"おひとりさま"で外食するのが不安な人へ 「大丈夫。むしろ喜んでくれる店もあります」

「ひとり酒」を楽しむ女性の姿を描いた漫画『ワカコ酒』作者の漫画家・新久千映さんに、「ひとり飲み」の魅力や「ひとり飲み」に向いているお店を見つけるコツ、「ひとり飲み」を楽しむために知っておきたいポイントなどを聞いた。
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Aya Ikuta

みんなでワイワイお酒を飲むのも楽しいけれど、たまにはひとりで、ちょっと良いお酒と美味しいおつまみを、まったり楽しみたい――。

でも、「おひとりさま」で雰囲気の良い居酒屋や小洒落たレストランに入って良いものなのか...。お酒もあんまり飲めないし、なんとなく気が引けてしまう――。そんな思いに駆られることはないだろうか。

漫画家・新久千映さんが描く『ワカコ酒』の主人公・村崎ワカコは、そんな思いを持つ私たちの理想のように映る。仕事終わりに居酒屋のカウンターで、好きなお酒と、それによく合うおつまみに舌鼓を打ち、思わず「ぷしゅ〜」と嘆息...。

黙々と「ひとり酒」を楽しむワカコの姿を描いてきた新久さんは、「飲食店の人はお客さんが『ひとり飲みかどうか』『お酒が強いか弱いか」なんて気にしていませんよ」と語る。むしろ、「ひとりのほうが喜ばれることもあります」という。一体どういうことなのか。

「ひとり飲み」の魅力や、「ひとり飲み」に向いているお店を見つけるコツ、「ひとり飲み」を楽しむために知っておきたいポイントなどを新久さんに聞いた。

「ひとり飲み」に向いているのは、どんなお店?

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——新久さんが「ひとり飲み」を始めたきっかけは。

10年以上前、ちょうどワカコくらいの歳で25〜26歳の頃ですね。当時は東京に住んでいたんですが、ちょっと気を使う感じの飲み会ってあるじゃないですか。偉い人がいたり、うまく喋れなかったりとか。そんな「いまいち飲み足りないな」と感じた飲み会が、いつだったかありまして。

その飲み会が終わった後、飲み足りないなぁと思いながら吉祥寺を歩いていた時、目についたのが駅の近くにある「三條」さんという、年季の入った居酒屋さんでした。しかもそこは、お好み焼きがあるって書いてあったんですよ。広島人なので、お好み焼きがあるっていうのは嬉しいんですね。そこを見つけて、「ひとりで入っちゃおう!」って飲みに入ったのが始まりだったと思います。

とっても古いお店で、ご年配の大将がやっているんですが、すごく気さくに迎えてくれて。「なんでひとりなの?」みたいな顔もしないし。古いお店ならではというか、懐が深い感じで。とても居心地が良かった。

「ひとり飲みって、全然怖くないんだな」っていうのがそこでわかって、それからひとり飲みにハマっていきました。いま三條さんの前を通ると、ワカコ酒の店って手書きで描いてあります(笑)

——そんなこぼれ話があったんですか(笑)。

私が三條さんに初めて行った時は、まだ『ワカコ酒』も始まってなかったし、私も駆け出しの漫画家でした(笑)。出身地の広島に帰ってからは、とんと行ってなくて...。

モデルにしたお店を『ワカコ酒』で描いた頃には、それからだいぶ時間が経ってしまいました。その後、吉祥寺に行く機会があったので『ワカコ酒』をお持ちしたんですよ。そうしたら三條のおじちゃんは「あれ?誰だっけ?」って(笑)。

「漫画を...」と自己紹介したら、「あぁ!九州の人でしょ?」って言われたので、「いや、広島出身ですよ」って(笑)。そんな微妙なリアクションだったわりに、今は「ワカコのお店」って大々的に書いてくれている(笑)。そういうところも、すごく味があって大好きなんです。

――確かに、味がありますね(笑)。ひとり飲みに向いているお店をみつけるコツって、なにかありますか。

おすすめしたいのは、「三條」さんのような古いお店ですね。繁華街の中で昔から残っている古いお店って、ずっと続けられるからこそ、いいお店なんだと思います。

それに古いお店をやっているのは、だいたい年配の方なので、すごく懐が広い。「お客さんはお客さん」という感じで、あまり詮索してこないですし。

——そういえば、新久さんがお住いの広島には美味しい日本酒がいっぱいありますよね。

有名な所だと「宝剣」とかありますが、一番好きな銘柄は「賀茂泉」ですね。フィリピンのドゥテルテ大統領が来日したときは、晩餐会で賀茂泉の「大吟醸 皇壽(こうじゅ)」という良いお酒が出されたと聞きました。

ちなみに、同じ広島の「賀茂鶴」も美味しいですよ。2014年4月にアメリカのオバマ大統領(当時)が来日した際、安倍首相との会食で飲まれていたのが「大吟醸・特製ゴールド賀茂鶴」というお酒でした。

隣の席の人に話しかけられるのが不安...どうすれば良い?

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——飲んでいて周りのお客さんから、「お姉ちゃん、ちょっと一緒に飲もうよ」などと言われることは...。

そこまであからさまな人はいないですよ(笑)。でも狭いお店で、カウンターで隣り合ったりすれば、男女問わず自然とお話することはありますね。こっちも最初は全然喋らないんですけど、2〜3杯飲んでくると、ちょっと喋りたくなることもあります。

もちろん、店員さんに注文した時以外、一言も口をきかずに帰る日もあります。その時々の場に応じてといった感じですね。

たまに飲みに行った先で、隣の席の人が「あそこも美味しいよ!」って教えてくれたりすることがあります。仕事柄、そういうのは全部メモして、そのメモを頼りに次に行ってみるっていうことも多いです。誰から聞いたんだかわからないメモがいっぱいあります(笑)。

——私自身も経験があるんですが、隣の人に話しかけられた時に、「自分からも何か話題を振らなきゃ」という義務感にかられてしまう。かといって、何を話せばいいのか...。そういう時ってどうすればいいですか。

話したいことがあれば自分から話せば良いですが、そうでもないなら自分から話題を振らなくても大丈夫です(笑)。「あぁ、そうなんですか」と、相槌を打つだけでも良いと思いますよ。ムスッとするとか、感じ悪い態度をしなければうまくいくと思います。あまり深く考えず、雰囲気を壊さない程度に話せば良いのだと思います。

もし入ったお店が、「隣り合ったら話さなきゃいけない」という暗黙のルールがあるお店だったら、次から行かなければ良いだけです(笑)。まずは自分のペースで飲めば大丈夫ですよ。

「ひとり飲みなら、お酒と食べ物にじっくり向き合える」

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——新久さんが考える「ひとり飲みの良さ」って、どんなところですか。

お酒と食べ物に向き合えるところですかね。誰かと食べると、もちろん食べる食事もメインではあるんだけど、食事をツールにしてその人との対話、コミュニケーションを楽しむことになる。

でもひとりだと、向き合うものは目の前のお酒と食べ物しかなく、すごく真剣に飲めるし、食べられる。「人と向き合うか、お酒や食べ物と向き合うか」の違いですね。ひとりだと、じっくり味わえます。

——ひとりで飲む場合、おつまみの選び方のポイントとかってありますか?

まずは量ですね。若い人なら沢山食べれるかもしれないですが、あれもこれもと頼んで、もし残したらもったいないですから。品数が食べられないと思ったら「今日は3品くらいだな」と、何を注文するか狙いを定めておくと良いですね。

あとは、どういう飲み方をするかによりますね。私はお酒と合わせたいので、ビールを飲んでいたらビールに合いそうなものを。最終的に日本酒にしようと思ったら、日本酒に合うものも頼みます。

お店が空いてたら一品ずつ頼めばいいですが、ちょっと混んでいる時や、時間がかかりそうなら、最初に2〜3品頼んでおくのがいいですね。そういう時は「このあと、どういう方向で飲み抜くか...」と考えます(笑)。

「ひとりで飲みに行けば、むしろ喜ばれることも」

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——中には「ひとり飲みをしたいな」と思いつつも、ハードルが高いと思っている人もいるかと思います。そんな人たちに向けて、アドバイスはありますか。

もしお酒が飲める人なら、私が初めひとり飲みをした時みたいに、ちょっと酔った勢いでお店に入るのはいかがでしょうか。飲めば自分の中のハードルが既に下がってると思うので(笑)。人とちょっと飲んだ後に行ってみるとか、家で1杯ひっかけてから飲みに行くのもありだと思います。

それほどお酒が強くない人なら、例えば誰かと行ったお店で「ここは雰囲気が良さそう」とか「ひとり飲みをしている人がいたな」というお店を覚えておくといいですよ。

誰かと一緒にいった時に、「ここって、ひとりで来ても大丈夫ですか?」って店員さんに聞いておくのも良いですね。そうしたら大抵、「全然大丈夫ですよ。是非いらしてください」って、言ってくれます。こうやって一度、下見的に行ったことのあるお店に、次は一人で行ってみる。中の様子もわかってるし、心理的にも行きやすいと思います。

飲食店の人は、個々のお客さんが「ひとり飲みかどうか」「お酒が強いか弱いか」なんて、こちらが思うほど気にしていませんよ(笑)。むしろ、ひとりで飲みにきたお客さんは喜ばれると思うので、ぜひ安心して行ってみてください。

新久千映(しんきゅう・ちえ)

広島県出身。2006年コミックバンチ増刊号にて読み切り「痛快!堀田クリニック」で掲載デビュー。現在、月間コミックゼノンで『ワカコ酒』、WEBコミック ぜにょんで『タカコさん』を連載中。単行本『ワカコ酒』『タカコさん』(徳間書店)、『Yeah! おひとりさま』(朝日新聞出版)、『新久千映のねこまみれ』『新久千映のねこびたし』(ホーム社)など。

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ハフポスト日本版は、自立した個人の生きかたを特集する企画『#だからひとりが好き』を始めました。

学校や職場などでみんなと一緒でなければいけないという同調圧力に悩んだり、過度にみんなとつながろうとして疲弊したり...。繋がることが奨励され、ひとりで過ごす人は「ぼっち」「非リア」などという言葉とともに、否定的なイメージで語られる風潮もあります。

企画ではみんなと過ごすことと同様に、ひとりで過ごす大切さ(と楽しさ)を伝えていきます。

読者との双方向コミュニケーションを通して「ひとりを肯定する社会」について、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

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