公衆トイレの「ネーミングライツ」(命名権)を企業に売却して資金を得る自治体が増えている。ネーミングライツはアメリカでスタート、2000年代からは日本でも採用する自治体が増えてきたが、その多くはスポーツ施設や文化施設だった。しかし、現在は公衆トイレにまでその対象は広がっている。東京都渋谷区では9月1日から区内8カ所の公衆トイレのネーミングライツ事業者の募集を始めた。そのねらいとは?
■財源確保し、「また来たくなる公衆トイレ」にリニューアル
2013年6月、渋谷区の恵比寿駅西口公衆トイレが「恵比寿KANSEIトイレ」としてリニューアルした。渋谷区とネーミングライツ契約を結んだのは、下水道の維持管理などを手がける企業「管清工業株式会社」だ。
「恵比寿KANSEIトイレ」(提供:渋谷区)
契約期間は2016年3月までで、契約料は年間135万円。「清潔感のあるトイレ」「安心安全なトイレ」「におわないトイレ」をコンセプトに、下水道管理維持の専門業者ならではの技術力を駆使して、トイレ室内に消臭効果の高いコーティングを施しているという。
渋谷区では2009年からこうした区内の公衆トイレのネーミングライツを導入している。その理由を渋谷区土木清掃部緑と水・公園課ではこう語る。
「ネーミングライツで財源を確保することで、快適な施設の維持管理、利用者サービスの向上をはかっています。渋谷区の場合、大きな目的のひとつとして考えているのが、地域イメージの向上です。渋谷区の公衆トイレは区民の方だけでなく、多くの観光客の方も利用します。トイレが汚ければ、また渋谷区に来ようということにはならないと思いますので」
現在、6カ所の公衆トイレでネーミングライツ契約を結んでいる渋谷区。9月1日からは来年度からの事業者を新たに募集している。企業にとって、公衆トイレのネーミングライツはどのようなメリットがあるのだろうか。
「公衆トイレのネーミングライツは、京都市や横浜市などでも行っていますが、渋谷区は数が多いと思います。募集にあたっては、契約料を年間10万円以上としていますが、たとえば観光客や訪問客が多い渋谷駅前に、その金額で名前を出すことは広告としても有効なのではないでしょうか。利用者の方たちからは、公衆トイレがきれいになったという声も頂いています」
「恵比寿KANSEIトイレ」の女性トイレ(提供:渋谷区)
ネーミングライツといえば、スタジアムやコンサートホールなどの大規模公共施設への導入が知られているが、企業にとっても契約料は高額になり、参入のハードルは高い。鳴門教育大学の畠山輝雄准教授の論考「公共施設へのネーミングライツの導入の実態と今後のあり方」(「自治総研」2014年1月号)によると、公共施設のネーミングライツを導入しているのは76自治体にのぼり、全体の10.9%で拡大傾向にある。しかし、参入した4割の企業が「契約金額分の効果が見えない」とアンケート調査で回答したという。
課題の少なくない公共施設のネーミングライツだが、公衆トイレのような小規模な公共施設であれば、少額での契約が可能だ。「また来たくなる公衆トイレ」を目指し、ネーミングライツの試みが広がっている。
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