消費税率の引き上げ時期を延期するかどうかを巡って、安倍晋三首相が近く衆議院解散し、2014年内の総選挙実施を検討しているという報道が相次いでいる。なぜ、今のタイミングなのか。海外メディアは「2015年の自民党総裁選」や「集団的自衛権の関連法案」、「TPP」など、増税以外の今後の政治予定を紹介しながら、このニュースを報じている。
■「解散はギャンブル」フィナンシャル・タイムズ
イギリスのフィナンシャルタイムズ紙(FT)は、衆院解散を早期に予想していたジャーナリストのコメントを引用して、与党の延命と自民党内での地位固めをはかる安倍首相の戦略を紹介する一方、解散は「ギャンブル」とも指摘している。
記事は「選挙が成功すれば、何もなければ4年に1回実施することになる衆院選のサイクルを変更できる上に、来年9月に行われる自民党総裁選でも安倍氏が勝利する」としたうえで、政治ジャーナリストの歳川隆雄氏のコメントを引用。「投票率が低くなったとしても、衆院での過半数確保は固い」と紹介している。
歳川氏は8月に書いた内閣改造に関する記事で、安倍首相と菅義偉官房長官は秋には衆院を解散するシナリオを用意しているのではないかと予測していた。
内閣改造で焦点となったのは、石破茂・元自民党幹事長のポストだった。当時は首相が提示する大臣ポストを、石破氏が固辞していると報じられたが、ある時を境に石破氏が大臣就任へと報じられるようになった。このポイントとなったのは石破・菅氏の対談で、このとき菅官房長官から石破氏に、衆院の早期解散シナリオが打ち明けられたのではないかというのだ。
野党の選挙準備が整っていないこの次期を狙って選挙を実施すれば、自民党が勝つことは間違いない。そのまま2015年の総裁選を行えば、安倍首相が再任することも確実だ。次期総裁の座を狙っていた石破氏に「そんな状況でも、無職でいるのか」と菅氏は問いかけ、説得を行ったのではないかと歳川氏は分析していた。
とはいえ、FTの記事は大臣らのスキャンダルが相次いだり、賃金上昇が難しい状況が続いたりで内閣支持率が先細りしていることをあげ、解散総選挙は「首相にとってギャンブルのように見える」と指摘している。
■「原発再稼働や集団的自衛権関連法案の審議の前に」ロイター
ロイターUS版も安倍政権の支持率の低下を指摘し、政界関係者の話として、選挙後の政権の課題を紹介。「安倍氏は、原発再稼働や(集団的自衛権を巡って)自衛隊が戦後初めて海外で戦闘に参加できるようにする(安全保障関連の)法律の審議など、評判が良くない政策課題が続く来年を前に、現在の地位を確固たるものにしておきたいのではないか」と報じた。
集団的自衛権は、7月に行使容認の閣議決定が行われてはいるものの、実際に自衛隊が海外で活動するためには、根拠となる個別法の整備が必要となる。安倍政権はこれら法案の審議を2014年秋の臨時国会で行うとしていたが、沖縄県知事選などを理由に断念。2016年1月から始まる通常国会まで審議を先送りするとしていた。
これらについては、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)や、韓国の中央日報も自民党関係者の話として、同様の内容を報じている。
WSJはさらに別の記事で、選挙での勝利は、安倍首相が進める「労働規制改革」や、「農業規制改革」を推進することになると指摘。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の締結が現実的となり、投資家にとって追い風となるとしている。
■「外遊中の報道はスマートで計算づく」ディプロマット
外交・安全保障専門ニュースサイトのザ・ディプロマットは、このニュースが報じられているのが安倍首相の外遊中であることに着目。「外遊中の報道は、スマートで計算されたもののようだ」としている。外交の成果は国民に良い印象を与え、安倍首相の株を上げることにつながるためだ。
特に中国の習近平国家主席との首脳会談の実施は、関係改善に踏み出したことを印象づけることができる。会談後の記事では「重要なのは習氏と安倍氏の二人の関係ではなく、2国の外交官が再び交流を持てたこと」として、関係改善を進めるための最初の1歩になったと評価している。
■「政治的理由なら正解だが、政府としては間違った選択」NDTV
インドのニューデリー・テレビジョン(NDTV)は、政策研究大学院大学副学長の増山幹高氏のコメントを掲載。増山氏は、「連立与党を維持する戦術としては、この時期の解散は正解。失う議席も限定的。しかし、政府運営としてはふさわしくない」と述べたという。
スイス放送協会の海外向けニュースサイトであるスイス・インフォも、三井住友アセットマネジメントの武藤弘明シニアエコノミストの同様のコメントを紹介。「早期解散と増税先送りは、短期的には、現政権の政治的な優位性を与える。しかし、日本の財政政策への信頼性は、将来の日本国民に悪影響を及ぼすことになる」としている。
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