オイシックス・ラ・大地、OisixEC事業本部の太田健さん(32)を取材。じつは、もともと金融系システムの開発を担うシステムエンジニア(SE)だった彼。転職のきっかけは3.11。安心できる野菜を食卓に届け、子どもたちの笑顔を増やしたい。そして、ビジネスとして収益性も追求するーー。そんな彼の志に迫った。
1日3食、年間1000回以上。食卓に「安心」を。
1日3食と考えれば、一人あたり年間1000回以上にも及ぶ”食”のシーン。人々が生活する上で欠かせない領域だ。
オイシックス・ラ・大地(※)が解決する課題は、そのなかでも「畑」と「食卓」にある。「畑」は環境・産業を持続可能な形で未来に繋げていくこと。そして「食卓」は、それらを囲む人々に笑顔をつくること。
有機や特別栽培野菜など、安全性に配慮した食品宅配サービスのパイオニアとして走り続けてきた同社。2018年3月期の売り上げは過去最高の399億円へ。事業の好調さも伺える。
さらに「攻め」の姿勢を緩めることはない。
「少なくとも売上高1000億円まではトップスピードで駆け抜けたい。スーパー・小売の市場規模と比較しても、まだまだ拡大させていけるし、いかなければならない」
こう語ってくれたのが、OisixEC事業本部 販売推進室 室長の太田健さん(32)だ。定期宅配サービスの継続利用促進・企画を担っている。
じつは彼、異色な経歴の持ち主でもある。前職は、金融系システムのエンジニア(SE)。2011年11月に商品開発職として入社。2018年4月に異動し、現職に至る。
なぜ彼はエンジニアから開発職に?そしてなぜ、オイシックス・ラ・大地だったのか。そこには「食卓に安全な農作物を届け、子どもたちの笑顔を増やしたい」という志があったーー。
3.11を経て。「農作物」の課題に向き合う決心
京都大学の農学部を卒業したものの、新卒ではIT業界へ。金融系のシステムインテグレーターに入社した太田さん。その理由についてこう振り返る。
「正直、将来的には農業や農作物の流通を志すようになるかもしれないといった気持ちはありました。ただ、就活をしていた当時は葛藤もあって。どれだけ自分が農業の課題にコミットができるのか。何ができるのか。一度、全く真逆にあるような領域に行ってみようと思ったんです」
こうしてシステムエンジニアとしてファーストキャリアを歩み始めた太田さん。システムの設計、開発、テスト、保守運用…あらゆる業務を吸収していった。
「SEの仕事もじつはすごく楽しかったんです。もともと新しいことを学んでいくのが好き。楽しめるタイプで」
そんな時、彼の仕事観を左右する出来事が起こる。それが2011年3月11日に起こった東日本大震災だ。
「ちょうど3.11前後の1年間ぐらい、メガバンクの東京と海外のトレーダーの方が使うシステム開発プロジェクトが動いていて。ただ、プロジェクト型なので終わりがあるんですよね。本当にこのままでいいのかと考えるようになっていきました。もう一度、農作物の流通分野に戻りたい。そういった思いが湧き上がってきた」
もうひとつ、当時の複雑な思いについても太田さんは語ってくれた。
「エンジニアとして働くのは楽しかったのですが、まわりにはシステムやプログラミングが本当に好きでたまらない人たちがたくさんいました。休日もプログラムを書いて“こんなんができた!”と。正直、この人たちと同じ土俵で戦っても勝てない。そんな思いもありましたね」
こうして改めて向き合ったのが「農業」、そして「食」という領域。その中でもオイシックス・ラ・大地を選んだ理由とはーー。
「ビジネスとして社会課題に取り組んでいるところ。さらにテクノロジーを駆使し、急成長を続けているところに惹かれました。正直、募集している職種は何でもよかったんですよね(笑)収益性を追求しながら、農業に携わっていく。そう考えたときにオイシックス(当時)以外の選択肢はありませんでした」
「農作物の流通」と「食卓」に革新を
金融系システムの世界から「食」の領域へ。業界・職種を変えて働くことに不安はなかったのだろうか。
「キャリアチェンジに対して、不安はほとんどありませんでした。むしろテクノロジーやシステムといった部分で、強みがある。何かしら貢献できるし、できることをやっていこうと思っていました。前職時代の社長がくれたアドバイスですが、まずは小さな成功を重ねて、信頼を得ていく。それが大きな成功につながる。陸上のトラック競技に擬えて“トラックレコード”を重ねていくと表現していて。今でもこれは座右の銘ですね」
また、新たな物事を貪欲に吸収する姿勢も太田さんの活躍につながった。オイシックス・ラ・大地に根付くカルチャーもフィットしていたようだ。
「オイシックス・ラ・大地に入ってすぐ上司から言われたのは、“最強の素人軍団を作りたい”ということでした。つまり、業界の常識にとらわれず、つねに新鮮な目を持ち続けるということ。素人は“なんでできないんだろう?”と素朴な疑問を持ちますよね。白紙から“どうすればできるか”が考えられれば最強の素人集団だ、と」
この考え方は、販促戦略を現在も太田さんが大切にしていることの一つだ。
「どうしても定番商品があると、その延長線上で企画を考えてしまいがち。定番は定番で置きつつ、過去の延長線にない試み、企みを仕掛けていく。10発打って1発でも来年からの定番をつくる。ここは意識しているところですね」
とくに主力商品となっている『KitOisix』などサブスクリプションモデルはいかに顧客との関係性を深め、楽しんでもらえるか。ここが鍵をにぎる。
「毎年同じ、もしくは多少のアップグレードでは“感動”は薄れていく。重要なのは工夫と感動ですよね。まずは自分が感動できるか。自分の家族を感動させられるか。そこにちゃんと投資する。私も言葉だけにならないよう、心がけているところですね」
商品開発、そして販売推進とステージを変えながら活躍している太田さん。もちろんはじめのうちは壁の連続だったという。
「お客様にとって、どういった商品がいいのか、どうしたら感動してもらえるのか、心を巡らせ続けていくんですよね。“考える”を延々と考えていく。そこで見つけたのは、とにかく量を出してみるということ。ひとつの企画でピカピカの1個ではなく、とにかく100個出す。その分、お客様と向き合える。量は質に変わる。ここは今でも大切にしているし、メンバーたちにもよく伝えています」
「食」を通じ、子どもたちが笑顔でいられる世界を。
そして伺えたのが、太田さん自身の仕事観について。彼自身が何を目指し、仕事と向き合っているのだろう。
「月並みですが、子どもたちが笑顔でいられる世界を作りたい。ここが私の人生の目標なんです」
彼自身も子供ができ、より強く感じるようになったという。
「家族でおいしいものを食べている瞬間ってわいわいして楽しいですよね。でも、そんな瞬間ばかりじゃない。共働きで忙しくされているお母さんは、時短で帰ってもお迎えに行って、食事を作って、お風呂に入れて、自由に使える時間なんて1時間もないほど。そんな日常でも安心安全でおいしいものはもちろん、愛情を込めた手料理を出したい。そんなニーズに答える『KitOisix』などの料理キットは忙しいお客様に直接的にアプローチしています。こういったサービスを世の中に広めていく。私が人生で掲げているミッションとも深く関わっていると思います」
そして、大学時代に抱えた農作物の生産・流通に対する問題意識も、今の仕事の延長線上にある。
「農家さんと購入者していただくお客様とをつなぎたい。ここは学生時代から変わらない思いです。学生時代にみかん栽培の農家さんのお手伝いしていたのですが、やはり購入者さんとの関係性の上に成り立っている部分も大きい。農家のおいしいものをつくる努力や思いをお客様に伝えていく。逆に、お客様の声を農家さんにフィードバックする。橋渡しをすることで、新しい農作物の生産や流通のカタチを考えていきたい」
こういった部分をテクノロジーによって解決していく。ここもオイシックス・ラ・大地の特徴だ。
「事業が拡大する中、やることは山積みなんです。たとえば、ECならではのパーソナルライズの強化し、販売の仕方に革新を起こす。もちろん新しい発想での商品企画、プロモーション、システムを活用する。さらに収益性を追求したい。売上高でいえば1000億円まではトップスピードで駆け抜けたいですね」
業界大手、パイオニアとしての地位に甘んじることなく、さらに上のステージへ。オイシックス・ラ・大地、そして太田さんの挑戦は続くーー。
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