ブルゾンちえみ卒業から約2ヵ月。
取材のため姿を見せた彼女の顔には、梅雨入り前のどんよりとした空模様とは対照的に、晴れやかな笑顔が広がっていた。
新型コロナの影響で、予定していたイタリアへの渡航は延期に。しかし彼女は、本名「藤原しおり」としてインスタグラムやYouTubeでの発信を始めるなど、すでに新たなステージへと一歩を踏み出している。
これからは環境問題や政治など「少し遠い話題」と人々とをつなぐ「フック」のような存在になりたいと話す藤原さん。
彼女はなぜ社会の問題に目を向けるのだろう。そして、世の中にどんなメッセージを届けていきたいのだろうか。本人に聞いた。
遠い世界の問題も「知ること」から始めればいい
6月上旬、自身のインスタライブで、アメリカで起こっている人種差別の問題について懸命に伝える藤原さんの姿があった。
アメリカ・ミネソタ州で黒人男性が警官に首を押さえつけられ死亡した事件を機に、世界中に広がった「Black Lives Matter(黒人の命は大切だ、命を守れ)」の運動。黒人への不当な暴力や差別への反対を表明するため、SNSに一面真っ黒の画像を投稿したり、デモに参加したりする人が続出した。
海外の友人のSNSを通じて、事件のことを知ったという藤原さん。心を痛める一方で、黒人差別問題の複雑な背景について調べれば調べるほど「日本人の自分がアメリカ人すら安易に語れない問題にどう関われるのか」と戸惑った。
そんな率直な気持ちをアメリカに暮らしていた友人にぶつけてみると、返ってきたのは思いもよらない言葉だったという。
「アメリカの人にとっては、この話題が日本でこうして真剣に話されていること自体がかなりの発展だと思うよ、って言われたんです。こんなことは数年前には、考えられなかったことだと」ーー。
「こうして話すことも必要な一歩なのか」。モヤモヤしていた気持ちが薄れていった。
「きっと私のように問題にどのように関わっていいかと悩んでいる人は沢山いると思うんです。声をあげるって、デモに参加するとか、発信するだけじゃない。だから、知らない立場・どう言っていいか分からない立場として、みんなにも『まずは知ることから始めてみよう』と伝えたいと思いました」
余力がない人のための「メモ付きの」掲示板になりたい
日々、仕事や家庭、育児に追われる私たち。「Black Lives Matter」など日常から遠い話題になるほど、どうしても考える余力を失い、心の距離が生まれてしまいがちだ。
だからこそ藤原さんは、タイムラインやインスタストーリーに流れる自身の投稿が、そうした「少し遠い問題」に触れるきっかけになれば嬉しい、と話す。
一方で「単なる掲示板になりたいわけじゃない」と彼女。
「ただニュースを貼るだけなら、ニュースサイトと同じ。だから必ず『私はこう思ってます』というメモ付きで伝えるようにしています。そういう『一言メモ』があった方が、興味を持ってもらいやすいと思うんです」
最近は藤原さんの発信を見て、反応やフィードバックをくれるフォロワーもいる。会話が広がっているのを感じるという。
もちろん共感の意見ばかりが寄せられるわけではないが、藤原さんは「意見が違っても、互いに寄り添うことはできるのでは」と問いかける。
「『あなたはそうだけど、私はこう思う』で全然いいんです。育った環境や価値観が違うのだから、みんなが同じ考えになるのは難しい。ただ、たとえ思想は共有できなくても、共通にできるアクションは必ずあると思うんです」
「総理大臣になる」と宣言していた、子ども時代。
しかしそもそも、藤原さんが社会の問題にこれほど意識を向けるのは一体なぜなのだろう。
きっかけは小学校時代にまで遡るという。学校の授業で環境問題のことを学ぶと、動物好きの彼女は、多くの動物が人間によって絶滅に追いやられているという事実に衝撃を受けた。
「え、人間のせいでこんなに動物が死んでるの?って。動物は言葉を発せないから人間が守らないと、と変な使命感を感じました。
そこからは、『総理大臣になって保健所での犬猫の殺処分をなくす』と宣言したり、節水・節電を呼びかけたり、リサイクルのために裏紙を回収したり、色々やりました。中1くらいまでそんな調子で続けていたんですが、ある日『自分だけが頑張っても変わらないわ』と心が折れちゃって、一旦自分の中に封印してしまったんです」
しかし、それから数十年。2015年に国連サミットでSDGs(持続可能でよりよい世界を目指す国際目標)が採択されると、社会の意識にも少しずつ変化が見られるようになった。
「子どもの頃は企業を『環境を壊しているんだ』って敵対視していました。それなのに、今は企業が『環境を守りつつ発展していきましょう』と言う。こんな時代が来るなんて!と感動しました。今なら変われるかもと希望が湧きました」
また政治に関しても、身近で重要性を意識する場面が重なり、関心が強くなった。
「地元(岡山)の友達と話していると、日々の生活のために精一杯で考える時間や大切なことを犠牲にしている人が多いなと感じるんです。みんなが気持ち良く生きられる方法は?と考えたとき、政治を知ることが解決に繋がるのではと思うようになりました」
現在、藤原さんのインスタグラムのフォロワーは約229万人。一人で環境問題を呼びかけていた小学生時代には想像もつかなかった「沢山の人に言葉が届くツール」が今の彼女にはある。
「子どもの時に諦めていたことも今ならできるんじゃないかと思うようになりました」。
問題解決は「ダイエット」に似ている
環境問題や人権問題、紛争ーー。私たちのタイムラインには日々、世界のどこかで起きている悲惨なニュースが更新され続ける。そんな大きな問題を目の前にすると、子ども時代の藤原さんのように、個人の小さな心がけが無力に思えてしまうことも…。
自分一人がマイボトルを持ち歩いたり、リサイクルを心がけたりして、一体何の意味があるのだろう、と思ってしまう人も多いのではないか。
最後にこの点について、藤原さんに聞いてみた。
すると、突然こう切り出した。「実は年末からダイエットをしていたんです」。
「この10年間で30kgも太ったのですが、実はダイエットしては失敗するを繰り返してきたんです。ブルゾンとしては『ありのままの自分を受け入れよう』とか言いながら…。『本当は痩せたいと思っているんじゃない?』って心の中で思っている自分にとうとう嫌気がさして、一念発起しました。
それで、いろんな方にダイエットの秘訣を聞きました。すると、みんな口を揃えて『小さいことを続けること』と言う。
寝る前に足をパカパカ10回やるだけとか。『本当にそれで痩せるの?』と何度思ったことか。でも、ダイエットはこれで本当に最後にしたくて、続けてみたんです。
それで…今朝体重を測ったら、なんと年末から10kgやせていたんです!」
藤原さんがダイエットを通して気付いたこと。それは、どんな大きな変化も小さな変化の集合体だということだったのだ。
「実際、私も距離がある問題はどうしても自分ごとのように考えられないし、だから私もみんなに自分ごとのように考えろとは言えないけど。
でもたとえば“Black Lives Matter”だって、これまであまり関わってこなかった日本人が問題について考えることが、何かの変革になるかもしれない。災害も被災者以外の力がなければ復興できないように、問題の当事者でない人の力が必要なこともあるからです。
みんな毎日忙しいし、自分のことは全然おろそかにしなくていい。でも自分の生活の100%のうち5%くらい、まずは知ることからでも、小さなことを積み重ねてみると大きな変化を起こせるのではと思うんです」
(文:吉田遥 写真:SOTA OHARA)
【お知らせ】
藤原しおりさんが、ハフポスト日本版と国連広報センターが6月28日(日)13時から配信するインターネット生配信番組「『世界平和』のために、私は何ができる?」に出演します。お笑いコンビEXIT・兼近大樹さんも共演予定です。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの「パンデミック」、「環境問題」、「貧困問題」、「ジェンダー不平等」、「紛争や暴力」。番組では、こうした問題をどう捉えて、どのように自分の意見をまとめたらいいのかを模索し「私たちができること」を考えます。
【番組内容】
- 6月28日(日)13時〜
- 番組は、国連広報センターとハフポスト日本版の共催です。
- ハフポスト日本版のTwitter、Facebook、YouTubeアカウントにてライブ配信
- 以下のURLで、時間になったら自動で配信が始まります。視聴は無料です。
▼配信URLはこちら
≪Facebook≫
【番組配信後の特典】
藤原しおりさんのInstagramアカウントで、インスタライブを配信予定です。番組が終わった後、話し足りなかったことや、もっと知りたいことについて、みなさんと一緒に雑談するコーナーです。
【出演者】
EXIT兼近大樹さん
藤原しおりさん
国連広報センター所長 根本かおるさん
ハフポスト日本版編集長 竹下隆一郎
番組では、国連が実施しているUN75「1分間アンケート」についても、兼近さん、藤原さんと話し合います。
国連が創設75周年を記念して、世界中の人々の「声」を集めている以下のアンケート。
ぜひ、番組のご視聴前に回答してみてください。
▼アンケートはこちら
▼国連創設75周年(UN75)特設ページはこちら
https://www.unic.or.jp/activities/international_observances/un75/