも柔軟に動けるようにしておきたい。いつでも自分の好きな時に方向転換できる可能性をずっと残しておきたい。一つのことに拘泥せず、広く時代のニーズと自分のやりたいことを考えていければいいかな。
武藤:今の会社に入った理由は飲食店の売り上げを上げたいから。それを海外展開させていくのか、また別の作りたい世界が生まれてくるかわかりませんけど、この世界を作りたい、この人と仕事したいという人を見つけて、そこに行ける自分になっていようという感じですね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
原:今日の話は共感することも多かったんで、2年後にまたやりたいな。2年後に同じことが言えるか。現実に呑み込まれていないか。
田嶋: 「飲み込まれんなよ、結局つまんない大人になるなよ」って結構言われる。
原:どうしたらいいんですかね。どうしたら呑み込まれずに済むんですかね。
田嶋:やっぱり会社だけを見続けていると、どうしてもそこにしか意識が行かなくなっちゃうから。
武藤:常に新しいコミュニティーに居続けることかな。
田嶋:うんうん。意識的に全然違う離れたところと交流し続けるっていうのは、自分へのひとつのチェック機関になるかなと思っている。なのでぜひまた、みんなで会いましょう!