安倍政権の黄昏と「おごれる政治」

ネジが外れたのか、ヒューズが飛んだのかと首を傾げます。
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時事通信社

安倍晋三首相の足元が揺れています。

2週間前、野党の反発や世論の危惧をあざ笑うかの如く、共謀罪法の制定を参議院の委員会審議を省略して「中間報告」で徹夜国会の本会議に持ち込み、加計学園問題で明らかになった文部科学省内の文書が「出処不明の怪文書」どころか、解明しなければならない疑惑を明示していることで広がる波紋を恐れて、国会の会期延長をせずに無理やり「強制終了」してしまいました。

理由は簡単で、「東京都議会議員選挙に影響を与えたくない」とのことです。

ところが、どうでしょうか。安倍首相自身が、国会を「強制終了」させる大きな原因となった加計学園が獣医学部を新設する問題について、180度違う見解を言い始めたのです。

首相:これまでの議論、自ら否定?「獣医学部どんどん...」 - 毎日新聞 2017年6月26日

学校法人加計学園の問題で関心を呼ぶ獣医学部新設を巡り、安倍晋三首相の唐突な"宣言"が関係者を驚かせた。24日の講演で「地域に関係なく意欲があれば、2校でも3校でもどんどん認めていく」と語った。そもそも新設の地域要件を絞り込み1校に限定したのは、安倍首相が議長を務める国家戦略特区諮問会議ではなかったか――。

ネジが外れたのか、ヒューズが飛んだのかと首を傾げます。これまで、「広域的に獣医学部が存在しない地域に限り新設を認める」(2016年11月9日・国会戦略特区諮問会議) としてきたのではなっかたでしょうか。この「広域的」にと「限り」というふたつの条件が加筆されたことによって、京都産業大学が外されたのは、文部科学省から出てきた文書でも明らかです。従来の説明と、経過を全否定するような発言には驚きました。

「獣医学部新設について、獣医師会からの強い要望でまず1校を限定的に認めた。こうした中途半端な妥協が結果として国民から疑念を招く一因となった。今治市だけに限定する必要は何もない。今後は、地域に関係なく、意欲があれば2校でも、3校でもどんどん認めていく」(安倍首相)

そして、6月27日、東京都議会議員選挙の応援で、板橋区内でマイクを握った稲田防衛大臣のトンデモ発言が飛び出しました。

稲田防衛相の発言要旨「自衛隊としてもお願いしたい」 (日本経済新聞2017年6月29日)

板橋区ではないが、隣の練馬区には自衛隊の師団もある。何かあった時に自衛隊が活躍できるのも地元の皆さま方、都民の皆さま方の協力があってのことだ。都と国との連携があるのが重要だ。

自民党の下村博文幹事長代行との強いパイプ、自衛隊・防衛省とも連携のある候補だ。ぜひ2期目の当選、本当に大変だから、お願いしたい。防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたいと、このように思っているところだ。〔共同〕

稲田大臣の発言は、 自民党は下村博文幹事長代行のもとで、「国や防衛省、自衛隊とも直結する自民党候補の2期目の当選をお願いしたい」と前置きしてから、「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いをしたいと思っている」と重ねて訴えるものです。防衛大臣として、防衛省・自衛隊を代表して投票依頼をしたと受け止めるのが自然です。厳しく政治的中立を求められている自衛隊という実力組織を率いる防衛大臣自身が、超えてはならない一線を軽々と、しかも堂々と超えてしまい、発言後に記者に囲まれても問題発言をしたことに気づかなかったといいます。

この発言から5時間以上経過した深夜、稲田防衛大臣は「誤解を招きかねない発言に関して、撤回をしたいと思っています。これからもしっかりと職務を全うしてまいりたい」と、発言を撤回しました。いつものことながら、気になるのは「誤解をまねきかねない」という表現です。この日の稲田大臣の発言からは、「防衛大臣として、防衛省、自衛隊、自民党としても、自民党都議候補者の2期目当選をお願いしたい」という内容を聞きとるのが自然な受け取り方ですが、これは「誤解」なのでしょうか。

百歩ゆずって稲田大臣から見た「正解」があるとすれば、「防衛省、自衛隊の活動は、地域の皆様の協力があってのこと」という「御礼」と、「自民党都議候補者の2期目の当選を」という「お願い」が、応援演説の言葉の中で渾然一体となってしまったということでしょうか。誰もが言葉を聞いて、訴えの内容を判断します。日常的な稲田大臣の認識が問われます。防衛大臣の立場と、自民党議員としての政治活動を一体化して峻別出来なかったのは、稲田大臣の認識のレベルを語っていると感じます。

従って、稲田大臣の「発言」が問題である以前に、その発言を生んだ「認識」が問題なのです。その認識が誤っていれば、「誤った意図」にすぎず、「正しい真意」など伝わりようがありません。私は、こんなツイートをしました。

テレビの情報番組は、豊田真由子自民党衆議院議員の秘書を怒鳴りつける聞くに耐えない罵声を流し続けています。彼女が、文部科学大臣政務官、復興大臣政務官として、どんな仕事をしてきたのを冷静に検証する必要があると思います。「死んでしまえ」という存在否定の言葉を投げかけられる「いじめ」の被害者の子どもたちや、東日本大震災で多くの犠牲者を出して苦悩する被災者が、人のプライドをミキサーで破砕するような暴言のオンパレードをどのように聞くのでしょうか。

絶対的な上下関係で支配を続け、人を踏みつけて嘲笑う攻撃性や、生命を軽くもてあそぶような心ない言葉...。背筋が寒くなるような荒廃した価値観を持つ「若手政治家」が自己顕示欲をぎらぎらさせながら、官邸に絶対的服従を誓いつつ、立場の弱い者は情け容赦なく傷つける...。

「共謀罪」の問答無用の強行採決も、森友学園・加計学園での不誠実な姿勢も、「真摯に説明を尽くします」と言いながら国会開会を拒否していることや、暴言議員を叱責することもできず、稲田大臣のトンデモ発言を形式的な「撤回」でよしとする対応も、すべて根は同一に見えてきます。

それは、安倍一強と呼ばれた高い支持率にあぐらをかいた「百年王国」が続くという錯誤ゆえの尊大な万能感と、おごりです。

安倍首相:「改憲案、臨時国会に」 批判封じ「前倒し」 自民から慎重論も - 毎日新聞(2017年6月27日)

安倍晋三首相(自民党総裁)が党の憲法改正案について「秋の臨時国会への提出」を目指すと発言したことに対し、自民党内からも「急ぎすぎだ」などと反発の声が出ている。ただ、首相は2018年通常国会での憲法改正発議を確実にするため意図的に前倒しの日程に言及したとみられており、慎重論に耳を傾ける気配はない。

今すぐに国会を開会するべきだという野党と世論の要求には背を向けて、この秋の臨時国会で改憲日程を前倒しで俎上に乗せようとするのは、今年の通常国会の一方的で力づくの手法に対して、安倍首相に何の反省も教訓もないことを証明しています。

「共謀罪」を力ずくで通し、「絶対的多数の議席」を持てば何でもできるという強権的な政治に急ブレーキをかける必要があります。東京都議会議員選挙は、「おごれる政治」と正反対に節度ある政治に戻すための絶好の機会です。